#番外編 1 とある入国管理官の独白
今回は番外編となります
Z3-Jの入国管理官の視点です
――ファァァッ
人目も気にせず大あくびをする。
入国管理官なんて暇な職業だ。
この惑星Z3-Jに来る宇宙船など滅多におらず、ただ毎日暇を持て余すのみだ。
だから暇を持て余しておるから働くのに、仕事が暇などとは耐えられない、という理由で離職率が高い。
俺に言わせれば、どうせ働かなくても暇なんだから、金をもらえる分この職業はいいのではと思っている。
仕事中でも宇宙船が来なかったらコンテンツを見ててもいいんだから楽なもんだよ。
最近のお気に入りは、この前きた宇宙船が持ってきた惑星ワイズという星のコンテンツだ。
見たことがないものばかりなので暇つぶしには持ってこいだ。
もうすでにこれをパクった、もとい、リスペクトした作品が売りに出されている。
商魂たくましいというか、……やっぱりみんな暇なんだよな。
久々の大型コンテンツに人は群がり、新しいものが生まれようとしている。
これって健全な流れらしい。
惑星ワイズのコンテンツも話題になっているが、もっと話題になっているのはなんといっても例の「呪いのワイン」だ。
宇宙船イザヨイが持ってきたワインによってマーロン三世というセレブが逮捕され、この国の首相と警察庁長官が殴り合いをしたという。
オークションで正規に落札した人間はどんな不幸が起こるのかと注目の的である。
もっともマーロン三世は執行猶予で釈放、保護観察。
首相と警察庁長官は和解したという話だ。
ワインの取り分が2:1という噂だ。
その件で首相が賄賂をもらったのではないのかと一部野党議員が追及を始めたが、賄賂ってなんだろうと誰もが思った。
どうも昔の資本主義だった時代に権力者に便宜をはかってもらうために金を渡すということが横行していたようだ。
でも今の時代、権力者にはかってもらえる便宜ってたかが知れているし、金もらってもそんなに価値がないよな。
古臭い罪を持ち出してまで議会運営を妨げる野党が逆に批判され始めた。
と、今までにないくらいの目まぐるしく変化が起きている。
こんなに一気にこの国に変化が訪れたのは数100年ぶりではないだろうか?
「惑星Z3-J,入国管理局。応答願います」
おや珍しい。
この前のお客さんが去って数日で違うお客さんが来るとは。
今度は声的に女性のようだ。
「こちら惑星Z3-J入国管理局です」
「あたし、惑星パールの……あ、違う。いえ、違うってわけではないんですけど」
モニターに映し出されたウエーブのかかった金髪の女性はワタワタとしている。
大きな両目を何度も瞬きさせ、ふぅっと大きく深呼吸して、
「あたしは最近までパールで定期便の船長してまして、最近独立して初めてこの星に来ました。宇宙船クリスタ、船長のマルチダです」
原稿を読む、そんな感じの物言いだがそこは気にしないでおこう。
「パールっていうと三つ子星でしたっけ?」
「はい、それです。知ってましたか」
「まあ有名ですから」
なんでも近距離にゲートが2つずつあり、片道8日ほどでいける距離の惑星が3つ隣接しているのだとか。
そんな国だと交流が盛んだという。
「売り物はパールのものですか?」
「あ、いえ……それもあるけど、大翠のコンテンツが売れるって聞いて」
おお、待ってました。
「ええ、売れますよ。この前の方が惑星ワイズって未知の星のコンテンツを持ってきてくれたんですけど、それはそれで売れまくったんですけど、この惑星はお隣が大翠ですのでやっぱ一定数の需要があります」
「それはよかった」
マルチダ船長はホッと大きな胸をなでおろす。
「てか、惑星ワイズって?」
「どこかの滅んだ星だそうです。イザヨイの船長が難破船を発見したとかで」
「イザヨイって……赤い宇宙船ですか?」
「そうです、ちょうどどこかですれ違ったのではないですか?」
「……ええ、見ました。その人に大翠のコンテンツが売れるって……教えてもらって」
そういうとマルチダ船長は何か考えだして、何か言おうと口ごもり、何やらメモを取り出して書き始め、それを見て一呼吸置き、
「ちなみにイザヨイの船長の名前って何て言いましたか?」
「えっと、日下部、でしたよ。……聞いてないのですか?」
「いえ、……聞いたんですけど……聞き、とれなくて」
マルチダ船長は小声で小さくぼそぼそっと言う。
ちょっと挙動がおかしい気もするが宇宙船の船長なんかこんなものだろう。
長く働いてると精神を病むというし。
そういう意味だとあの日下部船長は妙に人当たりがよかったな。
こまごまとした入国手続きが完了して宇宙船クリスタの入港準備に入る。
この人にもなにか面白いネタを提供してもらいたいものだけど……、2人続けて事件が起こるなんていくら宇宙が広くてもそうそうないよな。
11/17より連載が開始された、この話の最後の出てきた少女が主役のスピンオフ
「若者の海賊離れを嘆く女神様に変身できる眼帯をもらったけど、あたしにそんなのできっこない」
ですが、設定に本編との矛盾が生じていました。
書いている間に何とかしようと思っていた矛盾が1点と、すでに書いてしまっていて、今日気が付いた矛盾が1点。
どうしようかと思ったんですが、まだ被害が少ないうちに畳んで、もう一回設定を練り直したいと思います。
ブックマークしてくださった方、評価してくださった方には申し訳ないのですがご容赦ください。