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#29 不平等な交渉の対処法

「何かお困りなご様子で。我が主がお力になれるのではないかということで、突然ですがご連絡差し上げた次第です」


 執事は定型文の挨拶の後、こうきりだした。

 執事と言えばなんとなく年配のイメージがあるが、でてきたのは青年。

 もっとも入国管理の人もそうだが、不老処置がされているので俺より歳上の可能性もある。


「どなたかと勘違いされているのでは? 自分は特に困っていることなどないのですが?」


 とりあえずとぼけてみるが、この返しは予想通りなのだろう。


「我が主は美食家として有名な方です。この度、日下部船長の出品なされたワインにも並々ならぬ興味をしめしておられます。何がなんでも手に入れるお気持ちでしたが、いきなりの利用規約に反していると中止になって非常に嘆いています」


 いけしゃあしゃあとよく言えるもんだ。

 カグヤの調べでは利用規約に反していると異議申し立てたのはマーロン三世だという。

 マッチポンプにも程がある。


「我が主が本物だと鑑定すればすぐにでもオークションが再開されるはずです。通常ですと美食名人に鑑定を依頼するには順番待ちと高額な依頼料が必要なのですが、今回は無料で早急に鑑定を受けると言っております」


 タダですぐに鑑定してやるから感謝しろ、あと鑑定方法が飲むことだからワイン寄越せってことかな?

 こういうのを盗人猛々しいっていうんじゃないのかね。


「ご配慮はありがたいですが遠慮させていただきます」

「なぜですか? 美食名人が自ら鑑定すると言い出すなど滅多にないことで、この星ではこの上なく名誉なことなのですよ」


 そんなことも知らないのか、これだから田舎者はという目で俺を見る。

 確かに地球は宇宙に出れない田舎者かもしれないが、この惑星だって十分田舎ってレベルの辺境だぞ。


「別にそこまでしていただくほどではありませんよ。管理頭脳の鑑定結果が信じられないのであれば無理に証明しようとは思わないので」


 管理頭脳の鑑定技術は人間を越えているだろう? と言ってやる。


「失礼ながら結果を偽造することはできますから」


 管理頭脳の制作する書類にはABCのランクがありAの刻印がついたものだと偽造不可で正式な公的書類として扱われる。

 惑星によってはAの刻印がついたものを偽造することは重罪になっており、それはこの惑星でもその法律は適用されている。

 つまりは侮辱されているということだ。


「でもそれは人間の鑑定でも同じことですし」


 相手がその気ならこちらの対応の仕方が変わる。


「日下部船長はご存知ないでしょうが、マーロン三世の影響力はとても大きく、管理頭脳の鑑定以上です」

「とはいえ他の惑星ではマーロン氏より管理頭脳の鑑定が重視されますので」


 権力者に従え、田舎者と言われたので、この惑星しか力が及ばないお山の大将だろうと言ってやる。


「しかしこのままではこの惑星でオークションに、参加できないでしょう」

「目標金額の売り上げが達成したので、この惑星でもう商いをしなくてもいいかなと考えてますよ」

「そうですか。しかしそうなりますと今の段階で詐欺の疑いがあり、逃げた形になりますと印象がよくありませんよ。ホテルや飲食店など入店をお断りされるかもしれません。マーロン様は美食名人ゆえに多くの飲食店に顔が利きますので口添えが可能ですが」


 とにかくワインをよこせ、じゃないとZ3-Jの施設は使用できないぞ、ってことかな?


「いや、別に今回は下船するつもりはないもので」


 でもそれって別に脅しにならないよな?


「へ?」

 

 そこで初めて執事が間の抜けた顔になる。


「ご冗談を、船乗りが陸に下りないなどあり得るはずがないでしょう」


 おや?

 よほど想定外なのか?

 

「もともと短期の滞在予定でしてね。用事が済めばすぐに出港する予定で」

「な、何をおっしゃって! 一度も下りないなどありますまい。騙そうとしても無駄ですよ!」


 今までは丁寧な口調のわりに慇懃無礼な感じだったが焦りが見える。


「騙そうもなにも……。宇宙港なんて使う人少ないでしょうからすぐわかるでしょう? すぐばれる嘘はつかないタイプの人間でして」

「それは……、ではやせ我慢ですね! 命を削ってまで我慢するとはなんという愚かな人間ですか!」


 何言ってんだ、こいつ?


「いや、随分と地上にいたのでしばらくは宇宙でもいいかなって思ってるんですよ」

「バカなことを! 非常識にもほどがある!」


 目をひん剥いて俺を罵倒する。

 余裕面を引きはがしたのは楽しいが、まあそろそろ頃合いかな。


「先ほどから人のことを愚かだのバカだのと、非常識はどちらですかね? これ以上は話をしても無駄でしょうから失礼しますよ」

「ちょ、いや待ってくれ!」


 誰が待つか。

 カグヤに指示して回線を閉じる。



「……ところで俺の何が非常識扱いされたんだ?」


 俺の問いにカグヤは肩をすくめる。


「普通、宇宙船乗りは惑星につくと一目散に飛び降りて大地を踏みしめるものです」

「何のために?」

「……大地が恋しいとか、自然の空気が吸いたいとか、開放感がある広い場所に行きたいとかそんな感じです」


 言ってることはわかるが、それは人それぞれだろう。

 非常識扱いされるほどか?


「Z3-J出身の船乗りだと隣の大翠にいくと向こうで2、3ヶ月滞在し、戻ってくると最低でも1年は宇宙に出ないですからね。それだけ過酷な職業と認識されています」

「宇宙船の乗って1か月ほどの俺が言うのはまだ早いのかもしれないが、そこまで過酷か?」


 ただずっと引きこもっておけばいい楽な職業だと思うのですが?


「世間ではそういう認識が非常識だということです」

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