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#300 トラブルはいきなりやってくる 後編

 ある日、昼休みから戻ってきて午後の仕事の山を見てため息をついているときのことだった。


「カベさん、面接者がこられたから対応お願いします」


 と連絡が来る。


 その頃の俺は面接者の対応を一手に担当していた。

 求人募集からその後の電話対応、面接の日取りを決めて、当日の受付・対応、その後の合否連絡に、入社段取りとなかなか一苦労な業務である。


 さてそんな俺だから会社の受付に面接者が来ると俺に連絡が来るのは間違ってはいない。

 だが予定のない面接者がこられると話は変わる。

 出向き、確認すると。


「3時間後に面接でしたが早くついたのでこれからしてくれませんか?」


 と真顔で言う。

 俺も30分くらい早く来ることは想定内だが3時間は少々驚く。

 それをなんの悪びれもなく「早くしろ」と言い放つ人間性にだ。


 そしてだ、担当の俺が今回の面接のことを知らないのがさらに混乱を呼ぶ。

 まず総務部長の3時間後にスケジュールは面会と書いてあったのは朝の時点で確認してはいた。

 面接ならば俺の方にも情報共有があるはずだから、単に他社の人との面会だと判断していた。

 現時点で総務部長は外に出ていたので電話で確認すると、確かに面接はあり、実のところこっそりと隠れてする予定だったのだという。

 彼は本社の総合職の中途採用の募集の人間で、そちらで不採用になり、支社なら空きがあるから紹介してもいいという話に飛びついたのだという。

 なぜ隠れて面接する必要があったのかというと、本社が送って来た時点で受け入れざるをえないので面接は建前で、ほぼ業務説明だけであるという。

 それだけのことなので終わった後に俺に入社手続きを丸投げという腹積もりだったらしい。


 情報がなくいきなり押し付けられるのは腹立たしいことだが、それ自体はよくあることだから慣れてはいる。

 今回問題はそこではない。


 ……採用、確定?


 出直してくれないかと言えば、


「面倒くさいので早くしてください」


 家が遠いのかと問えば近場だという。

 なぜこんなに早く来たのかと聞けば、


「遅れるよりはよいかと思って早く来ました」


 限度があるわい!

 勝手に早くきて、面接しろってのは通らない、何のための日程調整だろうか?

 こちらにも都合があるので無理だと言うと、


「じゃあ待ちます。どこで待てばいいですか?」


 と居座る。

 あれ?

 こっちが面接する立場だよね?

 面接させていただく立場なの?

 俺が知らないだけでお偉いさんの関係者?


 と一応確認したが縁故でもない。

 一応胸をなでおろしつつ、その日は空きがあったので応接室に放り込んだ。


 3時間も何もない部屋で暇つぶすくらいならどこかに行ったほうがましだと思うんだがなあと、それも地元の人間ならなんとでもなるだろうにとも思ったが本人が待つというし、総務部長の案件だ。

 そんなのに関わる暇もないくらいこっちは忙しいと放置する気でいたが1時間もしないうちに、


「すみません。お茶が欲しいんですけど」


 と言ってきた。

 そうか、お茶が欲しいのか。

 勝手に早く来ておいて、勝手に待っておいてそう言われるとは思わなかった。


 まあしかたないと、休憩室の自販機に行ってペットボトルのお茶を買ってくる(自腹)。


「こういう面接のときって急須で入れたお茶を飲ませてくれるものじゃないんですか?」


 ありがとうございますの一言もなく、質問で返される。

 こいつは大物だろうか大馬鹿だろうか?


 最近は面接のときに「出されたお茶を飲むのは失礼にあたる、マナー違反だ」と飲まれない方が多いのですよ。

 だからもったいないですからペットボトルにしているんですよ。

 飲まなかったらこっちで処理できますしね。


「そんなもんなんですね」


 と嫌味もわからないのか、いただきますも言わずに飲みはじめる。

 うん、わかってはいた。

 こいつは大馬鹿だ、関わってはいけないレベルだ。



「それでも採用となったのですか?」


 カグヤが目を真ん丸にしている。

  

 部長、こいつはヤバい、取ってはダメだと進言するも本社から押し付けられたからと聞いちゃくれなかった。

 だけどすんなりとはいかなかった。


「といいますと?」


 しかたなく入社書類を送ったんだよ、契約書とか誓約書あと準備してもらう必要書類のリストをな。

 多分届いた日だと思うんだよ、ハローワークから会社に電話があった。

 ハローワークは俺の担当だからと電話を受けたんだが、いつもの採用の関連ではなかった。


「なんだったんです?」


 いまハローワークにお宅の出した求人内容と今届いた契約書には内容に開きがある、おかしいとクレームが来ているんですけれどと、その部署の課長から電話があった。

 聞くところによるとハローワークで「違法ではないか、調べろ」と言ってわめいていると言う。

 ハローワークとしてはそれは自分で確認しろと言っても聞く耳も持たずに居座るから困っていると。


 知らんがな!

 と言えればよかったのだがそうもいかず、一応総務部長に確認を取り、



 彼は本社での総合職が不採用となり、支社一般職でなら採用できるということで2度面接させてもらいました。

 その際に給与面のことは説明はしたはずです。

 不満があるようならばこちらに来るようにお伝えください。


 と告げると課長は安堵したのかありがとうございますと何度も礼を言い、電話が終わった。

 

 ……おい、あいつはハローワークでどんな大立ち回りをしたんだ?

 ねえ、部長、もうあいつ取るのはやめましょうよ。

 何度目かの進言をしたが、給与面を説得させ、ほどなく入社した。



「すみません、もうどこをツッコめばいいのかわからないんですけど?」


 俺もそんな気分だった。

 だけど話はまだ終わっていない。


「もうだいぶお腹いっぱいですけど、……そうですね入社後が重要ですよね」


 本人は総務希望だったのだが、まずは弊社の現場を知りなさいと配属させたのだが、まあ行く先々でトラブルを起こして叩き出される始末。

 社内トラブルならまだマシで、客先で怒鳴られ尻ぬぐいに何度も総務部長が走る始末。


「あら、そういうトラブルは船長の仕事では?」


 いや、その時ってちょうど地元中学生の職場体験とか高卒求人のための高校の進路指導の先生への挨拶回りの時期で忙しくてほとんど会社にいなくてさ。

 頭下げるだけなら部長でもできるからそっちは任せてたんだよ。


 まあすると部長も堪えたんだろうな、配属先を問題のある部署にした。

 そこの責任者はナンバーツーの時はまだマシだったのだが、トップになったとたん豹変し、部下にパワハラしまくり、何人も鬱にさせるクズだった。


「ちょっと待ってください、船長の前の職場ってそんなのばっかじゃないですか!」


 ブラック企業をなめるな!


「いえ、自信満々に言われても。……で鬱にさせて辞めさせようという魂胆だったんですか?」


 多分そうだった。

 

「で、どうなったんですか?」


 責任者のほうが先に鬱になった。


「……はい?」


 不思議なことにいじめてもあまり気にしないというか鈍い男で、ムキになっていじめてたらしいんだが、いびればいびるほど自分に迷惑が降りかかるもので、なんか最終的におかしくなってしまって。


「はあ? ……そんなことがあり得るんですか?」


 俺も過程は人聞きだから詳しくないんだけど結果的にそうなったらしい。


「つまりは毒を持って毒を制しきれなかったと?」


 まあそういうことかな。


「ですがダメな人間が1人減ったと考えたらよいのでは?」


 それでも長年働いて仕事がある程度できる人間がいなくなって、残ったのが何もできないどころか破滅をもたらすモンスター社員だぞ。

 あの時はすごく社内がバタバタした。


「でその人は最終的にどうしたんです?」


 他の支社に転勤させることにしたら、地元を離れるのはイヤだと言って辞めた。

 あの時はほっとしたもんだ。


 ……何の話からこうなったんだったっけ?


「えっと……トラブルはいきなりやってくるでしたっけ?」


 ああそうだったか。

 つまりはいつ何時、トラブルがやってくるかわからないから気を抜きすぎると振り回されて大変なことになるぞと。


「こんなうんざりするというか救いのない教訓、初めて聞きましたよ!」



結局何が原因だったかというと、支社総務部長が慢性的な人事不足だから人が余っていたら回してくれという要望を本社に何度も出しており、本社人事部もさすがにあのレベルを採用しないだろうと思いつつも回したところまさか採用したということで。

実際に面接をした役員が後からその話を聞き、「お前はどんだけ見る目がないんだ!」という説教を総務部長と一緒に私も受けたものです。

私は何度もとめたのになぁ。

さすがに部長も悪いと思ったのでしょうか、その日は珍しく晩飯を奢ってくれましたw



さて本編のほうのナンバリングも300話となりました。

ブックマークも6000件を超し、総PV数も800万目前です。

長く続けてきた甲斐もありましたw

もうじき1年となります。


ということで、一度区切りをつけようかと思っています。

突然ですが、次回「第1部完」です

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