#60 ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲 6
『ではまずこちらの画面をご覧ください』
艦橋のメインモニターから蒼龍が消え、なにやら違うものが表示されるようだ。
かなり下からというか、業務的プレゼン風になったな。
そこまでして俺に聞いてもらいたい、というのはどれだけのことだろうか?
『この少女の名前はポーラ・アラカルト。16歳。蒼龍教の義務教育の最終学年で、卒業後、巫女課程に進むことが内定していた』
肩までのゆるふわなブロンドの髪をした少女だ。
巫女というより可愛らしいアイドルを目指してほしい、そんなタイプだ。
白い修道服をスーツの上に羽織っているがそれでもスタイルの良さは隠しきれない。
さてここで問題は『内定していた』
過去形であると言うことだ。
『指摘の通りです。現在、彼女は内定を取り消され、現在謹慎処分中だ』
それは大変だな。
そんなことよりさっきから敬語だったり、そうじゃなかったりしてるぞ。
別に普通で構わないぞ。
『すまない。この少女は場合によっては罰せられる可能性もある』
何か問題を起こしたのか?
『結論から言うと戒律を破ったと言うことなんだが』
まあ宗教惑星だ、戒律が法律的な役割なんだろうか?
『いや、法律は別にあって、戒律とは別ものなんだ』
なら教会だか教団だか知らんが、そこの問題ならそれほどたいした罰ではないのでは?
『それが法律的に違反するとして法廷で裁かれることになった』
……それは戒律でも法律でも殺人とか強盗が認められない的な?
『いやそうではないんだ。先に結論から言うべきではなかったな。急ぎすぎた。経緯を説明させてくれ』
慌てるなとは昨日からずっと言っているだろう。
まだ6日も時間がある。
なんならここで一旦休憩するか?
『いやいや、悪いがせめて経緯だけでも聞いてくれないかな?』
それは残念だ。
『この星の義務教育では課外活動も多々ある。その中で年に一度、4年生から参加する課外活動があって、これは学年ではなく縦割りで班を作っていろんな場所でキャンプするというものなんだが』
キャンプ、俺の嫌いなやつだな。
何でワザワザ外に出て、暑いとか虫と戦いながら不便な生活をしなければならないんだと。
バーベキューなど不衛生としか思えない。
会社で毎年7月最終土曜の夜に催し物であるのだが、大抵体調を崩して日曜の休みを寝込んで過ごす。
最悪なイベントだった。
『この課外活動はうちの惑星も管理頭脳のおかげで便利になっているのでな、自然の中で集団で不自由な暮らしをすることで、他人との協力・協調性を学ぶということとまた上の学年の子は下の子の面倒を見ることでリーダーシップを養おうという趣旨なんだが』
建前は立派だが人には向き、不向きがある。
キャンプが得意で成績が上がるというのはどうかと思う。
むしろ宇宙船の適性はそこにはないと思う。
「船長、それは偏見では?」
カグヤ、そうは言うがな……、
『いや、キャンプの意義はとりあえず後にして話を進めさせてくれ』
俺の憤りは蒼龍に止められる。
まあ、仕方ない。
続けてくれ。
『もちろん適性のない子もいるのはわかっているので能力によって初級、中級、上級とキャンプ場は用意されている。そのうちのもっとも優秀な子たちで選ばれたメンバーがとある無人島にキャンプに行って、トラブルに見舞われた』
子供たちだけで?
『そうだ』
引率は?
『子供たちだけでキャンプしないと身につかないからとなしだ』
子供たちだけでは乗り越えられないトラブルだってあるだろうよ?
『そのための管理頭脳だった。基本は子供たち任せだが常に監視は行い、危険がないように配慮していた』
なるほど、大翠では管理頭脳があれば子供でも登山ができる高性能だ。
キャンプくらいなら問題がないのだろう。
『本来ならそのはずだった。1泊2日のキャンプだったのだが急な悪天候で迎えの船がたどり着くことができず、3日間そのグループは無人島に取り残された』
今の技術でも嵐が来たら海を渡れないのか?
『大型の船なら渡れなくもないが、小型のボートしか岸につけない程度の無人島だったのだ』
なるほど無人島が仇になったというわけか。
わざわざキャンプするのにも初級、中級、上級とランク付けするのが悪い。
みんな仲良く初級でやっておけばいいものを。
『その辺については今現場で議論しているところだが、今後の話だ。まあそういう事故が起きたと』
了解だ。
『そういうことになるとは想定していなかったのでな、水だけは大量に用意していたが食糧が全然なくてな』
非常食も?
『そういう事態を想定していないというのもあるが、キャンプだと好き嫌いさせないようにと用意された食材を自分たちで調理して食べさせる決まりで。かつてそれが嫌で非常食を食べて過ごした子がいて非常食の持ち込みがなくなった』
大人がすぐに行けるところならともかく、無人島でそれは安全対策がなってないな。
『子供が雨の中行ける範囲にある果物を取ったところで育ち盛りの少年少女たちには足りるわけもなく、次第に弱っていった』
そうだろうな。
慣れない生活というのもある。
水さえ飲めれば生きていけるというが、子供にそんな過酷なことを言ってやるな。
『そこでリーダーのポーラは一つの決断をした。魚を食べようと』