#28 マーロン三世
「マーロン三世の執事という方から連絡がきました」
誰?
ってのもあるがこの世界に執事っているんだ?
管理頭脳って執事やメイドみたいなもんだろう?
それも超万能の。
「そうですね。みんな管理頭脳を所有し、執事やら秘書業務をしてもらっています。ですのであえて人間を雇い、世話させることが、資産家や地位の高い人のステータスのようになっているところもありまして」
非効率的ではあるがそれくらいしても有り余る資産がある、とアピールすることで自己顕示欲を満たすというわけか。
言わんとすることはわかるが、くだらないとも思う。
もっというならば、暇を持てあまして執事やら秘書やら家政婦をするっていう感覚はさっぱりわからない。
さてそれはさておき、問題はその執事が何のようかだが。
「今、俺の返事待ち?」
「船長は日課の筋トレ中ですのであと一時間ほどかかりますと言ったら、その頃にかけなおすと」
「さよですか」
筋トレが通信断る理由になるのかと思わなくもないが、いったんそれは置いておこう。
「……てかよくイザヨイに連絡とれたな? 通信機のアドレスなど公表もしてないんだろう?」
「そこが資産家たる力でしょうか。通信自体は一度入国管理局にしていますのでそこには履歴が残っています。その個人情報を入手できるコネ、この距離を通信するには専用の通信機と通信費、どちらも高額です。そういったものを用意できる人間ということです」
違法じゃねぇ?
「違法ですね」
お近づきになりたくないタイプだな。
現時点で面倒ごとの予感しかないのだが。
「用件は?」
「何もおっしゃりませんでしたが十中八九ワインのことでしょう」
「根拠は?」
「マーロン三世は美食名人と言われていますので」
「……美食をどうすれば名人と呼ばれるんだ?」
首をかしげると三人の写真を画面に表示する。
どれも若い男性で茶色の髪と鼻がよく似ている。
そのうち一人の眉間の深いしわがある男性を画面の中央に配置して大きくする。
「それは初代のせいですね。マーロン一世……当時は一世とは名乗ってはいませんが、彼は死後なおこの惑星で名人と言えばの代名詞です」
「なんの名人?」
「日本で例えるなら彼は将棋のプロ棋士であり、同時に囲碁のプロ棋士でもありました。それも超天才でどちらも長く名人のタイトルを保持していました」
画面が当時のニュース映像を映し出す。
ああ、なんとなく凄さがわかった。
「その息子の二世には囲碁将棋の才能はありませんでしたが、親の稼いだ金を投資運用することで何百倍も増やしました。世間では投資名人と持て囃されました」
3人の中で一番目つきの悪い人間が画面に映る。
手腕はすごいのだろうが妙に威圧感を感じるタイプだ。
ただ特に表舞台で派手に投資するというのではなく、寡黙に自宅で投資していたようで一般人の知名度としては親に比べたらはるかに小さいらしい。
「でこちらが孫です。幼少期からいろいろなことをやっては才能がなく、すぐに投げ出してきたのですが、子供のころから親の有り余る金で美食を食べつくし、果ては極め、目隠しして食べても名店の料理や幻の酒の銘柄すら当てて見せ、美食名人と名乗っています」
三人の中では一番温和な印象を受けるが、話を聞く限り一番ぼんくらに思える。
まあ仕込みなしでできるっていうならすごいことかもしれないが。
「仕込みこみですね」
「それは一番ダメなやつだろう」
カグヤはさらに内情を暴露する。
「幼いころから取り立てて能力がないということで祖父・父を比べられ続けたようです。卑屈になり、最終的に何も能力がないなら買ってしまえと思い至り、買えそうな才能を考慮した結果、美食名人となったようです」
「なんだそれは? てかそれはみんな知ってるのか?」
「いえ、これはZ3-Jのドラゴンに聞いた裏事情です。一般人はやらせではないかと疑うむきもありますが、マスコミからしたらセレブタレントとして得難いらしく、持て囃しているという感じなのだそうです」
日本にもいる2世タレント的な感じかな?
もうそれ聞くだけで接触したくないんですが。
それはさておき、そういやこの星にもドラゴンがいるんだったな。
俺も挨拶したほうがいいのか?
「いえ、一応私たちは人とは一歩離れた存在なので基本的に放っておいてください」
……ごめんよ、人から一歩離れた存在を一宇宙船の管理頭脳に使っておいて。
「お気になさらずに。まだそこまで悲観してませんから」
言葉と裏腹に視線が痛い。