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#269 想いは奇跡の鐘を鳴らす 22

 受勲式が始まる。

 宇宙港の空きスペースにこの星の儀礼用の祭壇が組まれていて、俺はそこまで敷かれた赤絨毯の上を歩く。


 優に100人くらいは立ち会える広さではあるが、ウチの関係者以外にはいないのは気が楽だ。

 こういう皇族が関わる式典だと儀礼用の関係者やSPが山ほどいそうだが、さすがはこの管理頭脳万能の時代、俺に1台、シンに2台ついていれば十分ことが足りるらしい。


 管理頭脳の指示に従い、ゆっくりと進み、一段上がった祭壇の手前で一礼。


 そこから壇上のシン――シンシア皇女を見る。

 宇宙進出した星では服装は管理頭脳が搭載されたボディスーツのようなものを着る。

 デザインはほぼ同じだが、色で差別化したり、その上から羽織るもので個性を出す。


 それは一国の皇女でも同じである、基本は。

 白色の、といっても若干ベージュがかったボディスーツは一見素肌を連想させる。

 それがシースルーの純白のドレスを着ているからなおさらだ。

 戴くティアラも精緻で、宝石が煌めいているが、土台の金に輝く髪も負けてはいない。

 初めて会った時は復讐するといきり立った痩せ細った小僧かと思っていたが、眼前で微笑んでいるのは本当にキレイなお姫様である。

 女の子は怖いね、一瞬で化ける。


 儀礼用の管理頭脳が俺の功績を読み上げ、勲章を授与すると発するとシンは勲章を手に俺に近寄る。


「こんなもので受けたご恩は返しきれませんが」


 と俺だけ聞こえるように小声で言う。

 この国の受勲式は皇族は喋ってはいけないらしい。

 それでも何か言いたそうなシン。

 まあ慣例には従うべきだろう。


 光栄に存じます。


 俺は予定通りに返礼し、その場を離れる。

 これで義理は果たしただろう。




 その後、場所を移動して会食となる。

 ダンスホールのような空間での立食パーティーのようなんだが、……言っておくが俺は踊れないぞ。


「大丈夫です、アキラに無理強いはしませんよ」


 俺の言葉にシンは優しく言ってくれる。

 それは助かった。


「でも意外ですね、踊れないのですか?」


 とシンは不思議そうな顔をする。

 意外も何も。

 この星ではどうか知らないが俺の国ではパーティーで踊るなどしないな。

 社会人を20年していたが社交ダンスをする機会は幸いなことになかった。


 いやまあ、俺が知らないだけでもっと違うところではしているのかもしれないけどさ。

 俺が出たパーティーって会社がらみの懇親会とか、地方議員や市議のする勉強会とか、会社がスポンサーをしている地方のスポーツチームの祝勝会だけだったからな。

 パーティーって言ったらとにかくビール片手に酌をしながら、名刺を交換するというイメージしかない。

 

「社交の場という観点では間違ってはないと思うよ、少々せわしない気がするけど」


 とレーティアがグラスに入ったビールを持ってきてくれる。


「何か食べ物を取ってくるけど、何がいい? この星はマスターのところで言うフランス料理に近いよ」


 えっと、なんか軽く食えるものを適当に。


「オッケー」


 とスタスタと並んでいる料理の場所に行く。

 レーティアのような給仕がいれば俺は楽ができるな。

 参加人数も少ないから気が楽だ。

 というか他人の財布だから気にしても仕方ないが、結局食べるのは俺、ポーラ、ニーナ、シンの4人なら立食式って無駄が多い気がするが?


「コース料理も考えたのですが、小さなお子様もいますし、堅苦しいのよりはと思ったのですが」


 と俺の横にずっといるシンが言う。

 なるほど。

 そう言われると気を使ってもらって申し訳ないと言わねばならないな。

 それに良く見たら作り置きもあるが対面調理もあり、無駄はないのかもしれない。


「いえ、お気になさらずに」


 しかし無駄に気を遣わせたようで申し訳ないな。


「何を言いますか。アキラには私が一番困窮しているときに助けてもらいました。ジュメルを説得し、ウサギを貸してくれてからの航海がいかに楽だったか。私の今までは何だったのかと思うくらい快適でした。毎日温かい調理したものを食べれることがこんなに幸せだったのかと」


 それはいかに旧ジュメルが手を抜いたということだろうか。

 あいつももうちょっとシンに対して協力的だったら調整室で苦しむこともなかっただろうに。

 後悔先に立たずとはこのことだろう。


 しかし、あいつは今後解放されることがあった場合、女神に従順になるのだろうか、はたまた龍の聖女にそそのかされてそっちの一派に入るだろうか、……まあそのまま廃棄される可能性もあるのか。

 あいつの未来は暗いな、真っ暗だ。


「とはいえあの時にアキラに食べさせてもらった料理が一番おいしかったですが」


 まあそれは一番つらい時に食べたという思い出補正もあると思うがね。

 しかしそこまで恩にきてもらわなくてもいいけど。

 困った時はお互い様と言うだろう。

 俺は当たり前のことをしただけだよ。


「その当たり前のことが私にとっては人生を変える出来事だったのです」


 それは良かったのか悪かったのか判断に悩むところだな、とは目を潤ませながら訴えるシンにはさすがに言えなかった。




 レーティアが持ってきてくれたカナッペを食べながら周りを見ると、色とりどりに華やかなケーキを見て目を輝かすニーナと、その面倒を見るポーラ。

 ポーラ自身はいまだにダイエット中かあまり食べていないようだ。

 ちなみにカグヤはイザヨイに残っている。

 メインの管理頭脳としては船の維持のために残らないといけないのだと言う。

 あれ? 

 あいつのほうが俺より宇宙船に引きこもってないか?



この小説でかわいそうなキャラはそこそこいますが、私的にはこのシンシアが一番かわいそうなのではと思っています。

自分の出番があるときに限って女神がしゃしゃりでて、記憶に残りにくい。

今日この話を読んで「そういえばこの子いたな」と思う読者のほうが多いのではないでしょうか?


まだ蒼龍だの旧ジュメルは、悲惨な目にあっても時々思い出してもらえる分、キャラとしては幸せなのではないだろうか?


いや、まあ全部女神が悪いんですよw

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