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#番外編4 とある事務員の独白 前編

物語が始まって約1年後の地球、クズノミヤでの出来事です。



――お墓参りに行きたい。


 昼休み、職場の同僚たち数人でお弁当を食べているとき、温泉とかどこかに行きたいという話題の最中のこと。


「誰の?」


 と言われ、何故不意にその言葉が出たのかわからないが、それでも先祖以外でわざわざお墓参り行きたい人となると1人しかいない。


――カベさん。


「あ~あ」


 あたしの返答に納得の声があがる。


「カベさんって、私が入る前に亡くなったって人ですよね? 確か日下部さんでしたっけ?」


 カベさんと入れ替わりで入ってきた新入社員の子が聞いてくる。


 日下部晃。

 カベさんのニックネームで事務所の平社員や一般ドライバー、倉庫等の現場の人間から信頼されていたあたしの先輩だ。

 なぜ『カベ』かと言うと、名字の一部分と言うこともあるが、このパワハラが横行する会社で弱い下のものを庇う壁になっていたからだ。

 あたしたちにはとても優しい人だったが、そのせいで上司から睨まれ、出世できなかった人でもある。


「でもあの人あまり出世に興味が無さそうだったよね」


 出世して、頭のおかしいパワハラ連中と今まで以上に関わるくらいなら責任のない気楽な下がいいよと言ってはいた。

 それなのに中間管理職的なことをしていたのだからまったく意味がわからない。

 それならせめて出世して給料だけでもあげればいいのにと。

 

 そんなカベさんが辞表を出した時には現場は騒然とした。

 確かにカベさんがいなくても仕事は問題ない。

 だけど社員のケアとか上司のパワハラへの対応ができない。

 防波堤のなくなることがひどく怖かった。


 その一方であたしはこれでいいとも思った。

 だって今まで守ってくれていた大きくて立派な壁は、もうひび割れて壊れる寸前だったように思えたからだ。


 それに本気でやめると決めたあの人を誰が止められよう。

 20年も人事をしてきた人だ、会社を辞める時の引き留めの手口を知り尽くしているので、準備も根回しも完璧。

 自分でやめる書類どころか辞めた後に会社が作成する書類(あとは社印だけの状態)、退寮手続きなどすべて自分でやっていた。


 あまりの手際にあっという間に事が進み、有給に入っていた。

 そこで唯一カベさんくらいしかできないトラブル対応の案件があり、支社長がその段になって呼び戻せと言いだし、事件が起こった。

  

 カベさんがいたおかげで助かった人救われた人が大勢いる。

 彼のお葬式では香典の集まりかたが半端なく、以前専務の父親が亡くなったときの義理で集まった香典の数よりカベさんのほうが多いのだから人柄が忍ばれる。


――そう、決してあんな死に方をしていいような人ではなかった。



 カベさんの死の引き金となった支社長は明確な殺意がなかったとして有罪にはならなかったが、会社のパワハラが公になり懲戒解雇された。

 あたしからしたら、いや現場の人間は皆死刑を望んでいた。


 腰ぎんちゃくの副支社長や総務部長も無理やり支社長に連れて行かされたと言い張り、支社長からのパワハラの実態が明らかになり有罪は免れた。

 降格にはなったが会社には在籍している。

 ただみんなの白い目に耐えきれず、すぐに違う支社に転勤となった。

 責任取って辞めないところが本当に腹立たしい。



 会社のほうはというと、もともと社長筆頭にパワハラが横行している会社でその1人がクビになったくらいではなにも変わらないと思われた。

 だが事件を受け、後追いでマスコミや労働基準監督署に匿名のタレコミが相次ぎ、クレームの電話が鳴りやまない。


 本来こういったクレーム処理の担当がカベさんであり、困ったらあの人に任せて置けば何とかしてくれていたのに、その人が死んだことが原因なのだからお手上げだった。

 誰も上手く対応ができない。

 あのときは本当に会社は本社・支社ともに機能不全だった。


 そして1番大きな取引先までそんなブラック企業と関わるとこちらも傷がつくので取引を考えると苦言を呈してきて、ようやく社長が重い腰をあげ、パワハラ対策を打ち出し、自身含めた役員の減俸でようやく片がついた。


 一年たった今では、パワハラ、セクハラが極端に減り、残業もだいぶ減り、定時で帰れる日が増えた。

 これでお給料まで上がればと思うのは贅沢と言うものだ。


 あたしはカベさんには生前色々フォローしてもらっていた上に、亡くなってまで助けてもらえるなんてもう足を向けて眠れない。

 せめて一度くらいはお墓参りして、感謝の言葉を伝えたい。


「でもカベさんって『別にいいよ、気にすんな。そんなに言うなら今度缶コーヒー1本奢って~』って言いそうよね」


 ああ、絶対そういう。

 困ったときは助けるのが当然、恩にきせることなどしなかった。


 そんな人が人事として新入社員の研修生担当していたので若い子の支持は高い。


 人当たりがよく、面倒みもよい。


 上からは甘やかしすぎるとよく怒られていたがそれはパワハラ会社の言い分であり、時代にそった対応をしていた人だ。


 叶わないことだが、カベさんにいまこの会社の総務部長をしてもらいたいと心から思う。



日下部「絶対嫌だ! 働きたくない!」


船長、キャプテン、マスター、お父さん、詐欺師と異名がありますが、皆様覚えていますか、主人公の名前は日下部です。

筆者は正直時々主人公の名前って何だったかなと思って確認しますw


この一話で終わろうかとも思ったのですが、ついでだから師匠を書きたいと思ったら前・中・後編となりました。

スペースオペラのスの字もありませんがご容赦ください。

(もともとそんなにあったわけでもないですがw)


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