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#50 密航少女はスペースオペラに必要か(質疑応答編)

「ちなみに目的の惑星はあるのか?」

「わかんない。宇宙は広いんだからどこかに万里よりいいモチーフがあるんじゃないの? そこに連れて行って欲しい」


 むしろどこかいい場所まで運べと言わんがばかりである。

 ちなみにカグヤ、いい場所知ってるか?


「万里より高い山はいくらでもありますけど、雄大さとか気高さなんて人の主観によるものですからね」


 密航少女に聞こえないように教えてくれる。

 まあ確かにそうだわな。

 連れて行った、ここは違うって言われたらまた別の場所へということになりそうだ。

 長い旅路をこんなわがままに付き合うのはストレスだよな。

 さてどうしたものか。


「片道でいいなら検討してもいいんだが……その前に一つ聞くが金目のものは持ってるか?」

「お金なら少しは貯金があるけど」

「いや金ではなく金目のものな」


 俺の言ってる意味が分からないのでキョトンとしている。


「私の持ってるもので一番高価なものは……カメラかな?」

「それは売るわけにはいかないな」

「当たり前でしょう!」


 密航少女は眉をあげて抗議する。

 いや、当たり前じゃないのはお前だろうがと。

 カグヤ、説明してやってくれ。


「ではお尋ねしますが、あなたがとある惑星について写真を撮るとします。1日、2日で納得のいくものが取れるわけでもないでしょうからしばらく滞在するとして、その間の生活費はどうしますか?」

「だから少しは貯金があるって」

「この惑星のお金は別の惑星では使えませんよ」

「へ? なんで?」


 カグヤが密航少女に宇宙の貨幣は統一されたものではないことを教える。


「じゃあ向こうの星で支給されればいいんじゃないの?」


 大翠では毎月一定額が支給されているので、他の惑星でももらえると考えたようだが、それは甘い考えだ。

 その星の惑星が保護するのはその惑星の住民のみだ。

 宇宙船乗りなどは自分で稼がないとその惑星で買い物できないどころか、入国手数料も払えない。


「え? そうなの?」


 カグヤは親切丁寧に他惑星に行くリスクを説明する。

 てか働かない惑星の住人ってことなのかね、この意識の違いは。

 旅行するなら移動手段の前に金の心配をすべきだろうと。

 金によって旅行プランにどれほど差が出ることか。


「……じゃあこうしましょう、私のパトロンになって」


 パトロン……後援者、支援者。

 俺が?

 密航少女の?

 なんでさ?


「悪い話じゃないでしょう? 私は将来、歴史に名を刻む人物よ。そんな人間のパトロンだとあなたも栄誉なことでしょう?」


 うん、何言ってるのかさっぱりわからない。


「うん、そうしてよ。絶対損はさせないわ!」


 ものすごくいいことをひらめいた、そんな表情だが俺的には今の時点で損した気分だがな。

 なんでこんな常識のないのに絡まれてんだろうか?


「ね! ナイスアイデアでしょう? やっぱり私は天才だわ」


 俺の星の言葉にある紙一重のほうじゃないのかなと思うぞ、その言動は。


「あなたは私の才能を知らないからそういうのよ、これから送るから見てみてよ」


 カグヤがどうします? という顔で見てくるがまあ仕方ないだろうとしか言いようがない。

 画面に送られてきた万里の写真がアップされる。


「私が一番だと思うのは2枚目の夕焼けのやつね。あと12枚目の月明かりのも」


 さて俺に写真の良し悪しはさっぱりわからない。

 先ほど見た入選作と比べてどうか? と言われてもさっぱりだ。


「駄作だな」


 まあ逆に言うなら密航少女の作品がずば抜けているとも感じない。


「才能のかけらも感じない」

「ちょ、……」

「作品には作り手の性格がでるとはよく言ったもんだ。稚拙で独りよがり。その評価がぴったりの写真だな」

「あ、あんたに何がわかるって言うのよ!」


 まったくわかりません。

 だからカグヤがハッキングしてきた、密航少女が今まで受けてきた批評をそのまま読んでみた。


「自分は才能がある、認められないのは世間が悪い、国が悪いと飛び出すやつは俺の星にもたくさんいた。でもな飛び出したところでそこでも評価されず、そんな自分が認められず腐って、野垂れ死んだやつを山ほど見てきたよ」


 主に漫画やアニメで。


「私はそんなことにはならない!」


 密航少女は画面に顔を近づけて俺に訴える。


「俺に言わせれば才能があるやつはどこでも認められるんだよ。逆に才能のないやつはどこに行っても認められない」


 君は後者だろう。


「違う! 私には才能がある! ただチャンスがないだけで!」

「チャンスなら毎年誰にでも平等にある。そこで埋もれているだけだろう。君は口だけは立派だが、同じ土俵で他の人と勝負にならないから逃げたいのだろう? 目を背けているのだろう?」

「そんなことはない! 私はプロにだって引けを取らない! 目立たないのはコネがないからよ。一度目に触れてもらえればみんなわかるんだから!」


 さてどうしたもんか。

 このまま激高して「もういい!」って帰ってくれないかなあと願っているのだが、必死に食い下がっている。


「天才だの才能があるという割に君は口だけだな。写真家だというなら作品で示したらどうだ?」

「――!」


 俺はもったいぶって一息つき、


「チャンスをやろう。5日後に作品を持ってこい。テーマは『霊峰万里』だ」

「万里を? 5日で?」


 密航少女が動揺を見せる。


「万里は何年も見続けたんだろう? 5日もあればいいものが撮れるだろう? 才能があるんだし」

「や、やれるわよ! 超すごいの撮ってくるんだから!」


 簡単に挑発に乗ってくれる。

 



「で、どうするんです?」


 画面が消えた後にカグヤがたずねる。


「五日以内に出航するってのはどうかな?」

「それは最後の手段にしてください」

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