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#51 密航少女はスペースオペラに必要か(選考協議編)

「船長的にあの少女は連れて行きたくないのですか?」


 どこに連れて行きたい要素があった?


「顔とか?」


 どんなに顔やスタイルがよくてもあの性格は疲れるだろう。

 絶対どこの山行っても、なんか違うっていって写真撮らないタイプだぞ。


「それはありえますね。そもそも宇宙船の閉鎖環境に適応できそうな感じにも見えませんので、道中大変かもしれませんね」


 ちなみに閉鎖環境に適応できない場合どうなるの?


「さまよったり、走り回ったり、暴れたり……最終的には発狂するので、その前にコールドスリープですかね」


 おお冷凍睡眠。

 SF的だ。


「あんまりお勧めはできないんですよね。解凍に時間がかかるので、いざ何かあった時に起こせないのですよ」


 事故があるかもしれないし、ゲートも飛べない。


「脱線しましたね、本線に戻りましょう」


 このまま現実逃避したいがそういうわけにもいくまい。

 手っ取り早いのはさっきも言ったが無視して逃げよう。


「まあ追いかける手段もないですしね、手っ取り早いのは認めますが、……もうちょっと解決する姿勢を見せてもらわないと創造主が怒ってきますよ」


 来るかなぁ? 


「だってあの創造主ですよ?」


 ……ああ、来そうな気がする。


「ということで逃げるのは最終手段にして、なにか手を考えてください」


 面倒くさいね。

 日本の就活にはお祈りメールというのがあるんだが、それを送って終わりにしたいもんだが。


 とはいえ俺は20年の人事生活で採用にかかわったのは10年ほどだが、その間にお祈りメールというものを送ったことがない。


 弊社クズノミヤ運送、面接に来た人はよほどのことがなければ、……いやよほどのことがあっても採用が決定している。

 運送会社と言っても運転手のみが社員ではなく、自社の倉庫管理や取引先での倉庫業、それが転じて取引先での業務委託と手広い。

 ゆえに万年人手不足。

 だが募集しても安月給だと人も来ず、来た人間を片っ端から採用している。

 中にはどう見てもダメな人間も多数いて、俺は上に何度も「あれはダメだ」と言っても人手が足りないと聞き入れてもらえない。

 そして入社の際の手続きを仕方なくするが、数か月、下手したら数週間で辞められ、すぐに退職手続きをする。


 はっきり言って時間の無駄だ。

 そのうえ支社長からは離職率が多いのは総務がしっかりフォローしないからだとお説教を食らう。

 本当に採用っていい思い出がない。


 さて今回は現在採用試験中と言っても過言ではない。 

 まあ向こうの押しかけだが。


 実技テストがどうあろうと最初の面接の時点で不採用は決定している。

 あとはどう断るかだが。

 密航するような人間がお祈りメールで終わるとは思えない。

 なるべくなら穏便に収めたい。

 まあ正攻法で行くかね。


「といいますと?」


 この星の写真家の重鎮だの権力者を買収して、密航少女の写真を評価させてはどうだろうか?


「……どこが正攻法ですか?」


 ああいう承認欲求が強いだけの人間は、手段はどうあれ認められたら喜んでそっちに行くよ。


「私が言ってるのは買収は正攻法ではない、ということですけどね」


 それは横に置いておこう。

 プロになっても食っていけるかどうかなんて一握りなんだから、芸術家なんて自己申告でいいのではと思うのだが、そもそも働かなくても食っていける世界だ。

 自称プロよりも賞をとることでプロのほうが付加価値が付く。

 賞があるということはそれを審査する人間もいるわけで、そいつらも人間だろう。

 金に弱い人間もいるのではないか? 


「権力が大きくて買収ができそうな人は何人かいますけど……金額がネックですね」


 儲けが少ないか?


「儲けはZ3-Jほどではありませんが好調です。それをすでにここのコンテンツ購入に回しているので今ある金額で買収できるかどうか、というところですかね。こういうのって相場はないですしねぇ」


 裏口入学的なシステムはないのか?


「それはコネが必要ですし」


 それならワインを使ってみたらどうだろうか?

 Z3-Jではワインで一国の首相にコンタクトをとれたんだ、余裕で何とかなるのでは?


「ワインネタが2回続くと創造主にマンネリだと怒られそうです」


 それを言われるとつらいところだが、そんなに俺は見られてるのか?


「それはまあ、船長はご自分がわざわざスカウトした人ですし、ご覧になってると思いますよ」


 確かに。


 では次善策。

 持ってきた写真を批評する。

 どこが悪いか具体的に言い、まだ霊峰万里を美しくとれる余地がある。

 修行不足だ、出直してこい! って言えばいい。


「むしろそっちのほうが正攻法に思えますが?」


 問題は言いくるめる方法がない。


「船長の詐欺的話術で何とかなりませんか?」


 詐欺って人聞きの悪い。

 めんどくさい押し売りのお断りだと「一度持ち帰って上司と相談します」「上司と相談した結果無理でした」という展開しか、したことがないなぁ。

 今回自分がトップで断る場合――のちのちのことがないので穏便に済まさなくてもいいのだが、そうするにしても適当に写真のことを評する知識がない。


 さっきからモニターには過去の入賞作と密航少女の作品が映し出されているが、技術的なことや表現的なこととか言われてもさっぱりだ。

 ……ただ。


「ちょっと疑問なんだけど?」

「なんでしょう?」


 俺は疑問を口にする。


「……言われてみればそうですね。過去作検索しましたけど船長のおっしゃる写真は出てきませんね。国民性でしょうか?」


 「霊峰万里」がテーマで撮られていない題材がある。

 なら一つ作戦が思いつく。


「可能か?」

「可能かと。そういうのは茶ウサギに任せれば」


まあダメ元でやってみようか。

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