#30 惑星Z3-J
惑星Z3-Jに限らず、銀河に存在する居住可能惑星は地球と同じく青い惑星となるそうだ。
似た生態系にするためには広い海だの、酸素濃度だの、重力だのは同じにする必要があるらしい。
まあ神様のすることだ、何でもありだろう。
意図的パンスペルミア説が正しかったということだ。
惑星Z3-Jからそびえたつ塔のような軌道エレベーターの頂上にあるのが宇宙港。
Z3-Jのようにあまり宇宙船が来ない惑星でもスペースシャトルで人や物資を何往復もするより、これを設置したほうが安上がりらしい。
ということで入港許可を求めて接舷する。
管理頭脳はそのまま入出荷の対応。
今回イザヨイからは売品はないがあらかじめ購入依頼をかけた食糧や転売用の物品が順次入庫される。
米と卵が真っ先に入荷されるはずだ。
明日の朝食はシンプルに玉子かけご飯を要望しておいた。
そして乗組員は入国審査ののち、軌道エレベーターを降り、久々の大地を堪能するというのが一般的な船乗りの行動だが……、
「それじゃあ部屋に戻るから何かあったら連絡くれ」
「本当に降りられないのですね?」
信じられないものを見るようなまなざしだ。
「もともと降りる気もないのが、あの執事ともめてどの面下げて降りろと?」
「まあ確かに宇宙港内、地上の軌道エレベーターの入り口付近にはマーロン家の管理頭脳搭載の護衛用アンドロイドが配置されてますね」
護衛用なのに目的は俺の拉致だろうか?
「まあそうでしょうね」
「ならなおのこと降りれるか!」
死んだ実感はないが、最近死んだばかりの俺がなぜまた死なないといけないんだ。
「この惑星の国政をつかさどる管理頭脳だってハッキングできる私が、あの程度の管理頭脳の攻略に手間取るとでも?」
カグヤが胸を張ると白ウサギもアピールする。
「そこの白ウサギとあと黒ウサギを連れて行ってもらえたら、この国の特殊部隊に包囲されても逃げ帰れますよ」
なんか過激なことを言ってるが……、黒ウサギはまだ見たことがないが?
「護衛用です。地上に降りるときは案内役の白ウサギと護衛の黒ウサギを連れて行ってください」
まあこの惑星では降りる気ないけど、今後はそうするよ。
「しかしこれから次の惑星まで30日程度かかりますので、地上には降りられるときに下りておいてもらいたいのですが。何度も言いますが一般的に閉鎖環境に長くいると精神を病む可能性が非常に高いのです」
べつにいいよ。
基本的に旅行は好きじゃないし、むしろ休みの日に外出することさえ面倒くさかった人間だぞ。
自慢じゃないが食い物が部屋に運ばれてくる今となっては、半年でも1年でも部屋にこもっていられると自信がある。
「それはそれで別の病気なんじゃないかと疑うのですが?」
まあ引きこもりも病気みたいなもんだしな。
「無理強いまでして外出させようとは思いませんが、本当に遠慮や我慢だけはしないでくださいね」
「了解」
まったく遠慮も我慢もしてないがどうにも信じてもらえない。
宇宙に出る人間以前にそこまで過保護でこの宇宙は大丈夫かと思うが?
「私からしてみたら地球には船長より宇宙船の生活適応能力が高い人がいるってことのほうが、大丈夫かと思いますがね」
まあ国家としては歓迎すべきことでないのは確かだな。
さて部屋に戻るか、今日発売の雑誌の電子書籍を購入しなきゃ。
「船長。お待ちいただけますか?」
「……どうした?」
「通信が入ってきたのですが……」
「またマーロンか?」
執事との没交渉後あきらめきれないのか頻繁に通信がかかってきている。
こちらとしてはもう交渉の余地もないことだし無視しているのだが。
「今回は入国管理局の緊急通信を使用しています」
「それって個人が使えるものなのか?」
「使えるわけないですよ。いくらお金を積んだんでしょうかねぇ?」
だよなぁ。
その執念おそるべし。
しかしながら入国管理局からの緊急通信を無視することはできない。
本来はZ3-Jという惑星が使用する何かあった時のための緊急用だからだ。
それを無視すればこちらにペナルティーが科せられても文句が言えない。
「アホらしいなぁ」
相手がマーロンというのはカグヤのハッキングで分かっていることだが、本来それはわからないことだ。
入国管理局からの緊急用通信に慌ててでたらマーロンで驚くという設定を取らないといけない。
そしてワインの交渉を受けると。
アホらしいことこの上ない。
今は意地でもワインを譲ろうという気はないのだが、長引くとワインの一本くらい渡すから放っておいてくれという気分になる。
元手がタダだから余計に。
とはいえこういうタイプは一度折れるとカサにかけて要求してきそうだ。
最終的に全部よこせと言いかねない。
いや確実に言うだろう。
宇宙港に拉致部隊がいるのなら捕まえて命と天秤にかけさせることだろう。
Z3-Jの法律からしても犯罪なのだが、それがもみ消せる権力というのは恐ろしいものだ。
俺がこの惑星の住人でない異星人ということもあり比較的容易なのだろうとしてもだ。
価値のあるワインに比べたら人権など問題にしないという人種、そういうのが本当にいるのかという実験もオークションに出した理由の一つでもあるのだが……、濃いのが釣れたもんだ。




