#59 ドラゴンと宗教と巫女と魚を巡る狂騒曲 5
惑星マイタンの宗教惑星としての成り立ちのあらましは理解した。
さてそろそろ今日の講義は終了するか?
「そうですね、今日は朝の8時から出航手続きをして、そのまま蒼龍との会話ですからね。そろそろジムに行って運動していてもらわないと」
いやもう11時過ぎだ、少し早いが昼飯だろう?
「いえ、船長は少しイレギュラーなことが起きると運動をしない傾向がありますからね。まずは運動してもらって、その後遅めの昼食をとっていただきたいと」
『いや、ちょっと待ってくれ。まだ肝心なところは何も話してないんだが?』
そうは言うがな、蒼龍。
それはお前の都合で、俺に何の益がある?
『いや、それは……』
俺の昼飯を抜いてまで聞く必要性があるのか?
お前はそれを強要するのか?
その辺はどう思う?
「そうですよ、蒼龍。そうでなくてもうちの船長は不規則、不摂生、不養生の塊なんですよ。あなたとこのまま話していたら、確実に今日の分の運動しませんからね。とりあえず日課の運動が先です」
どうにもカグヤと俺では目的は一緒だが、理由が違う気がする。
で、どうなんだ?
俺はどうすればいい?
『申し訳ない、休憩してください。また時間があるときに声かけてくれ』
とまあ何とか蒼龍の説得に成功した。
蒼龍はどこか疲れた様子だったが、あれは長年、神として甘やかされたツケだな。
会話が久しぶりで楽しいといいつつも、会話して自分の思い通りに進まなくて、困惑したり気疲れしてもらっても困るんだが。
会話っていうのはそういうもんだよな。
思い通りにいくってのは相手が合わせてくれているときくらいだ。
俺なんか気疲れしたくないから最初から話したくないし、引きこもりたいタイプなんだが。
「船長、蒼龍には厳しいですよね?」
そうかな?
自分の星の人間ならともかく、他所の星の人間にまで、上から目線で話が通じると思うほうがおかしいというもんだ。
単なる話し相手っていうならともかく、何か求められているんだろう?
そうなるとこっちが主導権を取るべきかなと。
黙ってハイハイ話を聞いていたらドツボにはまるなんてよくある話だ。
「それはそうかもしれませんね」
でもそれを言うならお互いさまではないか?
カグヤだって蒼龍には手厳しくないか?
「私と彼では立場がどっちが上か下かというのはありませんから。たとえ私が惑星の民を宇宙に導けないドラゴンだったとしてもです」
うん、そこは触れないぞ。
「今の私の優先順位としてはまず船長ですからね。マイタンで何か悲劇が起こったとしても船長が気にしないのであれば蒼龍の話はどうでもいいと思っています」
じゃあそもそも蒼龍の通信など俺につながなきゃよかったのに。
知らなきゃ幸せなことなんて腐るほどある。
俺は知らなくていいことはあえて知ろうと思わないタイプだ。
「それは、上から話だけでも船長に聞かせてやってくれと言われましたので」
……ああ、上ね。
「はい、上です」
話だけでも、と言ったんだな?
「ええ、その後どう対応しようとも関知はしないと思いますよ」
なら気が楽だ。
できれば予想の斜め下を行きたいものだがね。
「船長の宇宙船への引きこもり具合は、私的にはかなり斜め下ですよ」
そんな気はしてるよ。
「ですのでまず運動して体調管理してください。とりあえず健康な肉体を維持してくだされば少しは安心できますので」
まさかそういう話の持っていき方をされるとは予想外だったな。
仕方ないのでとりあえず食事をあきらめてジムに向かう。
ひとしきり汗を流したあと、昼食。
その時にカグヤと打ち合わせをし、蒼龍との話の続きはやっぱり明日でいいだろうということになった。
結局ゲートまでは時間は短縮できないのだから急ぐことはないという俺の意見が採用された。
『今日はだいぶ遅かったけど大丈夫なのか? 時間はどのくらいある?』
翌日、のんびりと起床。
だらだらと軽めの朝食。
本日発売された雑誌のWEB版を購入し、読書。
その後、ジムで汗を流す。
昼食はピンクウサギの日替わり定食(魚メイン)を食べる。
その後、ゲームでもしようかなと思っていたところにカグヤに言われて蒼龍のことを思い出した。
もう24時間くらい焦らしたほうが面白い展開になるのでは? とカグヤに提案し、若干悩まれたが俺の意見は通らずに今に至る。
『時間がないようなら食事しながらでも酒飲みながらでもいい。手短にまとめたし、資料も作ってみたので見てほしい』
ほら見ろ、カグヤ。
1日焦らしたらこの変わりようだ。
もう1日焦らしてみるべきだったと思わないか?
「これ以上は同じドラゴンとしてみるに堪えないレベルになりそうなのでこれくらいでいいかと」
感想ありがとうございます