#299 トラブルはいきなりやってくる 前編
ヘンダーソンが、もしくはその部下が何か言ってくるかなと不安だったが、何事もなくしばらく過ぎる。
故にニーナとのんびりしていたのだが、ポーラからニーナが好きそうな麺料理を発見したという連絡が来た。
ラーメンの麺を使い、麺と野菜を炒める時にラーメンスープで下味をつけソースで仕上げた焼きそばなのだが、スープもかかっているらしい。
それは焼きそばなのか?
「スープ焼きそば? 食べてみたい」
とギリアムをともなって地上に降りて行った。
という事で一人で楽しく引きこもっていたのだが、レーティアにたまには部屋から出ろと怒られたので、散歩がてら陣中見舞いに来た。
進捗はどんな感じだ、カグヤ。
「どうにもおざなりというか、すっかり忘れていたことをついさっき思い出したような言い方に聞こえますね」
そんなことはない。
信頼の証だ。
「まあどうでもいいですが」
と呆れ顔のカグヤ。
「こっちは順調ですよ。なかなかよい部品がありますし、入荷も早くて助かってます」
進捗率を示すグラフを表示して俺に言う。
ギャラクシーキャノンボールとやらのおかげで宇宙船の技術が高いのか?
「そうですね。他の星と比べるとレベルが高いですし、種類も豊富ですね」
となるとイザヨイは今より速くなるのか?
「いえ、この星の技術は耐久力特化でして」
耐久力?
「ええ、宇宙船って最大出力で飛ぶと船体にかかる負荷が大きいですから普段は押さえて飛ぶものなのです。ですがこの星のレースではスタートから全速力で飛びます。ですので普通の航行の何倍も船体に負荷がかかるのです」
なるほど。
最低限1往復持たさないとレースにならないか。
「ですね。ゲート突入の際に急激に減速しますのでさらに負荷がかかります」
なるほどね。
ギャラクシーキャノンボールの参加要請を拒否して正解だったな。
「私も壊すためにレースをすることは反対なんですけど、船長の場合通常航行で飛んでもゲートジャンプで取り返せるのでレコードは可能かと思いますよ」
そうなのか?
それでもゲート後のオーバーブーストで負荷がかかるんじゃないのか?
「それは今更ですよ。いままでどれだけの出力でジャンプしてきたのか胸に手を当てて考えてください! ……でもまあオーバーブーストはまだ短時間で済みますので、常時最大出力で飛ぶよりは負荷が少ないです」
そうですかい。
「私は船長のことを宇宙最速だと知ってはいますが、あんな変態級のゲートジャンプをされると、船長が凄いのではなく宇宙船が凄いのではと私が狙われることになりそうですので避けてほしいところではあります」
変態って言うな!
てか手動でしかゲートジャンプできないのに宇宙船が疑われるのか?
「ほら人間ってあまりにも常識外なことが起こると疑うじゃないですか? 人間ができる数字ではないなら宇宙船や管理頭脳が特別だって」
まあ言わんとすることはわかるし、お前が特別なことも認めよう。
するとお前をめぐって争いが起こるわけだ。
管理頭脳ドラゴンの争奪戦だな。
「イヤな展開ですね。ドラゴンなんてどこの惑星にもいるというのに」
それもイヤな事実だがな。
でもまあスぺオペっぽいな。
「ですねぇ。きっと創造主は今後の展開にワクワクしてるのでしょうか?」
てかあの女神はこのレースに興味があるのかね?
「まあ、おそらくは」
まあスペースオペラっぽいものなら何でもよさそうだけどな。
「それは否定しません」
俺たちは大きくため息をつく。
「この惑星コンシェルのドラゴンは本当に気楽でいいでしょうね。どう転ぶかはわかりませんけど、いい題材を持っています」
こういうのも運なのかねぇ。
あとは黙って引きこもっておけばいいとはうらやましいにもほどがある。
「引きこもりはうらやましいとは思いませんが、創造主に怯えなくていいのは本当にうらやましいです。私も今回創造主やら龍の女神に関わらずにイザヨイの改装をしていると心が休まります」
と心底ほっとした表情で言う。
まあ気持ちはわからなくもない。
でもまあお前にしろ、ここのドラゴンにしろ、トラブルというものは予想もしないときにやってくるものだと知っておくべきだな。
今日は大丈夫だなと思って気を抜いているときほどトラブルが来るとショックが大きいぞ。
「……船長はそういう経験が豊富ですものね。説得力があります」
憐れむように俺を見るカグヤ。
最近頻繁にその目で俺を見ている気がするが?
「気のせいです。ちなみにその豊富な経験の中で船長が最後まで腑に落ちない、納得できないことって何件くらいあります?」
えっと軽く思い出すだけでも片手では足りないけど。
「……その中で船長が悪くないのに最悪な結果になったってことはありますか?」
えっと3件くらい思いつく。
「船長の歩んできた人生がおもんばかれます」
なんだろう、ものすごく憐れまれた気がする。
「ではその中で一番新しい事件を聞きましょうか」
いや別に無理に聞いてくれなくてもいいんだが?
「船長、誰かに聞いてもらえるだけで心が軽くなるってことはあるんですよ」
優しく微笑むカグヤ。
てかなんで俺がカウンセリングを受けている状況になるんだよ!
「それだけ船長の人生が過酷だということですよ。長い不幸な人生が船長の心を蝕んで引きこもりという病気を発生したんですよ」
病人扱いするな!
「いえ、病気ですって!」
好きで、楽しく健康的に引きこもっているっていうのに失礼な奴だな。
1話で終わらせようと思ったら長くなりすぎたので分割します。
前話、ちょっとでた子との出会いのことを書こうとしたら長くなりすぎたものでw