#296 その背中は何を語る 5
「先ほど言っていたギャラクシーキャノンボールを全宇宙開催する場合の問題点を教えてもらえないだろうか?」
俺をレースに誘うことを諦めたようなのでようやく話が切り上げれるかと思いきや、ヘンダーソンはなかなか俺を解放しようとはしない。
「マスターが言ってたのが正解なんじゃないかな? 周りがイエスマンしかいないから思考が停滞してたんだよ。議論することでアイデアが生まれることなんてよくある話だし。あと反論が珍しいんじゃないかな?」
とレーティアが教えてくれる。
なるほど、今まではこういうタイプのGMとイエスマンのもと、時間の浪費だけが成果の会議が繰り広げられていたのだろう。
反論を受けることで刺激を受けることもあるだろう。
ただ俺を巻き込まないで欲しい。
もう引きこもりたい。
「いまさらだよ、マスター」
とレーティアが肩をすくめる。
問題点についてはまだ当分先の話でしょう。
焦らずにまずは目先のことを考えるべきでは?
急いてはことを仕損じると言います。
「ですがクサカベ船長の助言通りに同志に任すのであれば、私は手が空くので未来へのビジョンを描き直すべきではないだろうか?」
そもそも現時点で問題点がわかっていないのならば時間の無駄ではある。
しかたないかと諦め混じりにため息をつく。
まず複数の星を飛ぶ際にもっとも大きな問題は金である。
「金? しかし必要経費はこちらが出すが」
現時点で各惑星は独自の通貨を持っており、他星の通貨は使えません。
両替すら不可である。
いま開催しているギャラクシーキャノンボールは隣の惑星にあらかじめ段取りをつけているから問題ないのでしょうが、普通は交易をして金を得る。
そうしないと補給もできない。
だがここで問題となるのが「即、売れる」という保証もなく、一定額を稼ぐのに時間がかかるかも知れないということ、これはレースをする上では足枷になるのではないだろうか?
「それも前もって段取りをつければ問題ないのでは?」
それは規模にもよる。
すべての惑星が協力的ならそれも可能だろうが、ルートに非協力的な惑星がないとも限らない。
俺が通ってきた隣の惑星など鎖国をしている。
そういう星はチェックポイントにしないで通り過ぎろというかもしれないが、宇宙というものは何が起こるかわからない。
あと人間は地上に降りないと弱る生き物……らしい。
隣の惑星への往復くらいならともかく、長期間のレースをさせるのならば、休息とその際の金を考えねばならない。
「……全宇宙で通貨を統一しろと?」
できるのならそれでもいいが、それは一大事業だぞ。
共通で使える通貨なり、貴金属のレートを決めるとかで。
「なるほど」
しかしそれでも簡単な話ではないだろう。
「しかし同一の価値を決めてしまうというのは悪くないが」
そりゃあ悪くはない。
問題はそのテーブルに着くまでだがな。
「というと?」
そりゃあまあ、物理的な距離がある星々にひとつずつ交渉に行くなど大仕事だと思うがね。
決定機関のお偉いさんに会うのだって簡単じゃあない。
きっと気の遠くなる時間がかかるだろうよ。
「……いっそ他の惑星と通信できる技術の開発に着手すべきなのだろうか?」
ヘンダーソンのつぶやきにニーナはピクリと反応し、俺を見る。
俺は目とジェスチャーで黙っているように合図し、それを悟ったニーナが口を押える。
そりゃあまあ、ゲートと関係なく通信が可能になれば宇宙は変わる。
大規模な情報の転送ができなくとも、せめて通信さえできれば各惑星とつながりが持てる。
やりようによっては共通の通貨くらいは何とかなるかもしれない。
「まさに」
そもそもだ、ギャラクシーキャノンボールがいまいち流行ってない原因もリアルタイムの情報がわからないということも一因となっているのではないだろうか?
見送ったら帰ってくるまでほったらかしで、後で映像を見るだけでというのは盛り上がりに欠けるのではないだろうか?
逐一情報が入ればまた違う盛り上げ方もあるのではないだろうか?
「おお! まさに!」
俺の言葉にヘンダーソンは気炎を上げる。
「これは革命だ! 新時代の幕が上がる! ギャラクシーキャノンボールの夜明けだ!」
いや、宇宙自体が変革する技術を一レースだけの夜明けにしないでほしいんだが。
「これはいける! 見えてきた!」
盛り上がっているところに水を差すようで悪いが、その技術に当てがあるのか?
「まったくない!」
俺の問いにヘンダーソンは胸を張って断言する。
おい、よくそれで盛り上げれるな。
「なあに、方向性は見えたんだ。技術者を集め開発を支援する」
ああ、そうかい。
多分大変だろうけど頑張ってくれ。
じゃあ話がまとまったようなので俺はここで失礼するよ。
「いや待ってくれ! うちの星だけで開発ができる保証がない。だが宇宙は広い。似たような研究をしている人がいるかもしれない。その人たちを集められたら一番いいんだが、ダメでも支援をしたい。協力してくれないか?」
お断りだよ!
女神は今回でない、そういうつもりで書いています。
この話を書いてる頃にはだんだんと女神がアップを始めた気がして冷や汗をかいたものです。
あいつは気を抜くと勝手に出て、場を荒らして帰る厄介なカードです。