#52 密航少女はスペースオペラに必要か(待機編)
密航少女が写真を撮りに行った5日間、先送りになった問題に気をもんだが、その間晩酌で食べた馬刺し、レバ刺しのうまさと酒ですっかり気分がよくなった。
大翠のように肉の生食の文化が2000年以上も続くと調理法や食べ方も洗練されたものになり、レバ刺しも初めて見たタレにつけて食べると生臭さがまったくなく、とてもうまかった。
臭みがあるというジビエ料理も香辛料の量だのタイミングなど的確な調理法が確立されており、イノシシのメンチカツ風、鹿肉の竜田揚げも非常に美味だった。
そんなこんなで気分がよくなり、いつものように引きこもってカグヤに白い目で見られたが気にしない。
人間ずっと問題を抱えて悩むとストレスで禿げるってもんだ。
「ストレスをためないようにと言い続けてきた私が言うのもなんですが、船長ってストレス感じるのですか?」
失敬だな、感じるよ。
この前の密航少女の件だってストレスだったよ。
ただ俺の場合、たまったストレスは人と会わずに引きこもるとだんだんとゲージが下がっていくんだよ。
社会人時代もたまの休みを引きこもっておくことで、どうにか回復して40代でも毛髪に深刻なダメージを受けずに済んだんだよ。
そういった意味ではクズノミヤ、ブラックだがそれでも休みが週一でもあったことだけは幸いだったな。
「なるほど理解しました。あと頭髪がなくなっても育毛技術も発達していますのでご安心ください」
その技術を日本にもっていってみろ、すぐに億万長者になれるぞ。
「ちなみに一人でさみしいっていうのはないのですか?」
それも生前よく聞かれた。
が今のところ思ったことがないなぁ。
人付き合いが煩わしいとしか。
たまに飲みに行きたいと思ったが一人で飲み屋に入りにくくて、仕方なく誰かと飲みにいってたくらいなので、イザヨイの中の食堂で一人居酒屋ができるのはすごく幸せだな。
「いっそサブユニットの居住区に日本の居酒屋やスナックやショットバーを再現しましょうかね?」
いやそこまでしなくてもここの食堂だけでも事足りてるぞ。
一人だからカウンターでも使い放題だし座敷も気楽だし。
「たまにはメインユニット以外の場所に行ってもらいたいと思ったのもあります」
そう言われたらいまだにこのユニット以外に行ってないな。
……まあ慌てることもないだろう。
宇宙に出てまだ2か月ほど。
暇を持て余して徘徊するよりはましだろう?
「それはそうなんですけどね。まあ居酒屋はともかく客室を改造してカウンタータイプのショットバーでも作りましょうか?」
それをするなら俺の部屋、寝室しか使ってないからリビングのほうに作ってくれよ。
大きいのじゃなくていいから、ビールサーバーとウイスキーがちょっと置いてあればいいから。
「……やめておきましょう。これ以上船長が部屋からでなくなりそうです」
気が付かれた。
「別件ですが、この前の密航騒ぎの件で精肉業者がお詫びにと肉を送ってきました」
詫びなら値下げでもよかったのにな。
「異物混入対策をしたということもありますので、物品送ったのでしょう」
そういうことか。
……ってことはあの密航少女は精肉店から侵入したのか?
「いえ、地上側の宇宙港への運搬用エレベーターに忍び込み、上昇中にコンテナに忍び込んだようです。ですので簡単に開かない対策をしています」
それだと宇宙港のエレベーターの管理も悪そうだが、それは何かしたのか?
「もともと無人で管理頭脳で動いてますからね。許可のない人間が来たら対応するようにした模様です」
おい、宇宙港なんて重要施設だと思うんだが、今までその程度のこともしていないのか?
「それは星によるとしか。この星ではわざわざ宇宙港に忍び込もうという人間がいなかったので、そんな対策を思いつきもしなかったのでしょう」
問題が起きなければ気が付かないという種類の事故やトラブルは多々あるが、宇宙港侵入対策って普通やるもんじゃないのかねぇ?
宇宙港がテロされたら被害甚大じゃないのか?
「擁護する気もないのですが、爆発物の対策はされています。爆発物を持たない人間が忍び込んでも何もできない。すぐに対応できるという判断でしょうか」
まあ確かに対応したわな。
でも起きて対応するのと起こさないように対策しておくのでは違うぞ。
「特に大きな戦争もテロも体験したことがない惑星の住人と、ドラゴンを倒した後に人間同士で戦っている惑星の住人では考え方が違うのですよ」
なるほど、結局そこに落ち着くのね。
サブタイトルが思いつきません。
素直に○○編ではなく数字にするべきでした。
次のシリーズはそうします