#41 常識の時間 6 (宇宙船の入手法)
「しかしまあ、あんなのでも宇宙船手に入れられるんだな」
1500秒のオーバーブースト終了後、カグヤに問いかける。
「宇宙船の入手手段は星によって違いますが、多くの星では希望者はまず閉鎖環境適応力を見られます」
俺は閉鎖環境にいる実感はないけど言っている意味はわかる。
宇宙船に圧迫感を感じるようではダメなんだろう。
でも宇宙船って広いよなぁ。
地球で映像で見てたスペースシャトルの狭さに比べたらどれだけのもんよ。
何度も言うが寝室だけで寮の一部屋より広いんだぞ。
いや、クズノミヤ寮が狭いだけだと言われたら何の反論もできないが。
「その後ゲートシミュレーターで練習し、成功率や適性を見られます」
俺のボヤキを無視してカグヤは話を進める。
ここまでで半分近く減るそうだ。
40mや35mはともかく30m級なら成功率高そうなもんだがなぁ。
失われた運転という名の技術は宇宙進出の足枷になるのか。
「それに合格した人は、まず国の所有する宇宙船で隣国への定期便に同乗します。帰国後、再度まだ宇宙船が欲しいか意思確認をします。大半はここで脱落します」
このイザヨイは俺のカスタマイズにより施設・設備が少なめだが、これより施設・設備が多い宇宙船に乗って、1ヶ月程度で暇をもて余し、精神を病むって異星人はどれだけ弱いのだろうか?
「その段階でもまだ宇宙船が欲しいという希望者に、国は契約を持ちかけます。さすがに宇宙船は個人が持つ資産としては高額ですので、まず臨時公務員となり国所有の宇宙船の乗組員として採用されます」
星間定期便の乗組員を○○年するとか、ゲートをいくつか使わないとたどりつかない星へ、年単位の航行を○回行うとかいう契約。
「契約満了できたなら退職金として宇宙船をもらえます」
退職金としては豪華だなとは思うが、国からの払い下げが大半である。
払い下げとはいっても国家所有の宇宙船の数がそんなにあるものでもないので、希望者に対して数が足りなさそうな気がするのだが、そもそも10年以上も宇宙生活をしていたら、契約満了の頃にはもう宇宙はいいかなという気になる人間も多いらしい。
その場合は宇宙船の代わりに金銭がもらえる。
俺もクズノミヤ運送で20年働いたら、もう働かなくてもいいかなと思っていたのでその気持ちは理解できる。
働かなくていい世界ならなおさらだろう。
まあ俺の場合、やめたことを実感する前に死んだのは納得のいかないところだ。
もっというなら退職金が振り込まれる前で1円も使ってないのもさらに悔いが残る。
「契約満了後も星間定期便の運転を長く続け、新品の宇宙船をもらえるまで働き、それから宇宙に出る人もいますよ」
はあ、それは根性があるな。
まあ寿命が長い異星人だ。
今後長く乗るなら新品の方が愛着も湧くし、好きなようにカスタマイズできるからいいかもな。
「さっきの海賊のことですが」
無駄な努力だったな。
中古といえどもメインユニット以外のコンテナの変更は金さえあれば、いくらでもできるだろうに。
その情熱を違う方向に向けられないものかね?
「一瞬で手の平返しましたね」
だってその結果が、あのポンコツ・クイーンだろう?
「名前が違いますが、誰を指してるのかはわかります」
新品の宇宙船がかわいそうだ。
いや中古でもかわいそうだが。
「彼女も苦労人のようですねぇ。ハイスクール出た後に25年宇宙船乗りをして、ようやく念願の宇宙船を手に入れて旅をし始めたところのようで」
……あれ?
俺と歳あんまり変わらないのか?
見た目はあんなに若いのは不老長寿だからとしても、社会人生活は俺より長いのに……。
「可哀そうに」
主に頭が。
「ひどい言い草ですね」
そうはいうが俺には他に言葉がない。
「……カグヤ、あの残念なポンコツ・クイーンにZ3-Jの住人からきた購入希望商品リストをくれてやれ」
無一文ならさっさと次の惑星に行けばいい。
とりあえずZ3-Jなら大翠のものを恋焦がれているから何とかなるだろう。
そこそこ稼げることだろう。
だからとりあえず俺と逆方向に進んでもらいたいもんだ。
もう関わりたくないなぁ。
「……船長がそうおっしゃるのなら手配しますが、……問題は無一文になるくらい計画性がなく船の改造につぎ込んだ人ですからね。買ってますかね?」
そこまでポンコツじゃないことを心の底から祈ってます。




