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#290 続・幸福とはなんぞや

「つまり船長は幼少期より運が悪い生活を送ってきたせいで、徐々に感覚が麻痺したものと考えられます」

「そんな! なんてひどい! そんなことがあっていいのですか!」

「普通なら絶望して世をはかなんでも不思議ではないレベルで運が悪くても、物心ついて不幸が当たり前だという生活を続けていると、まあ世の中こんなもんだと開き直って生きてきたんだね」

「開き直ってというよりは悟るでしょうか? 絶望するでも抗うでもなく、あるがままを受け入れただ生きているのだと」

「それは確かに悟りの境地かもしれません。ですがそこに至る修行は厳しいものと聞きます。キャプテンの人生とはそれほどまで過酷なものだったというのですか?」

「日本のブラック企業がマスターを育てたのかと思っていたけど、人生そのものが過酷とは予想外だよ。他人と比べて辛くなかったのかな? 普通おかしいと思うよね? ……ねえカグ姉、もしかしてマスターの引きこもりって、外に出なければ不幸なことにあわないで済むから引きこもっているとかいうのかな?」

「さすがにそれはないかと信じたいのですが、……否定する材料がないのがおそろしいです」

「なんて悲劇!」

「悲劇を通り越してもう喜劇だよ!」


 言いたい放題だな、お前たち。

 俺を異常者のように言うなよ。


「大丈夫です船長。明るい日と書いて明日です!」

「キャプテン、人は右手に希望、左手に夢を握りしめて生まれて来るものだというのが蒼龍さまの教えです!」

「人間生きていること、それだけが奇跡みたいなものなんだよ、マスター。だから気をしっかりと持って! 大丈夫、本当にまだ大丈夫だから!」


 やかましい!

 なんだその取ってつけたような気休めは!


 確かに運が悪い自覚はあるが、運という不確定要素に頼らず、しっかりと準備して的確に対応さえすればなんの問題もない。

 むしろ運に頼って生きても波があり、右往左往するより賢い生き方だ。

 最初からないということで、常に最悪を想定して生きていけば人生困ることはそうそう起こらない。

 まあ予想は外れる――それも下の方向に――ものだが心構えがあればまだ対応できる。


「正論ではあります」

「堅実だと思います」

「賢明だよ」


 と三人は同意してくれる。

 そうだろう?


「ですがその若さでその考えに至ることが不幸なのです」

「どれだけの苦難を経てその様な考えに至ったのかと思うと……」

「人ってのはどうしても心のどこかでは希望を求めるものなんだけどね。ねえ、マスター大丈夫? 辛くない?」


 となぜか憐れまれる。


「では質問を変えましょう。船長が嬉しいと感じることはなんですか?」


 好きな漫画のアニメ化とか好きなゲームの続編が出たりとかか。


「それは船長だけのことではありません」

「誰かに自慢できるようなことが聞きたいんだよ!」


 たまたま行ったメシ屋が美味かったとか?


「ささやかですがそんな感じです」

「もっと大きな感じでお願いします。偶然入ったお店が開店100万人記念とかはないでしょうか?」

「というか不幸話は斜め上の話ばっかなのになんで幸福話はこじんまりしてるのさ! 商店街で福引の1等を当てるとかないの!」


 なぜか責められる。

 そんなこと言われてもなあ。

 てか開店100万人記念とか福引の1等って都市伝説じゃあないのか?


「「「そんなことありません!」」」


 ハモる3人。

 なぜ俺が責められる流れなんだろうと思いつつも、幸福ネタを思い起こす。


 …………


 自慢できるような幸運ってなかなか思い付かない。


 強いて言うなら、ある日仕事行って、誰からも怒られず順調に仕事が進み、トラブルやら追加の仕事が入らずに定時で帰れた日に幸せを感じたかな。

 あの日はちょっと嬉しくて、歩いて行けるラーメン屋に晩飯を食いに行って、普段そこでは飲まないのに生ビールと餃子で一杯飲んだなぁ。

 あれは美味かった。

 ……だけど、こんなに幸運だと翌日はどうせ最悪なんだろうなと逆に不安になってそのあと帰ってすぐ寝たっけ。


「「「…………」」」


 三人は俺から少し離れてヒソヒソと話し出す。

 なんだろうこの疎外感。

 お前ら、いつもとなんか対応違わないか?


「そんなことありませんよ、船長」


 と話し合いが終わったのか3人が向き合う。

 優しく微笑んでいるのだが目が可哀そうな者を見る目の気がするのは俺の被害妄想だろうか?


「船長、もうすることも終わりましたし、話もキリがいいので、今日はお部屋に戻ってゆっくりなさってください」

「ニーナちゃんが起きてもお部屋のほうに行かないように私が面倒見ますので、本当にゆっくり休んでください」

「白ウサギにお酒とかつまみとか持って行かすからさ、少し引きこもっていてよ。大丈夫だって、ここにはそんな不幸なことはないからさ」


 なぜか腫れ物を触るような感じで言う。


 ……なんだろう。

 引きこもっていいって言われたのにこの敗北感は?



幸せって何だろう?(哲学)


この話を書いてて思いましたが、この船長、引きこもる以外に何を幸せに思うんだろうか?

他人から見たら本当にささやかなことで大喜びし、他人から見たら普通の幸運でも大きすぎる幸運が舞い込むと何か不幸の前触れだと思い込み、自ら手放すことでしょう。


……この船長はきっと引きこもることが幸せなのです。

女神に目をつけられたのは最大の不幸ですが、たまに引き込まれるからまだましだと思っている節があるのではないか?

人間というものは人それぞれ価値観が違うもので、彼にとって引きこもることこそが至上なのである。


そんなことを300話も書いて思い至るw


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