#34 常識の時間4 (罪と罰)
「さてマーロン三世の刑はどうなるかね」
画面が刑期予想のフリップを持ったアナウンサーに切り替わる。
「ワイドショーの専門家の話だと本来なら実刑はまぬがれないが、執行猶予でとどまるのではないかと。初犯と未遂ということで」
「コネと金の間違いじゃないか?」
「否定はしません」
銃刀法違反と違法管理頭脳所持はともかく強盗未遂ではなく強盗殺人未遂にすべきだと思うぞ。
「あと公務執行妨害と船長への脅迫もですかね」
「ちなみにこの惑星の刑罰ってどんな感じなの?」
少なくとも働かなくてもいい世界だ。
生活苦や遊ぶ金欲しさの犯罪などなさそうだし、刑罰としても罰金制度など意味がないよな?
「そうですね、犯罪としては船長でいうところの窃盗や強盗は少ないですね。マーロン三世のように誰かが持ってる貴重なもの目当てに、というのは一定数ありますが、各個人が持ってる管理頭脳がセキュリティーになっていますので、未然に防げなくてもほぼ100%逮捕されます」
今回のマーロン三世の件は異星人の宇宙船への強盗ということでごまかす、もしくはコネでもみ消そうと考えていたようで本人的には無謀な挑戦ではないということらしい。
「詐欺や横領、偽造などの知能犯罪と呼ばれるものが比較的多いですかね。あと殺人はスーツや管理頭脳のおかげで防止率が高いですね」
いわゆる監視社会のせいであからさまな犯罪や突発的な犯罪は成功率が低く、やるなら個人を言葉巧みに騙すか、大掛かりに騙すかになると。
そもそも働かなくても生きていけるのに、それでもなお犯罪を犯すというのは人の欲望には際限がないということだろうか?
与えられた幸せの享受、それこそが平穏で幸せな人生ではないだろうか?
「船長の場合、与えがいがありませんがね」
贅沢して怒られるならともかく、贅沢しないで文句言われる筋合いもないと思うのだが?
質素倹約とまではいかないが華美な生活はいりません。
引きこもれるスペースさえあれば。
「刑罰のほうですが船長のおっしゃる通り、罰金はあまり意味がないということで多くの惑星では基本的に禁固刑になります」
「いきなり禁固か?」
「そうです。以前は懲役もあったのですが、単純労働の軽作業にやりがいを持つ受刑者が多く、それをしたいがために再犯、もしくは話を聞いて懲役をしてみたいがために犯罪をするケースが相次ぎまして」
なんとも信じられない話で頭がくらくらする。
とはいえ暇を持て余して働くくらいの社会だ。
そういう展開もあり得るのだろうと納得する。
「ゆえに禁固刑が主流となりました。何もない空間に閉じ込めておくほうが人は苦痛を感じ、もう二度と禁固刑になりたくないと再犯率が減りました。」
繰り返しになるが暇を持て余して働くくらいの社会だ。
そういう人間には強制的に暇を与えるほうが効果的な罰になるのだろうが……なんだかなぁ。
「一番軽い刑で禁固24時間。重たい刑で720時間です。マーロン三世は求刑としては168時間くらいが妥当でしょうか」
「……おい、ちょっと待て!」
「なんでしょう?」
「単位は時間なのか? 日じゃなくて」
「時間ですよ」
俺が何を問題にしているのかわからないのか? と小首をかしげる。
「お前、24時間なんて寝てたらすぐじゃないか! どこが罰になるんだよ」
「船長、おかしなこと言わないでください。病人ならともかく健康な人間が10時間以上寝れるわけないじゃないですか。残り14時間は何もすることなく暇を持て余すのですよ」
俺、生前休みの日は基本引きこもっていたけど睡眠時間も半端なかったぞ。起きては食って寝て、少し起きてアニメ見て寝落ちしてってどれだけ繰り返したことか。
まあ社畜時代の俺は体はともかく精神的には病んでいたかもしれないが。
「マーロンが168時間ってことは……1週間か。そんなの軽すぎないか? てか一番重くて1か月って舐めてないか? 無期とか終身とか?」
「船長、普通人間は1か月も何もしないと発狂します」
カグヤが俺を憐れむ目で見る。
「1週間でも人によっては精神に異常をきたします」
俺、1週間くらいならぼーっとして生きていける自信があるけど?
てか宇宙船の居住区の件とか部屋に引きこもっていることを心配されたり、惑星に降りてバカンスしないことを非常識呼ばわりされたのってこれが原因か?
異星人って退屈に弱すぎなんじゃね?