#47 密航者
密航者って……まあそんなこともあるのか。
「すでに入荷作業が始まっているのですが、荷物の中に隠れていますね」
何ていうか古典的だな。
でもそれだけだと密航者とは限らないのでは?
泥棒の可能性もあるのでは?
「盗む手段のツールはなく、手荷物に私物と食糧をもってますからね。まあ密航者でしょう」
そうですか。
それでもう拘束したの?
「船長の指示をもらってからにしようかと」
とりあえず艦の中には宇宙港のロボットが運んでいる。
そこをウチの作業服を着た緑ウサギたちが検品するときに生体反応を発見し、カグヤに報告した。
現在は開封をせず、邪魔にならない場所に運び、軍服を着た黒ウサギたちが見張っているそうだ。
「普通の対応は?」
「拘束して宇宙港の連絡、引き取ってもらうですかね」
なるほど普通だ。
「……ちなみにこの世界だと密航ってどういう位置づけ、……というか罪なんだ?」
ふと疑問を口にする。
惑星から無断に出るのはどれほどの罪なのだろうか?
「惑星の住民が宇宙に出る分には簡単な手続きさえすれば問題はありません。ただ手続きをせずに惑星外に出た場合、連れて出た宇宙船が罰せられます」
「なんでだよ!」
カグヤはモニターの密航者のいるコンテナを指さす。
「人間が検品するのではなく管理頭脳が検品しますからまず漏れがありません。入荷物の爆発物チェックと生命反応チェックは義務付けられてますから、というよりもするのが当たり前の作業です」
まあ確かに自分の船に爆発物とかテロリストとかが入ってきたら困るわな。
当たり前の確認行為だ。
しかも検品に人的ミスがないというのがいいな。
生前、検品のミスにどれだけ苦労したことか。
頭を下げ、対応し、社内には同種の事故の起きないように連絡を回し、その後ミスをしない対策を考えと……。
ああ、いかんいかん。
気持ちが陰鬱になる。
「それにしてもこっちが悪いことになるのか?」
「密航者がいると気がついていながら惑星外に連れて行くということになりますので犯罪です」
気がついていませんでした、スイマセン。
では通らないのか。
「相手が未成年なら未成年者略取・誘拐罪になります。成人でも誘拐罪は避けられません」
勝手に乗り込んできてそれは冤罪だと思うんですが?
「相手の密航の証拠映像を用意すればするほど、こちらが気がついていることを証明するという悪循環です」
この時点で発見しているではないか?
それでも出航したのは連れ去る気だったのだろう?
……なるほどこれは詰んでいる。
「……すぐに入国監理局に通報しよう」
迅速な報告、それこそが身を守る術だ。
最適解だ。
「そうですか」
カグヤはやや残念そうな顔をする
「なんだ不満か?」
「いえせっかくですので、ボーイミーツガール的に恋に落ちるとかしないかなと」
ボーイでなくおっさんですがね。
てかガールなのか、密航者は?
いやまあそこはとりあえず置いておくとして、
「本気でそう思うならリスクを先に言わないことだな」
「船長に習って聞かなければあえて教えない。誤解するかも知れないができればそのまま誤解してほしいという感じでいこうかと思ってたんですけど、……密航の罪について聞かれましたしね」
頼むからやめてくれ。
安全最優先でお願いする。
前も言ったが俺は地味で堅実で石橋を叩くタイプだ。
「前聞いた時から石橋を叩くことが増えた気がします」
まあ事実だしな。
「前も言いましたが信じられませんが、長くなりそうなのでおいておきましょう」
おかしい、どうしてカグヤは信じないのだろうか?
2か月も一緒にいればわかるもんだろうよ。
「わかったうえでの発言ですが?」
どうにも平行線だ。
一度きちんと話をつけるべきだ
だが今は確かにその話は置いておくべきだろう。
「助かります。あと入国管理局が密航者の確認にくるそうです」
てかそもそも宇宙港にくる時点で生体反応の確認をすべきではないのか?
「宇宙港は爆発物のチェックのみですね。積み荷の管理まではしてません」
ああ、そうですか。
「ちなみにその密航者はどんな荷物に潜り込んだんだ?」
そもそも今ここについたばかりなのに何を急いで入荷したんだ?
「船長がいつ食べたいとおっしゃっても大丈夫なようにと生食用の肉を最優先で入荷したんですけど」
密航者の進入経路はどうなってるのか知らんが、その肉の業者にクレームいれとけ。
異物混入って。
「食用でない肉が入っていた、の方が慌てて対応してくれそうですが」
どっちでも構わんが……その言い方だと食用にして持ってくるとか言わないよな?
……いくら肉を何でも食べる星だからってそんな文化はないよな?
「ご安心を、この星に限らず宇宙にその文化はありません」
それはよかった。
どうしても異文化は知らないことが多いから、日本的には冗談でも本気でされると怖いからな。
「船長の思慮深さというか用心深さは宇宙船の管理頭脳としてはありがたいのですが、スペースオペラを補佐するドラゴンとしましては、もうちょっとトラブルに首を突っ込んでもらいたいところですが」
心配するなカグヤ。
基本、俺は運が悪い。
ブラック企業を辞めて最後の日に、部屋に支社長が押しかけてきてショック死するくらいだぞ。
どう考えても運が悪い。
自分で言うのもなんだがたぶん半端なく悪い。
俺がどんなに最善手指してても、トラブルは向こうからやってくるものさ。
仕事が忙しい時に限って妙にアイデアが浮かびます。
書きたいけど書けません。
明日は番外編を投稿しようと思います。
本当は50話突破記念にと考えていましたが、50話が連続した話の最中ですので、今のうちに投稿しておきます。
来週とも考えましたが、今やっておくのが一番ネタ的においしいかと思いまして。
明後日からは大翠編「密航少女はスペースオペラに必要か」を投稿します。