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#36 常識の時間 5 (国家のあり方)

「そもそも普通の船乗りって地上に降りてどうするんだ?」


 とりあえず連絡事項が終わったので、そのまま居酒屋モードに突入する。


「……どうするって、普通狭い宇宙船に長時間いると息が詰まるものでしょう? 大きな空が見たいとか、日の光を浴びたいとか、新鮮な空気が吸いたいとか、……普通人間ってそういう気持ちになるのでは?」

「いまのところそういう気分はないな、幸いなことに」

「幸いというか……病気なのではと疑問を持つべきかと」

「失敬な」


 ピンク、ビールお替り……、この星には米から作った醸造酒があるけどどうかって?

 そうだな、苦みのないのってあるか?

 あるのか、じゃあそれを冷でくれ。

 つまみに製造プラントで作りたての豆腐はどうかって?

 じゃあ冷ややっこでもらおう。


「禁固刑の時も思ったが、俺からしたら異星人がひ弱じゃないかね? そりゃあ俺だって暇つぶしのない宇宙船で数か月は耐えれないかもしれないが、暇つぶしはあるし、自由に動けるし、メシだって酒だって飲み放題なら耐えられるっていうか、ずっと遊んで暮らしてるだけじゃないか?」

「見解の相違ですね。確かにドラゴンを倒すことを選択する星の人間が宇宙に出たことはありませんが、進化の過程でそこまで精神が強化されることはないでしょう」


 パワハラ、オーバーワークで日本人は鬱だのなんやらで病みまくってますよ。

 働く人類と働かない人類ではストレス耐性に差があってしかるべきだろう。


「それは認めます。ですが気が付いてますか? 船長もいまやその働かなくてよい部類のほうですよ。いずれはストレス耐性が低下するのではと」

「言わんとすることはわかるがね。ブラック企業に20年いて、自分もそうだが他人のつぶれていく様を見続けたんだよ。そんなの見てたらここがどれだけ天国かって」


 働かなくていい。

 いやな上司はいない。

 仕事を押し付ける同僚はいない。

 逃げる後輩はいない。

 時間に追われなくていい。

 休日出勤も残業もない。


「こんな幸せがこの世にあったのかと俺は幸せを噛みしめてるね。いま実は夢だった、目が覚めたら仕事だって言われたら自殺する自信すらある」

「本当にそれが船長個人の性質であって、日本人がすべてそうじゃないことを心の底から祈りますよ」



 運ばれてきた米の醸造酒は思った以上に日本酒だった。

 Z3-J特有の苦みもなく、飲みなれた……こういうと語弊があるな。

 どちらかというと得意ではなく、あまり飲んでないからな。

 飲んだことがある日本酒の味と香りがした。

 

「しかし働かなくてもいい世界だと俺の思ってる政治形態とだいぶ違うのかね?」

「それは惑星によるというところですが、……地球で言うところの外交だの防衛だの領土問題なんかはないですね」

「そうなんだ?」


 ピンクが持ってきた冷ややっこに薬味をどうするか聞いてくる。

 鰹節はまだないんだよな? 

 生姜は?

 あるならそれで。


「もともとドラゴンと戦おうとしない惑星の住民はそこまで好戦的ではないですし、自律思考型管理頭脳と永久機関の開発、発展で国家を統一したほうが効率が良くなりまして」


 例えば農業では、その食物が生育しやすい土地で大量に生産したほうが効率がいいのは当然のこと。

 もちろん、天候不順などのことも考えて複数の土地でする必要があるが、世界中の人間にタダで配るには効率化が最重要課題である。


 人が住むのに適さない環境の場所には工場地帯を作る。


 人は環境の良い地区にいろいろ施設がある住宅区をつくり、家賃がなく住める部屋を提供。

 資産さえあれば一軒家を購入することも可能だという。


 そうなると小さな国単位にするよりも惑星内を統一した国家にし、土地を効率よく使ったほうが賢明である。

 人が住む土地を市や州とし、そこで細かい行政サービスを行う。

 国家としては市への予算の管理や農業区工業区の生産管理をして分配管理をするという。

 

「それは……当初はだいぶもめたんじゃないか?」


 確かに効率はいいのだろう。

 正しい国家運営かもしれない。

 だが土着の土地、国など愛着は湧くものだ。

 それがなくなるというのは一筋縄で済むわけもあるまい。


 たとえば俺が実家が没収されて工業区になります。

 新居はハワイに用意しましたので来週からそこに行ってください。

 ハイわかりました、とすんなりいくとは到底思えないのだが?


 国単位で考えてもAという国は農業に適してるので農業地区にします。

 住民はB,C,D国に振り分けられますなどうまくいくとも思えない。


「抵抗は0ではないですが、どの惑星も抵抗はそんなに長くはもたないですね?」

「なんでよ?」

「土地を明け渡す方には優遇処置もありますし、地域全体が同じ場所に移住しますし」


 いや、それじゃあ個人はともかく国家はうんと言うまい?

 

「とはいえ統一政府に参加しないと永久機関も管理頭脳も使えませんし、そしたら不老長寿の医療システムも使えませんからね。やっぱ人間、命と若さには逆らえませんよ。早めに参画して甘い汁吸うほうが賢明ですよ」


 それでも納得いかないものがある。

 俺自身はどうかと言われると、働かなくても済むし、結婚しているわけでないので親が死んだら田舎の土地を遺産でもらっても使い道がないよなと思っていた人間なので、とっとと了承してもいいのだが、その土地に長く住んでいる親はうんとは言わない気がする。

 効率がよかろうが、正しかろうが、寿命が短くなろうが固執する人間が一定数いると思うがな。


「あとは……こうなると文化というか種族の違いでしょうか? ドラゴンに挑むような戦闘民族と平和を愛する民族では考え方が違うとしか」


 肩をすくめていうカグヤ。

 そう言われると返す言葉もなくなる。

 地区によって国によって風習や考え方が違う。

 ましてや他の惑星ともなると俺からしたら禁忌的なことがまかり通ることもあるだろう。


 さもありなんと受け入れよう。

 俺が今この場にいるのは、そういう設定をなんだかんだで受け入れることができる人間だからだそうだしな。


 ピンク、締めにお茶漬けを頼むよ。

 できれば鮭茶漬けにしてくれ。

 ワサビ多めで頼むよ。


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― 新着の感想 ―
女神やドラゴンシステムを受け入れて家畜に成り下がるくらいなら滅亡した方がマシだな。 なう(2025/08/04 18:03:20)
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