#49 密航少女はスペースオペラに必要か(自己アピール編)
「私、他の惑星に行きたくて」
まあそれはそうだろう。
人の宇宙船に忍び込む理由などあとは泥棒くらいだろう。
問題はなぜ密航という手段なのかだ。
出国自体はパスポートも必要ない、ただの自己申告。
個々人につけられた生体認証の確認だけでいいのだからスピーディーなもんだ。
「前にこの星に来てた人に連れていってもらおうとして、交渉しようとしてたんだけど、……あの人いつもフラフラ色んな所に出歩いてて捕まらなくて。気がついたらもういなくて」
……またあのポンコツか!
登場率高いが、本当に役にたたないな。
高い買い物をしただけでなく地上で豪遊して金が尽き、逃げるように出港。
Z3-Jでは少しは落ち着いてもらいたい。
「だから今度は最初から宇宙船に潜り込んでおこうと思って」
原因がポンコツクイーンのせいとはいえ、思慮が足りないと思うぞ。
俺が入港と同時に船を降りてたらどうする気だったんだ?
「食べ物は何日か用意してた」
「船乗りはたまの地上だと2、3ヶ月地上に降りていても不思議ではないのだがね」
俺の言葉にカグヤは冷たい目をする。
嘘はついてないぞ、一般的な船乗りはそうだってお前言ってたろ。
そこまで予想していなかった密航少女をはた目に、カグヤを黙らしておく。
「まあどのみち初日で見つかったから、お前は宇宙船の管理頭脳を甘く見すぎだ」
「捕まっても直接交渉できるならいいかなと思ってた」
開封すらせずに入国管理局に突き出される可能性のほうが高いと思うがねぇ。
開封するとしても緑ウサギだし、その後黒ウサギに捕まることだろう。
「それでも他の惑星に行くためにはこれしか思いつかなかった」
他にもありそうな気がするが、話が進まないので黙って聞く。
「私は写真家になりたい。でもこの国の写真家はおかしい。写真家になるにはまず登竜門として万里の写真を撮って認められなきゃならない」
カグヤの解説を交えて理解すると、写真に限らず絵画でもそうだが、毎年開催される「霊峰万里」をテーマとしたコンテストに入賞しなければならない。
大翠の誇りたる「霊峰万里」の雄大さ、気高さなどを作品として表せれない人間に芸術家を名乗る資格はないというのがこの国の常識らしい。
入選できて初めて個展やら写真集が出せるようになり、そこで他の場所を撮るのだという。
「その制度ができて2000年以上、万里は写真に撮られ続けてきた。あらゆる場所で角度で季節で、時間で、天気で、手法で撮られ続けてきた。私だって何年も万里を見続けてきたわ。そして悟ったの、もう万里に未知はない。新鮮な感動はないのよ!」
気を利かせてカグヤが過去の入選作品を見せてくれる。
密航少女のいう通り万里という山が様々な形で表現されている。
シンプルなものから技巧を凝らしたものまで様々あり、日本で言うところの逆さ富士や、ダイヤモンド富士のようなものを見ると人は星が変わっても似たようなことをするのだなと感心する。
搦め手としてか、鏡越しに撮った写真や透明な瓶の中に万里が収まるようにとったものもある。
一見して同じ山とは思えない写真もあり2000年の人の挑戦がうかがえる。
ただ若干違和感というか足りないものがあると感じるのは何だろうか?
「写真ってそういうもんではないでしょう? 見たことのない美しいものや感動したものに触れたときに撮りたくなる、そんなものでしょう!」
カメラなんてスマホの機能でしか使わない人間に、そんなご高説語られてもわからないが。
「この星の写真家はもう終わっている。どこのポイントに行っても、どのタイミングに行っても人だかり。よいポジションをとることに争う人たち。それのどこに芸術がある。目的と手段が逆じゃない」
この国では絶景ポジション争いによるトラブルは日常茶飯事だそうだ。
日本でも似たような話を聞いたことあるな。
「だから私は他の惑星に行って万里以上の山の写真を撮ってやりたい。未知なる山を撮ることで私の力を証明したい」
他の惑星の山の写真を撮っても入選しなければ写真家と認められないのに?
万里よりすごい山を写真に収めてきた、すごいとなるのか?
むしろ万里を誇りとする人からしたら認めてもらえないのでは?
とまあ疑問符しか浮かばない。
「目立てばいいの! 私の実力からしたら賛否あろうとも目立ちさえすれば、見てもらえさえすれば写真家としての実力がはっきりわかるはずだから」
密航少女は自信満々に言う。
さて、そううまくいくとは到底思えない。
楽観的なのか視野が狭いのか。
一度こうだと思いついたら、よく考えずに突っ走るタイプなのだろう。
自分に自信があるタイプの人間は聞く耳を持ってもらえると思えないし、どうしたもんかね。