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#293 その背中は何を語る 2

「どうだろうか、クサカベ船長。ぜひ君にもギャラクシーキャノンボールに参加してもらいたいと考えているんだ!」


 通信機の画面でイケメンのナルシストが言ってくる。



 小太りのプロデューサーをやんわりと対応して数日、つかの間の引きこもりの後に嵐が襲撃する。

 彼の名はマルクス・ヘンダーソン。

 小太りプロデューサーが話題にしていたスポンサーだという。

 

「この国でトップクラスの企業のGMなんだって」


 とレーティアが教えてくれる。

 働かなくてもよい世界でも金儲けの好きな人間はいる。

 その中で金儲けの才能や目端が利けば成り上がるのは容易だという。

 何せ本気で勤労するのは少数派。

 敵がいない荒野を進軍するがごとくの勢いでシェアを奪い、財をなす。

 画面に映ったヘンダーソンはそんな感じで一代で成り上がった男であり、自分にはなんでもできるという自信が顔にありありと出ている。

 ……つまりは関わると面倒くさいタイプである。



「参加費はもちろんだそう。タイムがレコードを更新すれば追加で賞金もだそう」


 えっと、お断りします。


「なぜだ?」


 まさか断られると思っていなかったのかキョトンとした顔で問い返される。


 むしろこちらが問いたいのですが、なぜ俺が参加せねばならないのかを。


「君の話は聞いたよ。ギャラクシーキャノンボールを布教するにはまず子供の時から宇宙に興味を持たすべきだという意見。私はいたく感銘を受けたよ」


 あれ?

 俺、そんなことを言った気はないんだけど?


「未来のレーサーを育成することもギャラクシーキャノンボールを愛する者の義務とも言える、私はそんなことも忘れていたのだと恥じ入るばかりだ」


 ああ、そうですか。

 本当にどうでもいい。


 まあお役にたてて光栄です。

 では頑張ってください、では失礼します。


「いや、待ちたまえ!」


 なんとかフェードアウトしようとするがヘンダーソンは逃がしてくれない。


「未来の偉大なレーサーの前に、いま新たなニューヒーローが必要だとは思わないかね?」


 必要かもしれないがそもそも俺にヒーローを求められても困る。

 ただの引きこもりだぞ。


「ねえマスター。どのみちイザヨイはオーバーホール中なんだし、そういって断れば」


 とレーティアが相手に聞こえないように助言してくれる。

 おや、珍しい。

 お前もカグヤと同じでこういうトラブルには絡んでいけのタイプなのに。


「だってゲートジャンプを含むレースでしょう。マスター、ゲートジャンプだけは変態級なんだから参加したら大騒ぎで最終的に不正を疑われてひどい目を見るよ」


 なんだよ、変態級って!

 お前までカグヤみたいなことを言うな!

 ……言いたいことはあるが、まあ不参加を支持してくれているのは助かる。


 しかし宇宙船のオーバーホール中だからという断りかたは悪手だ。


「どうしてさ?」


 じゃあ、オーバーホールが終わったら試運転がてらに参加しろと言われる。

 この手の人間に反論の隙を残すのは厄介だ。

 とにかく「YES」と言うまで付きまとわれる。

 という事で別ルートから断る。



 私のポリシーとして安全最優先というのがあります。

 宇宙でレースをする、その発想は素晴らしい。

 ですが宇宙はただ航行するだけでも危険が山ほどあるところです。

 そんなところでスピードを競ってレースをするというのはどんなに前もって危険予知をしても万全ということなど決してないでしょう。

 私の星でも地上の乗り物でですがレースは開催されていますが、事故は付き物で生半可の覚悟でやっていいものではありません。

 覚悟があるかと問われれば私にはないとはっきり言えます。

 なぜなら私にはかわいい娘がいます。


「日下部ニーナです。9才です」


 俺の横にいたニーナが自己紹介をする。

 その愛らしさに思わず涙がこぼれそうになる。


「マスターは少しおかしいってば」


 なぜかツッコミを入れるレーティアを無視して話を進める。


 俺にもしものことがあればこの子を悲しませる。

 だから俺は危険があることは極力避けたい。

 ということで安全が未知数なものには参加は拒否させてもらいます。

 

「クサカベ船長の言い分はもっともです。しかしながらギャラクシーキャノンボールはレース自体はハードですが、今までも事故などない安全なレースなのですよ」


 なるほど、それはレースとしての体をなしてないということではないでしょうか?


「なんですって?」


 俺の言葉にヘンダーソンの目が鋭くなる。


 事故がないというのは事故を避けるために安全に航行したということ、つまりはレコードを狙おうと無理や無茶からほど遠い航行をしているからではないでしょうか?


「いやそんなはずはない! みんな頑張ってくれている!」


 頑張るのと頑張る振りをするのは違うものですよ。

 皆とあなたでは温度差があるのではないでしょうか?


「そんなことはない。みんな好きだと言っている」


 それはあなたの周りにイエスマンしかいないからでしょう。

 あなたのご機嫌を取ることしかしない。

 でも本心では違うからいまいち盛り上がっていない、とどのつまりそういうことではないでしょうか?


「いや待ってくれ! 私はギャラクシーキャノンボールが大好きで、それを盛り上げるためだけに偉くなろうと、金持ちになろうとした男だぞ! それを公言もしている。私の思想に追従するものだけついて来いとも。そんな仲間が好きではないはずはない」


 それは「大好き」という思想ではなく「盛り上げる」という思想に追従したのではないのでしょうか?


「何が違う?」


 好きでなくても盛り上げることはできますよ。

 でもってそれで甘い汁が吸えるのならばついて来る奴も山ほどいるでしょうよ。


「……そんなはずは……」


 参加要請にGM自ら来るというのもおかしな話だと思いますよ。

 まだ会社の広報とか運営スタッフが声をかけるのならともかくトップが猫も杓子もという感じで交渉するというのはおかしな話だ。


「それは私が自ら行くと」


 俺は単なる流れの宇宙船乗りだ。

 何か実績があるわけでもない。

 そんな人間をわざわざトップがスカウトするというのは少々奇異な話だ。

 情熱があるスタッフならばまず自分が動く。

 トップが自ら行くと言ったらまず止める。


 俺からしてみたらいきなりGMからの通信というと絶対に怪しい、何か裏があると疑う。



 俺の言葉にヘンダーソンは少し考えこみ、


「……しかし逆の立場だとして、私が宇宙船乗りでいきなりレーサーにスカウトされたら嬉しいと思う。あと私は宇宙船乗りが『俺は宇宙一速い! 参加させろ!』といきなり言ってきたら喜んで会うと思う」


 ……ああ、なるほど、こいつは少々厄介だぞ。

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