#238 血は水よりも濃い 9
「呆れてモノも言えません」
通信を切ってすぐに、額を押さえたカグヤが呆れてもちゃんとモノを言う。
アヤノは俺の言うとおり、ミナヅキが後見人になってくれるのはチャンスだと判断し、受け入れることになった。
その事をミナヅキに報告するもほっとしたような顔をしていたが、これから彼にはほっとする間があるのかは不明だ。
さてRPGでこれが欲しければ○○をしてこいというお使いクエストが終わったような解放感だ。
「正直なところクエスト発注人にさらに厄介なクエストを押し付けた感じですが」
そりゃあまあ、自分で解決すべきことを他人になんとかさせようとするんだから思い通りにならなくても仕方あるまい。
そもそも親になろうという人間がファーストタッチを他人に任せるな。
それによく考えたら報酬っていうのも腕時計を優先的に買えるであって、タダでもらえるわけでもない。
それなのによく働いたのではないだろうか?
あとミナヅキはしばらくは気がつくまい。
それどころか俺に感謝することだろう、可愛くしおらしいアヤノが懐いてくれるから。
「まさか遅効性の毒とは思いもしないでしょうしね」
毒とは失礼な。
あきらめて受け入れさえすれば薬となる。
「取り扱い注意の劇薬の気がしますよ」
一途といえば聞こえがいいかも知れないが、初恋をこじらせた人間にはそれくらい必要さ。
早いときに玉砕してふっ切っておけばこんなことにならなかっただろうよ。
「というか、船長がミナヅキではなくてアヤノの方に荷担するとは意外でした。レオンを嫌っていましたので娘にヒドイことするのかと」
お前は俺をなんだと思っている?
「未成年に真顔で騙すことを教える詐欺師の親分でしょうか」
頬に指を当て、可愛らしく言う。
失敬だな。
恋の駆け引きと言え。
「駆け引きと呼ぶには抵抗がある内容でしたが?」
見解の相違だな。
しかしまあカグヤの言う通り、アヤノに荷担する気はまったくなかったんだ、例えミナヅキをうざく感じていても。
「ではなぜ?」
いやあの娘さ、本当に俺の友人の若い頃にそっくりな思考でさ。
「お笑い談義がですか?」
それも含めてな。
ヤツがまだ若かったころ、まだ女のことよりクラスの話題の中心になることのほうが大事だった時がある。
その当時は苦労したが、経験を積んだ今となってはあしらえるのではという思いからちょっと相手をしてみようかと。
「ではリベンジ成功ですね」
これで真人間とは言わないが、人様にあまり迷惑かけなくなったらいいんだがな。
まだ何とか間に合うんじゃないかなという一縷の希望にかけてはみたが。
「ミナヅキとお付き合いすることでアヤノは更生するんですか?」
更生というか、少し落ち着くんじゃないかなと。
「今まで自由気ままにやっていたのにですか?」
確かにレオンとアヤノは似ているけど、どこまでかにもよるけどな。
「どういうことでしょう?」
血は争えないという言葉がある。
アヤノの表面上の行動を聞く限りではそれが当てはまる気がする。
だが違う見方もできるのではないか。
父親と同じ性格は同性に受け入れてもらえなかった。
だからコミュニティーを異性に求めた。
だがそれは話し相手、遊び相手というレベルでだ。
相手が異性として自分を見ていても興味はない。
なぜならば自分には好きな人がいるからだ。
「それがミナヅキだったと。ですが単に身持ちが堅いとか彼女の眼鏡にかなう求愛者がいなかっただけでは?」
それを否定するのが先ほども出てきた「血は争えない」だ。
レオンが、もしくは俺の友人が同じ立場になった場合ホイホイと付き合う、同時に複数な。
「ああ、そういえばそんなこと言ってましたね。5股とか6股とか」
それをしないのはなぜか?
それを説明するのも「血は争えない」ではないだろうか?
「船長、本当に意味が分からないのですが?」
アヤノはレオンの血を引いている。
だが同時にフミノの血も引いているのだよ。
「それはそうでしょう」
カグヤが要領を得ない顔で俺を見る。
つまりはアヤノはダメ人間を好きになる血を引いているのだよ。
ミナヅキはフミノが好きな癖に告白する勇気もなく、他人と結婚しても諦めきれず、うじうじと過ごし、旦那が失踪して手助けにと頻繁に会いに来るもやはり告白の一つもできない臆病者。
そんなダメさ加減がアヤノにとってはツボだったのではないか?
シゲシゲをわかってあげれるのは自分だけだ。
自分がいないと彼は一生1人だ。
だから私が彼を支えなければならない。
そんな思考に陥っているのではないだろうか?
ゆえに一途に彼のことを想っている。
「似たような事例をフミノを語るときにも言ってましたが……不可解じゃないですか?」
それが人間という生き物だよ。
不可解、不条理の塊さ、だからこそドラゴンを滅ぼそうとするんだよ。
「それを言われると納得するところですね」
言っておいてなんだが、頷かないでくれるかな。
だからまあ、なんとかなるんじゃないか……いや、待てよ。
「どうしました?」
しかしそんなに人間は血に抗えないのだろうか?
そうであるならば犯罪者の子供は犯罪者ということになる。
しかしながら犯罪者の子供でも正しい人間もいれば、聖職者の子供から犯罪者が出るのがこの世の常だ。
血は絶対ではない。
「いきなり手の平を返しましたね?」
怪訝な顔をするカグヤ。
いや、お前相手ならさっきので終わればいいのかと思うんだが、よく考えたらあの場所にポーラもいたからな、帰ってきたら事の顛末についての詳細を求められるだろうと。
「そうでしょうね」
だからポーラ用にも考えておかないといけないなと。
「さすがです。相手によって騙し方を変えるとはまごうことなく一流の詐欺師です」
呆れつつ、おざなりの拍手をするカグヤ。
うるさいな。
えっと、生みの親より育ての親という言葉がある。
アヤノは幼少期にレオンに育てられたせいで少々歪んだが、これからはミナヅキに育てられることで変わることだろう。
なにせ正反対の性格だ。
そして彼はお人よしというレベルに人がいい。
そんな人間に根気強く、愛情込めて育てられれば良い方向に進むことだろう。
まだ若いし、そこまで性根が腐っているわけではない。
ただ孤独から荒れていたようなもんだよ。
レオンのようになることはない、きっと間にあうだろう。
ってのはどうかな?
「どうと言われましても、ポーラ用の前に、私用の説明を聞かされて、すぐに真逆の内容を聞かせられてどう言えと?」
カグヤの俺を見る目が冷たい気がする。
「でもその言い分だとミナヅキに語ったことに似てますし、あっちの方がいいんじゃないですか?」
……えっと、俺あいつになんていったっけ?
「忘れたのですか? あんなに力説しておいて」
なんか途中で面倒くさくなって早く切り上げようとした記憶はあるんだが。
「最低ですね。……あとで録画を見せます」
それはありがたい、ってか録画してるのかよ!
「まあ通信は証拠にもなりますから」
そうですかい。
それはさておき後は祈るとしましょう。
「アヤノとミナヅキの恋の行方をですか?」
正確にはアヤノの猫かぶりがいつまで続くのか。
その間にミナヅキと既成事実までいけば成功だ。
その後アヤノにどんなに振舞わされようとミナヅキは離れまい。
まあ成人するまであと1年とか言っていたのでそこまでに決まってほしいものだがね。
「決まらなかったらどうなるんです?」
そりゃあ、宇宙にもう1人、結婚詐欺師が増えるだけだろうよ。
詐欺じゃないよ~、恋の駆け引きなんだってば!
大事なことなので本編に続いてもう一度繰り返しましたw
「血は水よりも濃い」編終了です。
実話をもとにしたフィクションを書いてみましたが、事実がどこまであるかはあえて伏せます。
皆様の想像よりも誇張した部分やあまりにもひどいのでマイルドにした部分もありますが、これくらいならフィクションとして何とかなりはしないだろうか?
願わくばアヤノのモデルの子には更生してもらいたいものです。
まあ自分で言うのもなんですが少しひどい話でした、
評判が良かったラーメン回の後にする話では決してないのかとは思いますが、この小説はこんなもんでしょうw
ある意味250話にふさわしいのではないかと。
そうです、お気づきでしょうか?
この小説、とうとう250話です、凄いね!
何が凄いかって毎日読んでくださってる方がいるってことですよ。
そしていまだにご新規さんがいるような感じで。
いいの?
皆さん、そろそろ止めなくても?
これから9話、日常編だよ?
いま次のシリーズ書き始めてるよ?
形にはなってないけど300話超すくらい書けるネタはすでにあるよ。
まだついてきてくれるの?




