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#31 正しいワインの使い方(前編)

「マーロン三世だ」


 通信を開くと開口一番そういい放つ。

 真っ白いファーのついた毛皮を羽織り、サングラスをかけた男が豪華な椅子によくわからないポーズをつけて座っている。

 以前見た映像では温和というかボンクラそうに見えたが、今は不機嫌そうなナルシストに見える。


 マスコミ用とは違って本来はこっちと言うことだろう。


「入国監理局の方ではないのですか?」


 とりあえずとぼけてみる。


「ボケているのか? マーロン三世だと言っている」


ボケているのはどちらだろうか?


「入国監理局の緊急通信ということだったので、あわてて出たのですが?」

「知らないというなら教えてやる、俺の通信は最優先に受けろ、不愉快だ」


 執事の教育がなってないと思ったが、なるほど雇い主からして頭が悪い。

 初対面の人間の物言いではない。

 ウチのパワハラ支社長のようだ。

 今の俺は立場が下のわけではないので黙って頭を下げる義理もない。


「入国監理局でないなら特に用事はないので失礼する」

「待て」


 通信を切り上げようとした俺にマーロン三世はギザったらしいポーズでもったいつけて、


「後悔するぞ」


 と言い放つ。

 すでに後悔してますが。


「俺の執事が迷惑かけた詫びにディナーに招待してやる。感謝しろ」


 どこに感謝する要素があると?


「この星極上のグルメを食わせてやろう。感涙にむせぶがよい」


 アホか!

 思わず叫びそうになったがどうにかストップ。

 

 しかしどういう思考なんだろうか?

 直々にディナーに誘う→感謝する→うまいものを食わせる→感涙する

 ……その後お礼に300年物のワインを差し出すとでも?

 

 なんだろう、交渉が下手とかいうレベルじゃないぞ。

 

 まだあの執事のほうが会話が成立したというのが怖ろしい。


 ……執事が裏で俺を脅して忖度しろという可能性もあるな。

 一服盛って体の自由を奪ってからの脅迫も可能性としてはある。


 仮に裏が100%ないとしても、こんな男とメシを食っても楽しいことはあるまい。

 まだ5分も話していないがどうにもお近づきになりたくないタイプだ。

 こんなのがZ3-Jの一般的な人間だというなら絶対この惑星には降りたくない。

 だが入国管理の兄ちゃんは普通に見えたから、マーロン三世だけが頭のおかしい人間だと信じたい。


「お断りします」

「何故だ?」


 眉を吊り上げる。

 

「貴様のような庶民では一生食せない最高級品だぞ。普段食ってるエサとの違いに絶頂することだろうよ。このような機会に巡り合えた幸せを感謝することになるだろう」


 イラっとするが同時にあきれもする。

 素でこういうことを言えるにはどういう人生を送って、どういう交友関係を築いてきたのだろうか?

 生前、総務部で人事をしていると自分の世界に入っていうことを聞かない人間にも接してきた。

 なだめすかして、なるべく折れない。

 はっきり言って面倒くさいことこの上ない。


「あなたと関わりたくないからお断りします」


 まあ今回は別にこの男にご機嫌を取る必要もない。

 会社の上司でもないし、取引先の人でもない。


「口を慎め、無礼だぞ」


 口をまげて不機嫌をあらわにするが、無礼はどっちだろうか?

 初対面なのに最初から無礼な男だし、そもそもワインを手に入れるために詐欺の疑いを訴えオークションの邪魔をした人間だ。

 俺が忖度する必要性はどこにもない。


「飯に一服盛られて拘束されたり、それ以前に船から降りた瞬間に拘束される可能性があるからな」

「貴様!」


 椅子の手すりをバンと叩く。


「俺を愚弄するか!」


 そっちは散々俺を愚弄してたよね?


「そこは用心深いと褒めるところですよ、普通はね。宇宙を旅しているとまず身の安全を考えるものです。なにせどこの惑星行っても余所者ですからね、なにしても構わないって手合いが一定数いるんですよ。だからこちらはその対応をするのが当然のことで」


 俺はわざとクスリと笑う。


「やましいことがある人間ほど怒り出すんですよね」

「き、貴様!」


 おお、顔が一気に紅潮した。

 

「俺をここまで愚弄するとは覚悟はできているんだろうな!」


 さてこのボンクラにどこまでのことができるのか?

 そしてカグヤとウサギたちは俺やイザヨイを守り切れるのか?

 まあそういったことはさておこう。


「貴重なワインを持っているからと下手に出ていれば図に乗りやがって!」


 翻訳間違っていないか? 

 俺の知ってる「下手に出る」と意味が同じなんだろうか? 


「貴様のようなヴィンテージワインの凄さがわからない下賤のものがワインを試飲したというだけで業腹なんだ! いいか! 適切な温度・湿度で管理されたワインが200年熟成されることでさえ稀なのだ! それが300年だぞ! 貴様と同じ空間になるだけでも汚れるだろうが!」


 ワインについて語り始める。

 うっとおしい、いやキモいな。

 いまここでワインを飲みだしたらどんな顔するかなと思うとやってみたくなるのだが、煽り方はまだ他にもある。


「自称名人にワインの味の違いがわかるのか?」

「!!」


 椅子を倒す勢いで立ち上がり、画面に顔を近づける。

 たぶんにらみつけているんだろうが、サングラスのせいでまったくわからない。


「殺す! ワインを渡すなら命だけは助けてやろうと思ったが絶対に殺す! 俺の手で絶対だ!」


 やっぱり俺を拉致してワインを奪う計画だったか。

 物騒な発言だけどその発言を待っていました。


「絶対に後悔させてやる」

「はいはい、パパのお金での攻撃待ってますよ、金で買った自称名人さん」


 俺の言葉に顔が真っ赤になって口をパクパクとさせている。

 人を煽るわりに煽られ弱いんだな。

 頃合いかと思い、カグヤに通信を切らせ、


「ってことなんだが、何とかなるか?」

「そこまで煽っておいて人任せですか!」


 いやいや俺も少しは手を考えてるけど、もしもの時のために。


「まあいきなり実力行使で攻め入ってきても何とかなりますし、米と卵さえ入荷し終わったら最悪逃げてもいいですし」


 いやまあ食糧も命には替えられないからいいんだぞ、別に。

 それはさておき、マーロン三世に実力行使って個人が持てる護衛用の管理頭脳ってどんなもんよ。


「まあ普通の人は護衛用を持つことはないのですが。マーロン三世のような富豪は護衛が必要ということで国から許可されています。ですがマーロン三世は法を超えたレベルの護衛を所持していますね。とりあえず管理頭脳の攻略は終わりましたので情報は筒抜けです。それといつでも停止できます」


 おお、なんてチート。

 では最悪は回避できるということで、調べてほしいことが一点。


 あと入国管理局の本来のほうの通信をつないで。

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