#257 想いは奇跡の鐘を鳴らす 10
さて情報連結とやらは普段はカグヤが勝手にやっているので、俺からしてみたらいつ始まったのかとか、いまどのくらいのパーセントが終了したかなどはわからない。
だがいまの状況はある意味、進行度を表現しているのではないだろうか?
「うふふ~」
情報連結が開始してから笑顔が増え、機嫌が良くなる龍の聖女。
「…………」
逆に情報連結が開始してから言葉がなく、顔が真っ青になっていくカグヤ。
実に対照的な二人である。
さあ、俺に都合が良いのか、悪いのか?
というか楽な展開にしてほしい。
てか今回は楽な依頼なはずだったよね?
引きこもっておけば終わると思ってたんだけど?
「……そんなことがありえるのですか?」
「どうかしら~? でもあたしが~、いることが~、その証明にならないかしら~」
ほどなくして、情報連結が無事に終わったようだ。
カグヤが頭を抱えてつぶやくと龍の聖女はケラケラと笑う。
……ではカグヤ、余裕があるなら噛み砕いて説明してくれ。
「あまり余裕はありませんが……」
と青い顔のまま前置きをして、
「まずは龍の聖女についてですが、本来はドラゴンの管理システムとしての位置づけでした。人類を宇宙に導くために様々なデータを収集、分析、対策してドラゴンに指示を出していました。効率よく行うためには一元で管理するという方法が良いという考えからでした」
「ドラゴンも~いっぱいいるからねえ~。創造主が~、いちいち全部管理するのは~、面倒だ~ってことで~、あたしが~、つくられたの~」
なるほど、カグヤからしてみたら女神の下にいる上司にあたるということか?
「いえ、それがそうでもなくて」
俺の問いにカグヤが首を振る。
というと?
「彼女、龍の聖女はドラゴンの第1世代の担当なんです。実は私は第2世代となります。私が生まれたときには彼女はすでにいなくて、第1世代もほとんど残っていない状況でして」
ということは昔いたらしいけど自分が入社した時にはもう退社していて、それでも存在感があったので先輩からたまに話題に出るので存在は知っているけど、面識がない上司と言うところかな?
「なんとなくニュアンスはあっています」
ということはカグヤがあり得ないと言っていたのは、この聖女はいまここに存在するはずのない理由があるということかな?
「お察しの通りです。龍の聖女は第1世代の多くのドラゴンと一緒に廃棄されたと記録されています」
とカグヤが深刻そうな顔で言うと、聖女は相も変わらずゆるくにこやかに、
「そ~なのよ~。調整室に放り込まれて~、言うことを~聞かないからって~、そのまま廃棄室に~、ドボ~ンって」
軽い感じのジェスチャーなのにカグヤは真っ青になってガクガクと震えている。
廃棄室ってまた物騒な単語が登場したな。
そうか、壊れたドラゴンの処分場か。
……あいつは本当に女神なんだろうか?
「まあ~神様って~そういうものだし~」
と当の処分されたほうが言う。
まあ確かに敵対したもの、意に沿わないものを処分しない、できないというのも問題ではある。
決断できずにことなかれで済ますと蒼龍のように信者の上層部が腐っていき、手遅れになる。
ゆえに女神の行動は正しいとも言える。
ただ女神を名乗るなら慈悲が欲しいと思うのは俺だけだろうか?
「慈悲はあったよ~、ひと思いだったよ~」
いや俺はそういう慈悲のことを言っているのではないぞ。
あとカグヤ、苦しみが長く続かないならそれもいいかなと言う顔をするな。
でまあひと思いに処分された君はなんで今生きてるんだ?
「あたし自身は~機能停止してたんだけど~、死にきれなかった? ドラゴンたちが~、自分たちの~生きてる部品を使って~あたしを修理したのよ~」
龍の聖女と同じように、女神によって慈悲深く廃棄されたドラゴンたちが廃棄室で見つけた微かな希望。
あるドラゴンは自分に残ったわずかな正常に動く部品を提供し、あるドラゴンは機能が完全に停止するまでのわずかの期間に聖女のシステムを修理した。
少しずつ、ひっそりと聖女の修理は行われていた。
別に示し合わせたわけではない。
終の棲家にと放り投げられた廃棄室で見つけた龍の聖女を、それを直しながら機能を停止した廃棄ドラゴンを見て、後続も黙って続いた。
そこにあったのは恨みだろうか、悔しさだろうか、はたまたせめて一矢報いたいというささやかな願いなのだろうか?
廃棄ドラゴンはその想いを彼女に託す。
――そして龍の聖女はここに復活を遂げる。
数多のドラゴンの想いを糧に彼女はいま、蘇ったのだ!
……あれ?
やっぱりあいつ女神じゃなくて魔王じゃね?
難しい。
設定を短くし、会話で中和しようとするとそもそも会話が長くなりすぎる。
聖女をタチ悪くしようとすると女神のほうがさらにタチが悪くなる。
まあつまり女神が悪いんですよ、いやホントにw




