#277 結婚観
ゲートに近づく。
それはつまり惑星フォースフルとの別れを意味する。
「キャプテン、シン様に連絡をとらなくてもよろしいのですか?」
ここがシンと通信できる最後のポイントである。
よろしいもなにも、話自体はキレイに片付いたからこのまま黙って去るのがよいかと思うのだが?
「……ですが、シン様は連絡を待っておられるのではないでしょうか?」
半々じゃないかな?
連絡がくるかもしれない、どうしよう。
やっぱり連絡がこない、アキラらしい。
そんな風に思っているかもしれない。
でもまあここでせっかく押さえつけた恋心を揺り動かすこともない。
黙って消えるのが振られたほうの優しさだろう。
いや告白したわけではないが。
いずれもシンは折り合いをつけて、誰かと結婚することだろう。
「そんなものですか?」
そんなものですよ。
時間が解決するというのは決して嘘ではないよ。
ある意味、時間こそが最高の解決策だ。
「だから船長はいつも問題の先延ばしするのですね」
「時間稼ぎって姑息だよ、マスター」
うるさいな!
早急にすべてを解決するなんて土台無理だし、当人の問題は当人で解決すべきだろう?
だから俺にできるのは1つの指針を与え、考えさせることだけさ。
いつだって誰かが助けてくれるわけではないのだから。
「もっともらしいことを言わせると右に出る人間はいませんね」
「詐欺師ここに極まれりだね」
だからうるさいよ!
まあどのみちシンの場合は最初から結婚の自由はなかっただろうから、一時でも恋できたなら幸せではなかろうか?
こんなおっさん相手で申し訳ないが。
「そうなのでしょうか?」
そうなんじゃないのかな。
身分が高くなるとどうしても結婚は不自由になる。
家同士の繋がりが関係するからな。
ポーラのところは結婚しても子供は別に育てるという宗教観だからピンと来ないかもしれないが。
「キャプテンの国ではどうなんですか?」
最近はだいぶ自由に結婚できるけど、それでも当人同士は好きあっていても親の反対で結婚できない事例などよく聞く話だ。
結婚しても相手の家族が嫌で離婚する話も珍しくはない。
結婚により家同士の結びつき、新しいコミュニティに強制的に所属を余儀なくされ、今までのコミュニティと疎遠になることもある。
まあ俺の友人には新しいコミュニティで優位に立つことを重視したせいで友達を失ったという話もある。
「船長、またおかしな話をする気ですか?」
いぶかしげなカグヤ。
まあたぶんおかしいとは思う。
ある日、家に帰ると郵便受けにハガキが入っていた。
差出人は仮にAとしよう、25年来の友人である。
大学卒業後、他県に行ったが連絡だけは頻繁にしている友人だ。
あいつが電話やメールではなくハガキなんてめずらしいなと裏面を見ると「結婚しました」と写真が印刷されている。
俺はその件をまったく聞いておらず、俺の親はAの親とたまにあっているのに結婚の話などは出たことがないという。
まあこういうことは本人に聞くのが話が早いと電話したら、
「だってお前に言うと式に呼ばないといけなくなるだろう?」
別に行きたくはなかったが、付き合いだけは長い。
Aの親も呼べと言ったくらいだったらしい。
「だけどさ、結婚式で負けるわけにはいかないだろう?」
誰にだよ?
「嫁の実家に」
A曰く、舐められたら後々立場が悪くなる。
だから最初が肝心だという。
その対策が友人の肩書だという。
呼んだのは青年実業家だの県警のキャリア組だの弁護士、医者、Jリーガーだったという。
「お前みたいなサラリーマンなんか呼ぶと格が下がる」
とまあイラっとする物言いだが、まあいつものことだ。
しかしまあよくそんな連中を集めれたものだと、そこだけは素直に感心するところではあった。
それはさておき、確かに俺はブラック企業の一社畜だが俺達には共通の友人Bがいた。
そいつは地元では有力者の県議の孫である。
身分としてはもってこいなのではないだろうか?
「あいつが政治家なら呼んだよ。でも今はただのサラリーマンじゃん。それにこっちだとその県議なんて誰も知らねえよ」
とにかく失礼千万の男である。
失礼なうえに常識もない。
いや、たぶん本人はウケると思っていたのだけはわかるのだが、ハガキには手書きで
『お前らに送る分のハガキ足りなくなったからBとCにも見せておいて』
と書かれてあった。
相変わらずバカなやつだよなあとハガキを見せて、BとCに電話の内容を伝えると大激怒。
Cなどは学生の時はAが家によく入りびたり、一時は家族よりも長く一緒にいるくらいで、Cの結婚式にはAが来れる日程に合わせた式の日取りにし、新幹線のチケットとホテルまで用意したというのにかかわらず結婚するという報告すらなかった。
格の違いということらしいと説明したら金輪際、我が家の敷居は跨がせないと憤っていた。
もちろんBも縁を切ると叫んでいた。
俺的にはあいつは常識がないなあと思ったが、まあ昔からそうだったよなと思うところではある。
むしろ親や嫁さんは何で止めなかったのだろうと思ったくらいだ。
親御さんのほうは絶対に俺には伝えるな、伝えるならお前らも式に呼ばないと意味不明なことを言い、聞く耳を持ってくれなかったと後で菓子折りもって謝りに来た。
嫁さんは小学校の先生とは聞いていたのだが、こんな常識のない旦那を制しきれなくて先生ができるのかと、その学校の生徒の行く末を案じたものである。
まあ会うこともないのかなと思っていたが翌年の正月に、
「実家帰るから会おう、祝儀持ってきてくれ」
と誘いと催促の電話があった。
どうする? とB、Cに聞くと手切れ金で渡す、でもヤツとは会いたくないから渡してきてくれとなぜか俺が貧乏くじを引くことになった。
B、Cは半年たっても怒りが収まらず、俺はあいつに期待していないので特に呆れているだけで済んだのが原因だろう。
Aは昔みたいにCの家で集まろうと思っていたようだが、Cの拒否になんでだとその時点で本気でわかっていなかった。
お前的には面白いと思ったんだろう、それはわかる。
俺は意図は察したよ。
でもな、滑った。
もうそりゃあビックリするくらい滑った。
二度とお前には会いたくないっていうくらい怒りを買ったんだよ。
と噛んで含めるように教えた。
それでAより先に嫁さんが「やっぱり」ってつぶやいた。
嫁さんのほうは非常識だとは思ったらしい。
だけどこれが笑いが取れる、俺たちはそういう間柄だとAが言い張ってたので折れたらしい。
まあその結果が友人を失うことになる。
俺と嫁でいかにダメなことをしたのかと教えたんだよ、正月早々から何やってるんだろうね。
でまあようやく事態を飲み込んで、フォローの電話をしようとしたが時すでに遅し、着信拒否でつながらない。
俺に伝言を頼んだがまったく無駄な努力であった。
とまあ、結婚というのは本当に難しいと感じた一例である。
等価交換という言葉があるが、もしかしたら愛する人と結ばれると何かを失うのかもしれないな。
世の中というのは本当に世知辛い。
「いえ船長、おかしいのはどう考えてもその人だけです」
「キャプテン、いくら何でも特殊すぎです!」
「てかマスターよく友達付きあいしてたよね? キレるところいっぱいあったよ」
前回の話と今回の話は私がプライベートで10年以上使っている小噺ですが、最初のころは誰にも信じてもらえませんでした。
とあることを隠してからは実話だと信じてもらえるようになりました。
それが何かと言いますと、この2つの話が同一人物の犯行もとい奇行ということです。
そういうと「ネタだ」とか「話盛りすぎ」とか等々言われました。
私的にはおかしい奴がそのままおかしい行動をし続けるものだと思うのですが、いい歳こいても成長しないのはありえないと思われるようです。
あと「そんなろくでなしと友達関係を続けてることなどありえない、普通なら最初で縁を切る」などと言う意見もありました。
この話のことがきっかけで地元に帰りにくくなったのか、帰省もしなくなったので結果疎遠にはなりましたが25年以上の付き合いでしたね、縁というのは切りにくいものです。
さて、この人物の前話と今回の話の間にどんなことが起こったか知りたいという方がおられましたら、レオン関連の話を読み直してみるといいと思います。




