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#263 想いは奇跡の鐘を鳴らす 16

「ニーナちゃんの最適解が私と少し違うとちょっと問題ね」


 嘆息する女神。

 食の好みが違うことなんて良くあることだろうよ。


「それはそうかもだけど、こういう小さなズレがのちのち大きなズレを生むのよ」


 どういうことだ?


「私、ニーナちゃんを虎の聖女にしたいのよ」


 またおかしなことを言いだしたな、だが最初に言っておくがウチの子はやらん!


「親が子供の人生を、可能性を狭めることは横暴ではないかしら?」


 女神から怪しげな役割を背負わせるよりはずっといいと思うぞ。


「怪しげって失礼ね」


 頬を膨らまして抗議する女神。


「昔は龍の聖女ってのもいたんだから!」


 その言葉がまさかそっちから出てくるとは思わなかった。

 俺との接触が気がつかれているのかと不安になるが、素知らぬ顔で話を進める。



 龍の聖女?

 蒼龍に選ばれたポーラみたいなもんか?


「ポーラちゃんは宗教化した星で現地で任命された巫女でしょう? 私、ノータッチよ」


 と、少し考える素振りを見せ、


「ポーラちゃんでも良かったんだけど、蒼龍のせいで使いにくいのよね。ほら、ポーラちゃんって蒼龍のことを神様って思っているでしょう?」


 まあポーラにしてもだ、ウチの子たちは出さないぞ。


「それはさて置くとして」


 いや置くなよ。


「今から思えば龍の聖女も人間を指名すれば良かったのかもしれなかったんだけど、その当時の私はドラゴンたちの上位存在として作ったのよ」


 ドラゴンよりも高性能ってことか?


「性能はもちろんだけど、権限とかもあって、各地のドラゴンから情報を受け取り、いかに効率的に人類を宇宙に導くかを検討して指示・命令させてたのよ」


 それだと各惑星が均一化するんじゃないのか?

 多様性なくしてトラブルは産まれまい。


「そうねえ、結局、龍の聖女の後につくったドラゴンネットワークシステムで情報の共有だけさせて、各自自由にさせたら多様性は生まれたけど、動きが鈍いのよね。」


 良し悪しってことか。


「そうなのよ。世の中なかなか思い通りにいかないわね」


 女神をもってそういうなら、人間にとっていかに世の中は厳しいものか。

 やっぱり人間は大人しく引きこもる生き物なんだな。


「違うわよ! スペースオペラする生き物なのよ!」


 カグヤともそうだが女神とも意見の相違があるな。


「あのね、晃君。よく聞きなさい。この世の中、スペースオペラより大事なモノはないのよ」


 この際上位でもかまわないけど、唯一にしないでくれるかな?


「何でみんなわかってくれないのかな? スペースオペラの素晴らしさを」


 それが多様性ではないか?

 それがイヤなら遺伝子にスペースオペラ好きを組み込んでおくべきだ。


「組み込んでるでしょう?」


 言っておいてなんだが組み込まれてるのかよ!


「でもなんでか開花しないのよ。人類、もっと宇宙に出なさいよ!」


 ああ、きっと生命の本能が拒んでいるんだろうよ。


「さっき話にでた龍の聖女もおかしなこと言い出して。スペースオペラをしなくなったのよ。私も宇宙での戦闘機やロボットでの戦闘は許容するわよ。ああ、もちろんロボットはリアル寄りよ、よくわからない神秘的なエネルギーとかてのはダメよ」


 それを否定されたら日本のロボアニメの何%が否定されるんだろうかね。


「龍の聖女はね、だんだんおかしな方向に行ったのよ。宇宙空間を聖剣の力で生身のまま移動できるようにしようとか、宇宙で魔法を撃とうとか」


 その場合、宇宙船は移動母艦かね。


「そうなのよ! ねえ、腹立たしいでしょう! 宇宙は人が生きられない空間だから価値があるのよ! そこを科学の英知で立ち向かうのよ! そして絡み合う人の業! ねぇ、これこそが正しいスペースオペラでしょう!」


 陶酔する女神を横目に俺はため息をつく。

 どうでもいい、心底どうでもいい。


 でなんだ、その方向性の違いからクビにしたと?


「だって許せないじゃない! 何のためにこの銀河を作ったと思ってるのよ! スペースオペラよ、スペースオペラのためなのよ! それなのに私の知らないうちにファンタジー色を強めていったのよ、許せるわけないじゃない!」


 と涙を受かべて怒り出し、地団太を踏む。

 

 おお、悪いなテツジン。

 ちょっと発作みたいなもんだからこっちは気にするな。


「勝手に惑星での人類の試練を戦いばっかりにしてね、聖剣与えたり聖痕与えたり奇跡与えたりして神とか悪魔とかドラゴンと戦わせてたのよ、許せる? 許せないでしょう!」


 まあいいじゃないか、それくらい。

 でもさ、そんなのでも宇宙進出は可能だろう?

 てか俺には最初、スペースファンタジーって語ってなかったっけ?


「限度ってものがあるでしょう! 限度が! ファンタジー色が強すぎたらダメなの!」


 ああ、そうですか。

 てか女神の存在自体が最大のファンタジーじゃないのかな?


 まあいいや、それで龍の聖女を調整室送りか?


「……そうよ、でも言うこと聞かないもんだから腹立っちゃって、力いっぱいハリセンで叩いたら直るかと思ったら、そのまま壊れたんで廃棄したの」


 昔の家電みたいに叩けば直るってなんで思ったんだろうか?


「でついでに龍の聖女に唆されて、私の言うことを聞かずにファンタジー色が強くなったドラゴンもまとめて叩いてたんだけど直らなくて。あらかた廃棄しちゃったのよ」


 こいつの修理法はおかしいな。

 てか拷問なのだろうか?


「違うわよ! 叩けば回路が直るはずなのよ!」


 ドラゴンっておかしくないか?


「でも、地球のドラゴンは直ったわよ?」


 ちょっと待て、地球のドラゴンは第一世代だったのかよ?

 ああ、道理でウチの星、神話がファンタジー色が強いわ。

 多分叩いて直ってないわ。

 直ったフリしているだけじゃないのかな?

 てか今頃なんかファンタジーの種を蒔いてるんじゃね?


数少なく生き残った第一世代の地球のドラゴンは女神に隠れてこっそりとファンタジーを育んでいます。

外伝「ファンタジー・パニック!」のような感じです。


1話で女神が主人公を宇宙に連れ出しに地球に来た時にはバレたのではないかと気が気ではなく、調整室をも覚悟したという裏設定。

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