#240 ドラゴンの受難 後編
まあテツジンの件はお前の功績でもいいんじゃないかな、以前レオンにあった時に娘のアヤノの情報をもらったからこれで貸し借りは無しということで。
「日下部船長ならそう言ってくれると思ってましたよ、さすがは現世最強のドラゴンスレイヤー!」
イヤな称号だな。
俺は単に引きこもっていられたらいいだけなのに。
まあそれはさておき、ヤクモのドラゴンよ、これから大変になるだろうから早めに手を打っておいた方がいいぞ。
「へ?」
チビドラゴンが間の抜けた返事をする。
「……いったい何が?」
何って、この星は徐々に他の星からの宇宙船が来なくなる可能性があるだろう?
「ちょ、ちょっと待ってください! 聞いてない!」
まあ俺も言った気はしないな。
予想だよ、少し考えればわかるだろう?
「わからないって!」
ドラゴンというのは想像力に欠けるな。
いまドラゴンネットワークを炎上させている奴らもそうだが、少しは考えればいいのにな。
5手先10手先を読めとは言わないが、せめて1手先、できれば2手先を読む努力はすべきかと。
「ちょっと待って、読むっていうけど何を? いま上手くいっているし、テツジンの屋台のおかげで先も順調って」
まずそこからか。
では視野を広げようか。
現在、惑星ヤクモを取り巻く問題について。
「……何が?」
俺が来るまでこの星ではレオンはアヤノが問題を起こしたから呼び戻せという感覚のようだが、他の星から見たら結婚詐欺を繰り返す犯罪者である。
発覚していない惑星でも幽霊船の夫人が広めていることだし伝わることだろう。
この広い宇宙だから迅速にとは行かないだろうが徐々にそして確実に広まっているだろう。
さてそんな中、連絡の母星では帰って来いという命令書を船乗りを通じて出しているが、これは状況を軽んじていると見られないだろうか?
「……なぜ?」
ちびドラゴンは首を傾げる。
特に拘束力のない紙切れ一枚だすことで終了では責任逃れをしているように思われないだろうか?
他星に迷惑をかけても謝罪もないのでは相手はどう思うだろうか?
自星で手に負えない犯罪者を宇宙に追放したと思われないだろうか?
そして当のレオンは結婚詐欺を犯しては逃げる日々。
まあどう考えてもイメージは良くないわな。
惑星ヤクモを無視するという考えに至っても不思議はあるまい?
「ちょっと待って、そんないきなり」
いや、いきなりではないだろうよ。
犯罪者を野放しにしている惑星ってのは印象が悪かろう。
治安が悪いと思われても仕方ない。
地球だって治安の悪いところに行きたがるやつはいなくもないが、それでも普通は治安のよい国を選ぶ。
「でもうちの星は治安が悪いわけでは……」
そんなのは俺に言われても困る。
判断するのはレオンのせいで被害を被った人がいる星の民だ。
あんな奴がいる星だ。
国として補償どころか謝罪の一言もない。
そんな国でトラブルに巻き込まれた場合助けてはもらえない。
むしろ国ぐるみで身ぐるみ剥がされるのでは?
そんな考えになってもしかたあるまい。
「しかし実際!」
まあ俺も入国管理局にレオンを探して来いって命令されたわな、断ったけど。
無関係なのに頭ごなしに命令される言い方はイラっとするもんだぞ。
そんなことをしていたら誰も寄り付きはしない。
「――そんな!」
絶望そうな顔をするちびドラゴン。
まあこういう考え方もある。
幸いにもここのゲートのそばにはラーメン屋ができた。
そこで美味いラーメンを食ったら、この星によらず次にゲートにって流れができるかもしれない。
まあそういう流れになればスペースオペラ的には特殊かもしれない。
そしてそれはある意味レオンの功績であるのでお前の身の安全は保障されるかもしれない。
「本当か?」
ただクリドリのドラゴンが自分の星は観光惑星だから見逃してくれと言っても無理だったな。
ラーメンを食いに来る客がいるかもしれないが、惑星ヤクモの人間が運営しているわけでない以上、状況はさらに悪いとも言える。
「ちょっと待ってくれ! じゃあどうすれば!」
ファイト!
「いや、そんな笑顔で言われても」
まあ月並みだけどスペースオペラを広めるために頑張れ。
降って湧いた屋台程度で慢心していたらハリセンが飛んでくるぞ。
何もせずいるドラゴンと、何かしたけど失敗したドラゴンではどちらが情状酌量の余地があるだろうか?
「……日下部船長、何かアイデアはありませんか?」
頭を下げてもらってもさ、むしろこのままだと危険だぞってアドバイスしてやっただけでもありがたいと思ってくれよ。
「むしろ不安が押し寄せてるんですが!」
まあ後日いきなりハリセンよりは心の準備ができるだろう?
「ハリセン確定!?」
まあ何もしなければな。
あと俺は基本ドラゴンは助ける気が……、カグヤ以外は助ける気がないからさ。
まあ頑張れ。
おいカグヤ、そろそろ鬱状態から立ち直って通信切ってくれるか?
「了解です」
返事はして、通信を切ってくれるが表情が暗い。
なあカグヤよ。
もう面倒くさいからさ、ドラゴンネットワークでこれ以上カグヤを糾弾するなら俺が個別に通信するぞってドラゴンどもに言っておけ。
「へ?」
間の抜けた顔をするカグヤ。
そう言っておけば抑止力になるんじゃないのか?
「それはもちろん。ドラゴンの中で好き好んで船長と話したいというのはいませんよ、いるわけがありません」
断言されるのも悲しい話だが。
「……いえ、蒼龍は話したがってますね、竜玉が止めてくれていますけど」
そういやそうだったな。
まあそんな例外はさておき、なんならこれから一番お前を糾弾しているドラゴンにつないでもいいぞ。
「船長……本気ですか?」
そりゃあお前くらいは助けるよ。
俺の引きこもりライフにはお前が必要だ。
「それを言わなければちょっと感動したんですけどね」
と柔らかい表情になって肩をすくめる。
「大丈夫です、お言葉だけで」
そうか?
「ええ、もう船長の宣言を流した直後ドラゴンネットワークが一瞬で沈黙ですよ。一撃必殺、一網打尽ですよ! さすがは現世最強のドラゴンスレイヤーです」
まあ俺はその称号を認めてはいなかったんだが、そろそろ本気でドラゴンとの向き合い方を考えるべきかもしれないな。
「本当にいまさらですね」
まあ急ぐことはあるまい。
どこかで酒場のオーナーでもしながら考えよう。
俺の言葉にカグヤは何やら楽しげに言う。
「では私はそろそろ酒場のデザインでも考えましょうかね」
最近ずっと惑星ごとにドラゴンを出していますが、彼(女)らはこんな扱いでいいのでしょうか?
幸せなドラゴンもいてもいいのではないだろうか?
だが今後の展開を見ると幸せになるドラゴンは……うん、カグヤは幸せなほうだと思うんですよ。
<追記>
パソコンが壊れました
データのバックアップは何とかなりましたが、予備はあるのですがワードが使えなくて投稿できません。
土日で買い換えますのでしばらくお待ちを




