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#272 惑星フォースフル、出航

 シンとの会話の翌日、俺は惑星フォースフルを出航する手続きを開始する。

 振った相手にいつまでも居られたらシンも気を使うだろう。

 ここはさっさと出ていって、彼女の中でも美しい思い出になるのが吉であろう。


 しかしお使いに出たせいでこの惑星の滞在時間は本当に少なかったな。


「マスターはどうせ船から降りないんだからあまり関係ないんじゃないの?」


 レーティアの言い分は正しい。

 まあ気分的に。

 この星は俺的には最短の滞在時間だろうか?


「惑星マイタンには及びません」


 とカグヤが言うとポーラも頷く。

 確かにあの時は蒼龍とは長々と話していたが、滞在日数的にはポーラが乗り込む間だけのことだったか。

 ……そういえばあの時も前で女神にあったなあ。


 この惑星ではシンとの会話しか記憶にはないが、惑星ジュメルや宇宙屋台船での出来事が濃すぎて波乱万丈の日々だった。


 なんかこう精神的な疲労が大きい。


「お父さん、大丈夫?」


 心配するな、ニーナよ。

 俺は部屋に引きこもっていたら回復するよ。

 引きこもりっていうのはそういう人種さ、覚えておきなさい。


「わかった」


 ニーナが素直に頷くとレーティアとカグヤが呆れたような眼差しで俺を見る。


「ねぇマスター。ここは『お父さんはニーナの笑顔を見ているだけで元気になるよ』とか『ニーナがいるだけで幸せだよ』とかいう場面じゃないかな?」

「それが素で言えないエセ父親だからベストファーザー賞をもらおうと必死なんですよ。せめて形だけでも父親面しようと必死なんですから」


 と心にグサグサと刺さる物言いをする。

 てか今回俺、ニーナのために結構頑張ったんだけどな。


「カグちゃん、レーちゃん、お父さんは悪くない」


 そんな中、ニーナは唯一の味方である。


「お父さん、引きこもる、大事。だからニーナがお父さんのところに行って、一緒に引きこもる」


 きっぱりと宣言する。


「ニーナ、気づいた。お父さんとアニメ見るの好き。だから一緒に引きこもる」


 ああ、なんてこの子はいい子なんだろう。

 グッド、いやベスト、いや違う、この子はグレートチルドレンだ!

 なあニーナ、お前以上の父親想いの子供はいないのではないだろうか?


「ニーナにとってもお父さんが最強」


 ああ、そうか。

 ニーナがそう言ってくれるだけでお父さん頑張った甲斐があったよ。

 頭のおかしい女神がニーナに目を付けた時にはどうしようかと本気で考えたもんだが、父親という生き物はかわいい娘のためならば何でもできるんだな。


 聖女を唆し、女神を騙すくらいやってのけよう。

 ついでにドラゴンだってダース単位でシバいてみせよう。


「あの船長、最後のだけは勘弁してもらえませんか?」


 とカグヤが懇願する。

 てか他のはいいのか。


「お父さんの言うことよくわからない。でもニーナ、お父さんとアニメ見る」


 ああ、なんとかわいらしい。

 そうだな、俺もニーナとアニメが見たいぞ。


「ファンタジー、面白い」


 そうか、それは素晴らしい。

 今のトレンドはファンタジーだよ、それも異世界転生だ。

 若者のスペースオペラ離れを嘆かれたところで時代の流れには逆らえない。

 いやもちろん声高にスペースオペラの素晴らしさを語るのは構わない、俺だってその良さは知っているつもりだ。

 だからこそ選択肢はなかったとはいえ宇宙船をもらってこう旅をしているわけで。

 しかしながら何も知らない娘を巻き込むのは許されない。

 ニーナは俺と一緒に引きこもる、それでいいじゃないか。


「「「ダメです!!」」」


 俺の言葉にカグヤ、ポーラ、レーティアが声をそろえてダメ出しをする。


「ニーナ、その行為はとても危険なことなんですよ」

「ニーナちゃん、キャプテンと一緒が楽しいことはわかります、でもずっとその楽しさに浸ってはダメなのです」

「ポーラ姉の言う通りだよ。人間は飽きる生き物なんだよ。どんなに楽しいことでも常習化していると慣れちゃうんだよ。特にマスターみたいな生活をしているとすぐに嫌いになっちゃうよ!」

「まったくです。引きこもりなどは普通の人間にはできません! あれは船長のように訓練された特殊な人間のすることです!」

「そうです! ニーナちゃんはまだ小さいんだからまずは普通の生活をすべきなのです」

「僕たちはね、ニーナが憎くて言ってるんじゃないんだよ、でも明らかに間違っていることは正さないといけないんだよ。それだけはわかってほしい」


 と3人がニーナの説得を始める。


「……お父さん?」


 どうしていいのかわからず助けを求める目のニーナと、余計なことを言うなという目で俺をにらむ3対の目。


 ……えっと、まあ確かに俺は20年ほどブラック企業の社畜していて、仕事の日などは飯食って風呂入って寝るだけの生活だったからな。

 だから引きこもりたい願望が強くて何日でも何週間だろうが何か月でもいっそ年単位でも引きこもれると思うんだよ。

 でもそうだな、確かにニーナには修行が必要かもしれない。


「修行?」


 そうだよ、今見てるアニメでも主人公が必殺技を習得すべく特訓してただろう?

 そんな感じでニーナも修行すべきかもしれない。

 

「さすが船長、こういうことを言わせたら宇宙一です」

「ねえニーナちゃん。普段はキャプテンの部屋にずっと入りびたるのではなくて、一緒に運動したり、ご飯食べたり、お散歩したりしましょう」

「そうだね。あとマスターの部屋に行くのは時間決めてから行こうよ。それと滞在は1時間につき15分の休憩を入れるって感じで」


 引きこもるのに休憩を入れられてもさ。


「いえ、引きこもりは過酷ですので適正かと」

「あと、ニーナちゃんがキャプテンの部屋にずっといるとお姉ちゃんさみしいです」

「そうだよ! マスターとニーナがずっと部屋から出てこないとポーラ姉が一人ぼっちになっちゃうよ」


 と皆が代わるがわる説得し、ポーラがさみしがると言われたら思うところもあったのだろうか。


「ニーナ、お姉ちゃんも大事」


 と抱き着く。

 ホッとした顔をする3人

 ……だけどさ、お前らせっかく親子が分かり合えたっていうのに引き裂くことはないんじゃないかな?

 嫉妬にしてもひどくないかな?


「「「違います!!」」」



「うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら女神も騙せるかもしれない。」

……うん、これはそんなタイトルの小説ではなかった気がするw


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