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#256 想いは奇跡の鐘を鳴らす 9

 さて初めて聞く単語だな、「龍の聖女」って。

 いったい何者だ?


「えっと説明すれば長くなるんですけど、……簡単に言うとドラゴンネットワークの前身と言うべき存在でしょうか?」


 ああ、なるほど。


「あの船長? 話はこれからなんですけど」


 俺の言葉にカグヤは怪訝な顔をする。

 実態は知らんが、話を聞く限りドラゴンの闇が見えるネットワークの前身というのなら、そりゃあこんなよくわからん存在でも不思議ではないわなと。


「いや~、それほどでも~」


 と照れたように頭をかく。

 うん、本当によくわからん存在だ。

 でもまあ女神関係者ならこんなもんだろう。


「本当よね~。まともな~、神経じゃあ~、やってられないわよ~」


 まったくだ、二言目にはスぺオペスぺオペと言いやがって、笑ってパワハラしやがって!

 俺は死んでまでブラック企業で働きたくないぞ!

 あげくにウチの娘にまで目を付けやがった。

 女神様にだってバチの1つや2つあたってもいいのではないだろうか!


「それわかる~。でも~、いくら怨念送っても~、びくともしないんだよ~」


 と頷く。

 そうか、龍の聖女でも駄目か。



「ダメだった~」


 残念だ、いや龍の聖女が何か知らんけどさ。




 それはともかく先にこちらの自己紹介をしておこう。

 俺は日下部晃、地球という星で生まれた不幸な男だ。

 成人し、20年ほどブラック企業で働くが、生きることに疲れて、一念発起して脱サラし、憧れの引きこもりになろうとしたところ運悪く死んでしまい、そのまま成仏すればいいところ、若者のスペースオペラ離れを嘆く頭のおかしな女神に拉致られて、なぜか宇宙船をやるから旅をしろって強要された。

とりあえず宇宙船って引きこもることに適しているので引きこもっているのだが、毎回トラブルがやってきて困っているところだ。

俺はただ平穏に引きこもりたいというのにな。

 目下最大の懸案はウチのかわいすぎる娘が女神に目をつけられたようなので、いかに防ぐかを考えている。


 ああ、こいつは女神からもらった俺の相棒、惑星ワイズのドラゴンのカグヤだ。

 宇宙船の管理頭脳として一緒に旅をしている。

 俺を引きこもらせてくれないが、それでもたぶん悪いドラゴンではない。

 いくつかのドラゴンと接してきたがこいつは良いドラゴンのほうだと言ってもいいだろう。

 俺を引きこもらせてくれるのならば確実に良いドラゴンと認定するのだが。

 

「なんかすごいのねぇ~、いまいち、よくわからなけど~」


 残念だ、端的な説明だったのだが。


「端的すぎじゃないかな~? だから~、そこのカグヤ~? ちょっと~情報連結させて~」

 

 と聖女が言うとカグヤが狼狽する。


「ですが、あなたの存在はあり得ないのでは? それに対して情報を与えてもいいのでしょうかと言う思いがあるのですが。できれば見なかったことにして、このままこの星を去りたいのですけれど。トラブルの気配しかなく、今後のことを考えると少々、いえかなり恐ろしいのですが」


 おや?

 カグヤにしては及び腰だな。

 俺が同じことを言ったらトラブルの種には飛びつけというのに、そのことを棚に上げ逃げの一手とは。

 よほど彼女の存在が予想外なのか、


「え~、そんなこと~いうなら~強制的にするだけ~だよ~」


 彼女は歯が立たないくらいの存在かだ。

 俺に対しては自分がジョーカーとなることで人間相手ならなんとでも対応できると自負があったのだろう。

 それができない相手となると逃げの一手が正解なのかもしれない。

 だが逃がしてくれはしないようだ。


「それは……」


 モニターの中でにこやかな聖女にたじろぐカグヤ。

 まあしかたがあるまい。

 ここは俺が助け船を出すところであろう。


 カグヤよ。

 まあいいじゃないか、情報連結の1つや2つ。

 このわけのわからない状況下だと情報は必要だろう、お互いに。

 

「もちろんです。ですが船長、私があちらから情報を受け取れるかは、はなはだ疑問でして」


 なんでだ?

 俺の問いにカグヤが顔を曇らせる。


「あちらのほうが上位の存在でして。得た情報がプロテクトをかけられていたら私では解除できません」


 そりゃあ話を聞いていたらそれくらいはわかるよ、それをなんとか交渉するのが腕の見せ所だろう。


 というかな、俺もブラック企業の人事部に20年勤めて会得した特技にヤバい奴は一目でわかるという技能がある。

 言動、体の動きかたなど見分け方はあるが、一番わかりやすいのは目だ。

 世の中目を見た瞬間、これはヤバいと感じる奴がいる。

 龍の聖女はそのクチだ。

 女神が生まれた時からヤバい奴というのなら、龍の聖女は後天的に壊れてヤバくなったという感じである。

 そういう人間に否定から入るのは危険だ、まあ俺に任せろ。


「……そうですね。特殊な人は船長の専門ですしね」


 いや、それは認めたわけではない。


 ということで龍の聖女よ、なんとなく俺たちは分かり合えるのではないかと感じているところだ。

 他でもない女神への不満と言う点でだ。


「そうねぇ~」


 もちろん俺なんかより君のほうが不満が多いというかもしれない。

 多分想像を絶したことを言ってくるのではないかと思っている。


 しかしながら不満と言うのはそういうものではないだろうか?

 自分が一番つらい、そう思いがちだ。

 しかも原因が女神だというならなおさらだ、こんなつらいことはない!

 だからこそ俺たちは分かり合える、きっとだ!


「なるほど~」


 それにだ、昨今女神とエンカウント率が高いのは俺たちである。

 俺たちは短い間に4回も遭遇して、5回目もほぼ確定している。

 情報交換することでお互い何かしら有意義な発見があるだろう。

 俺たちは協力するべきでないだろうか?

 共通の敵がいる者同士はきっと手を組めるはずだ。

 敵の敵は味方、そうは思わないか?


「……いいよぉ~。君~なんか~おもしろいから~」


 オーケー、交渉成立だ。

 と言うことでカグヤ、情報連結だ。


「毎度思いますけど、船長の交渉術っておかしくないですか?」


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