#282 そこに愛はあっただろうか? 5
「惑星に立ち寄るのですか?」
艦橋でポーラが聞いてくる。
「お父さん、ニーナ、降りなくても大丈夫。引きこもる」
「ニーナ、そこは引きこもるじゃなくて我慢するとか平気って言うんだよ。マスターの悪いとこを真似ちゃダメだって」
ちょっと用事があって、ダメ元で通信してみようかと思っているだけだ。
立ち寄ることにはならないよ。
「用事ってなんなのですか?」
鎖国について聞きたいことがあってな。
ポーラやニーナにはつまらないと思うからここにいなくてもいいぞ。
「いえ、キャプテンの詐欺技術を見学させてください」
ポーラ、お前まで詐欺と言うなよ。
「ニーナ、お父さんのドラゴンを倒す精神攻撃を見てみたい」
今回はドラゴン相手じゃないけどな。
惑星アルゴは100年前までは鎖国していなかったので宇宙港はある。
だがそこは現在無人で管理頭脳によって維持管理されているだけだと言う。
ゆえにどこに通信をというか、誰が責任者か担当者かすら不明の状況だ。
惑星アルゴのドラゴンよりもらった資料でもその辺のことは書かれていないらしい。
歴史とか原因とか書かれても交渉相手がわからなければ話も始まらない。
しかたないのでカグヤとレーティアに手分けしてこの星の政府の末端に手当たり次第連絡をとってもらっている。
よかった、コイツらがいて。
事前情報もコネもない新規の会社にアポイントとるのって苦手なんだよ。
たらい回しにされたり、長く待たされたあげくにすげなく断られたりと大変だった。
そしてアポイントを指示した上司には怒られるといい思い出がない。
だからカグヤ、レーティア、無理をしなくてもいい。
ダメなら諦めよう。
俺はやるだけやった、頑張ったと言い張るから気に病むことはない。
「いえ船長は何一つしてませんよ」
「僕たちが頑張る前に慰めるってどうなんだよ!」
「こちらは惑星アルゴ、大統領筆頭補佐官、ライラ・マオです」
残念なことにカグヤ・レーティアコンビの頑張りが功を奏し、担当者とつながる、本当に残念だ。
モニターには痩身の女性が現れたのだが……、てか筆頭補佐官ってかなりお偉いさんでは?
いいんですか、こんな一宇宙船乗りの対応してて?
「鎖国については自分の担当となります、……不本意ながら」
と本当に不本意そうに眉をしかめる。
「まずは確認です。そちらの宇宙船は異常がなく、食糧にも問題がないと聞いていますが?」
おっしゃる通りです。
「それでしたら早急に立ち去ることを要請します」
そしてニーナとレーティアを一瞥し、
「小さいお子さんがおられるので子供だけでも休息をとらせたいとおっしゃる気かもしれませんが、受け入れられないと先に申し上げます。子連れというのは初めてのケースですが、子供を宇宙に連れ出したのは親の責任であり、そのリスクはあなたが負うべきです。当惑星に関知する義務はありません。また賄賂で解決できる問題ではないこともあらかじめ伝えておきます」
と矢継ぎ早に言われる。
少々冷たい口調で、ポーラなどは驚いているが彼女の言い分は正しい。
付け入る隙を見せずにキッパリと最初に宣言するのは理に叶っている。
この後はこちらに何を言われようとも「受け入れられません」と言い張るだけだ。
もうこれはダメだって言ってもいい案件だと思うが、少しは抵抗しておかないと女神やら龍の聖女の突撃を食らうかもしれない。
あれらの相手をするくらいならまだこっちのほうが何を言っているのか理解できる分マシだろう。
マオ筆頭補佐官、まず私たちにそちらの惑星に立ち寄る気がないことを伝えておきます。
「ではなぜわざわざ通信をしてきたのですか?」
俺の言葉にマオは怪訝な顔をする。
単に鎖国というものに興味がありまして。
私の生まれた国は鎖国をしていたという歴史がありまして。
まだ宇宙進出も果たす前、国家も1つにまとまっていないときの話なんですけどね。
国家の対外政策として他国の文明、特に宗教を入れないようにしていました。
当時は国として平和な時代でなかったので思想による対立が新たな騒乱の火種になることや、貿易を個人ですることで富を得ると幕府転覆を考えるものもいる時代での出来事です。
さて宇宙に進出した現在において、騒乱というものは非常に少ない。
地上の生活は管理頭脳や永久機関のおかげで快適で、逆に宇宙がなかなか不便ということもあり、わざわざ他星を侵略しようという不埒な輩も出にくい現状です。
そんな平和の世の中です。
宇宙船が運んでくる他星のコンテンツなどは暇つぶしにもってこいのものだと思っていますし、実際他の星ではそうでした。
また物珍しい商品カタログを見てはコレクター欲が刺激されるのか購入したりするものです。
さてそこでこの惑星アルゴです。
最初から宇宙に進出していないのならばまだ話がわかります。
ですが立派な宇宙港も存在していますし、100年ほど前は交易もしていたと聞きました。
こう言っては何ですが、他星の娯楽になれた人間に「今日から鎖国をする、もう手に入らない」と言われて「はい、そうですか」とはいかないでしょう?
そうなると何か原因があったのではと思うのです。
「……それを聞いてどうするのですか?」
マオ筆頭補佐官の目つきは鋭くなる。
単なる知的好奇心ですよ。
宇宙を旅していると、いろんな人に出会い、想像もしない出来事に遭遇します。
こういうのも1つの旅の醍醐味なのですよ。
こういった外的な刺激が何よりも楽しいものなのですよ。
むしろそういう刺激を受けたくて旅をしているようなものなんですよ、ええ。
他言無用と言うのであればもちろん黙っておきます。
もちろん、言いたくないというのであれば引き下がります。
ただね、私は思うんですよ。
この無限に広がる宇宙には未知は山ほどある。
それの一端に触れることがスペースオペラの醍醐味なのではないでしょうか?
「よくもまあペラペラと心にもないことが言えるもんです、働きたくないが口癖の引きこもりが」
「私、キャプテンは詐欺というより創作能力なのではないのかと思うのですけど?」
「いや、ポーラ姉。それも含めて詐欺師なんだよ。見てきたような嘘をつき、説得力のあるように演技する。もう詐欺の極みだよ」
「ニーナ、よくわからない。お父さん引きこもりなのに引きこもりっぽくない」
とモニターのマオ筆頭補佐官に聞こえないように語りあうウチのメンバー。
お前らうるさい!
昨今、「鎖国」はなかったから教科書から消えるとか聞いた気がしてネットで調べてみましたが、昭和の時代に自分が学んだ知識もすでに忘却の彼方でいったい何が変わったんだったかなあとw
出島でオランダとだけしてたって記憶がうっすらとあるw
鎖国がなかったら今は開国って言わないのか?ってここにきて疑問が増えた。
後で調べよう。
まあ何が言いたいのかというとこの主人公も昭和生まれですので鎖国に関して知識が古いのはご容赦ください




