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#38 惑星Z3-J、出航

 出国手続き自体はすんなり終わったのだが、担当職員の上司が出てきてあれやこれやと話しかけてきて面倒くさかった。


 久々にZ3-Jにやってきた宇宙船が、ワインの件やワイズのコンテンツの件で国民に活気を与えたというのに、1週間足らずで出航すると聞き、遅まきながら対応しようとしているのだろう。


 俺が一度も地上に降りなかったことがマスコミのせいだと勘違いされ謝罪される。

 

 今になってマスコミの宇宙港入港の制限を始めたが、何の意味があるのだろうか?

 どうせ降りたら地上で待ち構えているのだろうから、やっぱり降りる気にならない。


 そもそも降りる気はなかったが、マスコミのせいだということにしておけば、地上に降りないことが非常識扱いされないだろうと。

 まあいまだにカグヤは俺を非常識扱いしているがね。


 「むしろZ3-Jの対応が非常識ではないか?」

 「こういう非常事態だからさっさと次の惑星で休みたい」


 こういえば責任を向こうに押し付けることができる。

 何の恨みもないけどごめんね。


 相手からしてみたらどうせ2,3ヶ月は滞在するだろうからその間に少しもてなして、隣の惑星の大翠のコンテンツを持ってきてもらうまでしたかったようだが、それは欲張りすぎだろう。

 あと対応が遅いわ。


 取り付く島なく出航すると言い張ったものだから上司の落胆の色がありありと見える。

 だがこれ以上俺にZ3-Jに悪い印象を持ってもらいたくないのだろうか、出国手数料を無料にしてくれるそうだ。

 次回来た時も出国手数料は取らないのでまたきてね、そんな感じで言われたが俺がワインを持っていることを公言した以上、次来た時も出所したマーロン三世やらマスコミが面倒くさそうだ。

 来ない方向でいるが、まあそれをわざわざ言うほど子供ではない。

 社交辞令でまた来ますと言って、とっとと出航しよう。



 出航してはゲートくらいまではZ3-Jと情報連結ができるのでワイズのコンテンツが売れるそばからZ3-Jのコンテンツを購入しているらしい。

 俺が買えばいいと思っていた、まだ他所の惑星に出ていないコンテンツでは金が余るらしく、余らせても仕方ないと片っ端から購入している。

 ……結局こうなるなら俺選んだ意味なくない?


 この星で物品として購入したものと言えば、米と卵が多めであとは酒やら調味料やらこの星にしかないものを買い込んだらしい。

 あとは俺が適当に選んだ小物が100点ほど。

 最後にワインが売れた金で買った宝石や貴金属。


 倉庫を圧迫するほどの量どころか上手くすれば乗務員室で収まりそうなくらいの少量だ。

 現在いったん全部開封し、次の星で売るように写真を撮り、すぐにアップロードできるように準備しているらしい。


 この惑星で俺がしたことと言えば少し選んだことと、トラブル対応。

 そのトラブルも、ワインさえ出さなければ起こらなかったと考えるとむなしいものがある。


 でもまあそういう経験も必要だと自分を納得させて、ゲートまでの道中をだらだらと進む。



「船長、ちょっといいですか?」


 そんなある日、カグヤが俺を呼び出す。


「なんかトラブルか?」

「こっちのトラブルではないのですが……」


 と前置きして、


「惑星Z3-Jの首相官邸で暴行事件があったそうで」

「それは穏やかではないな」


 俺の感覚だとそういう場所はそんなことが起こらないようになっている、もしくは起こっても揉み消せるようなものだと思っているのだが?


「首相と警察庁長官が殴り合いの喧嘩をしたとマスコミが報じています」

「……それはそれは。原因は?」


 カグヤが困った顔で俺を見る。


「ワインです」


 はて?


「俺が送ったワイン?」

「そうです」


 なにを殴り合いの喧嘩する必要性があるのだろうか?


「首相は試飲用のワインすら警察庁長に飲まさなかったのか?」

「いえ、それは飲ませたようです」


 じゃあ揉めることもないだろうが?


「気前よく飲ませたことで逆に何か裏があるのではと警察庁長官が疑い、実はもう一本オークションに出たモノと同等のワインを持っていることが判明。それも自分が飲む権利がある、ないで口論から殴り合いになるまでそんなに時間はかからなかったようですよ」


 ……ああ、でもそれって俺が悪いのだろうか?


「……私も考えてみてるんですけど、……微妙ですかね。試飲用一本しか渡さなかったらそれこそ飲むときに分け合ったか? 分け合ったとしても量でもめて結局殴り合いになったのでは、という気もしますが」

「…………」


 しばし沈黙したのち、


「よし、俺は悪くない」


 そう宣言する。


 悪いのは人の業、そして人を狂わす酒なのだ。


 酒は飲んでも飲まれるなとはよくいったものだ。

 俺の持ってきたワインでマーロン三世、首相、警察庁長官といった有名人、高官が事件を起こす。

 オークションで落札したスポーツ選手は何も起こさないことを祈るのみだ。


「俺、ワインを一生飲まないでおこうと思うよ。人の人生がこうも壊れると怖くて」

「正直私は船長が怖いですよ」

今回でZ3-J編は終了です。



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