#250 想いは奇跡の鐘を鳴らす 3
「ともかく、お礼をしたい。そう考えています」
気を取り直したシンがそう発言する。
お気になさらずにと拒否したいところだが、相手が皇族である以上、受けた恩に礼もしないというのではメンツにも関わるだろう。
できれば気兼ねなく貰える程度のものにしてください。
「勲章と爵位程度では負担ではないでしょう?」
この星にずっと住むなら負担かなと思うが、俺たちみたいに星から星を渡り歩く人間にとっては何の価値もない。
他の星で叙勲されたとか爵位があると言えば、この星と親交があれば入国管理局でアピールできるというくらいだが、アピールする努力に見合う見返りがあるかどうかは不明だ。
「盛大に叙勲式をというのはアキラにとっては逆にご迷惑でしょうから略式で済まさせていただきます」
何この子!
俺の引きこもりまで計算に入れてくれてるの?
その気遣い、ウチの管理頭脳どもにも学習してもらいたい!
「船長を甘やかすと本当に外に出ないということは学習しております」
「マスター、最低限人並みの生き方をしてくれないと管理頭脳のほうが故障してると思われるんだよ」
とウチのドラゴンとタイガーはまったく聞く耳を持ってくれない。
「いま宇宙港を改装して式典と会食用のスペースを作っています。少々お時間をいただきたく」
心の底からお気をつかわずにと思う。
そこまで気にしてくれなくても会議室の一角でやってくれればいいのにと思うのだが、略式と言えども格が必要なのだろう。
謙遜は美徳でもあるが、相手に恥をかかすわけにもいかない。
まあしかたないかとあきらめよう。
あと宇宙港内で済むというのであればそのくらいは妥協して外に出よう、温度変化がない分まだ気楽だろう。
「準備が整うまで、もちろん地上で休んでもらっても結構です。歓迎します。ぜひ宮殿に滞在してもらえれば」
だそうだ。
ポーラは惑星パールでエクレア、イザベラに連れられて一度経験があるが宮殿などなかなか入れる機会ではない。
ニーナ、ちょっと行ってみるといい。
「宮殿、気になる」
とニーナが頷く。
いろいろ興味を持つことはいいことだ。
まあちょっと見学してくればいい。
「お父さんは?」
ハッハハ、最近ニーナと一緒にいたいという気がなくもないが、俺の星ではかわいい子には旅をさせろという。
ということでニーナはかわいいから旅してきなさい。
お父さんはニーナのことを信じて留守番しておくよ。
「わかった」
ニーナが頷くので方針は決まったな。
ポーラ、ニーナと一緒に地上で遊んできなさい。
一応レーティアも一緒に。
「わかりました」
「オッケー」
じゃあ俺は時間まで引きこもるかね。
「この状況でアキラにこんなことを頼むのは申し訳ないというか恥知らずと思われるかもしれないのですが、もしも時間があるなら頼みがあります」
……なんでしょうか?
「ジュメルのことです。もともとこの惑星の管理頭脳でなく、私が不時着した星の管理頭脳で、私に力を貸してくれただけなのです。その時に用が終わったら元の惑星に戻すという約定を結んでいるのです。本来なら私が移送せねばならないのですが、現在私はこの星から離れるわけにはいかず」
まあ死んだと思われていた皇女がまた宇宙に出ていくと国民が不安になるだろうし、臣下も民も止めるだろう。
「いまこの星には宇宙船乗りがいません。仮にいたとしても未知のゲートでして、ジュメルより誰彼に教えないということも言われています」
そういや偶然未知のゲートを飛んだとか言ってたな。
新発見のゲートは共有財産だから秘匿できないという暗黙のルールだが、滅んだ惑星に通じるゲートはドラゴンによって秘匿される。
居住可能であるのなら希望者を募って新天地にという発想もありそうなものだが、新天地にいったところで一旗揚げれるわけでもない。
なにせ働かなくてよい世界、一旗ってなんなのだろうか?
土地や資源が足りないならともかく、生きることに何も問題がないのならば誰が住み慣れた惑星を捨て、わざわざよその星に居住しようか。
むしろドラゴンを滅ぼす人間が住んでいた星は管理頭脳も永久機関もなく、資源は食いつくされ、環境破壊も進んでいる。
それならばインフラが整っているところで生きていくほうが賢いだろう。
「アキラは私の事情も知っていますので、ジュメルも文句はないでしょう」
約束したほうと違うジュメルなんですがね。
多分俺に運ばれることはイヤであろうが状況を考えると選択肢はない。
俺としては面倒事の種の気がしてならないが、じゃあ断ってずっとここにいるのかということになる。
どうせ宇宙船から降りないのであればジュメルを運ぶというのは悪い案ではない。
ゲートを往復で4回跳ぶことにはなるが、それ以外は引きこもっていても文句は言われないし、他人から白い目で見られることもない。
まあそれなら引き受けてもいいのではないか?
「いえ船長、私が文句を言いますし、白い目で見ますよ」
物語は徐々に進み始めます。
次回、次々回あたりが前半の山場かな。




