#236 血は水よりも濃い 7
まあお前さんのシゲシゲへの想いは察した。
「だからアタシは何とも思ってないって!」
だからツンデレはもういいって。
別に俺らみたいなしばらくしたらいなくなる宇宙船乗りにバレたところで何か困ることもあるまいよ。
壁に話しかけてるようなもんだろうに。
「気分が違うって!」
まあ俺はそこのポーラと違って積極的に関わりたいとは思ってないからそれならそれで構わないけどな。
「でもキャプテン。結婚詐欺をした方が秘めた恋をしているという展開は気になるところですが」
「結婚詐欺も秘めた恋もしてない!」
ポーラの言葉に机をバンと叩いて反論するアヤノ。
ミナヅキの話では結婚詐欺は結果的に疑われただけで済んでいるらしい。
こんな性格だから友達がおらず、結局顔で寄ってくる人間をその場しのぎで相手していたら向こうが勝手に熱をあげて、それも複数いれば競争が始まり貢物の額も増えたってところだろう。
それがだんだんとコミュニティーがギクシャクして当人に選ばせようとしたら、その当人が誰にも興味を持ってなかったという話なだけで。
オタサーの姫がサークラするようなもんだ。
結局こっちが興味を持っているからと言って相手がどうかなんてのはわからない。
アヤノの場合は逆恨みされたとも言えるが、そういう状況下に甘えたのも自衛がなってないとも言える。
外野が目くじら立てて問い詰めることではないよ。
「……そうだったのですか。アヤノさん申し訳ございません。失礼なことを言いました」
ポーラが頭を下げるとアヤノは面白くなさそうに頬を膨らませ、
「どいつもこいつも父親が結婚詐欺したからって血は争えないって冗談じゃないよ」
そう思うなら疑われる行動をしなきゃいいだろうと思うがね。
「なによ! アタシに自分を殺して大人しくしろっていうの? 親父のせいで、誰かの為に? じゃあ本当のアタシはどうなるのよ! 自分らしく生きちゃだめっていうの?」
「……それは」
ポーラが返答に詰まり、俺を見る。
ここで切り返せないくらいなのになんでわざわざ来るのだろうか?
俺がいなきゃ結局スゴスゴ帰ることになるのになぁ。
本当の自分っていうのは貫けるなら貫けばいいさ。
でもそれを誰かに認めてもらおうと、許してもらおうと思うのはそもそもが間違っているんだよ。
「どうしてよ?」
そりゃあしょうがない、君以外の人間にも本当の自分があるからさ。
君が本当の自分を貫くと犠牲になる人間がいる。
例えば君に笑いを強要されたり、付き合ってもらおうと貢いだり、競争相手と揉めたりな。
その人たちにアタシは自分らしく生きるから、あなたたちは自分を殺して大人しくしていろって言うのか?
それは少し傲慢だろうよ。
「……それは」
君と一緒では本当の自分になれないと思った人間が友達をやめて君から離れていった。
君のために本当の自分を殺してまで尽くしたのに、まったく応えてくれないから結婚詐欺だと訴えた。
結局のところそういうことだ。
人と関わるということは妥協なくしては生きられない。
妥協はしたくなく、自分らしく生きたいと思った君の父親は宇宙へ逃げた。
「アタシに宇宙に出ろっていうの?」
俺は親父のようになるなよ、妥協しなよって言ったつもりなんだが。
「いまさら?」
むしろ今がチャンスじゃないだろうか?
「なんでよ?」
シゲシゲに引き取られて、それをきっかけに変わればいいさ。
自分に今まで与えられなかった父性に出会って変わりました、でいいんじゃないか。
「でもアタシは!」
ああ恋人になって欲しいんだったか?
それも問題ないんじゃないか?
「シゲシゲはお母さんが好きで、そっくりな顔は……好きになってもらえるかもしれないけど、アタシは……お母さんみたいになれないし」
語気が弱まるアヤノ。
というかさ、ミナヅキの思うフミノ像と、君の知ってる母親像って同じだと思うか?
「へ? 違うの?」
そもそもだ。
たぶんミナヅキはフミノさんをかなり美化していると思うぞ。
告白もできなかった初恋をこじらせた上に故人だからな。
君だって母親としての顔しか知るまいよ。
それこそ本当のフミノはどんな人だったか、なんてのは。
「そりゃあそうかもしれないけどさ。あんたはわかるの?」
フミノさんとは会ったことはないから断言はできないけどな、レオンのような人間に惚れるのは皆どこかおかしい。
今まで何人も見てきたが正直付き合いきれなかった。
一例として5股かけられて怒り狂ってストーカーにまでなった女性がいた。
時が経って別の人と結婚したんだが、似たようなダメ人間だったそうだ。
結局ダメな人間を支えることで幸せを感じるタイプの人間だったのだろう。
彼を理解できるのは私だけだと思い込む。
俺から言わせたらまったく理解できていないのにね、ということになる、悲しい話だが。
まあそれでも当人が幸せならば俺に口だす資格はない。
できれば俺のいない遠くの場所で幸せになって欲しいとは常々願っていた。
「人の母親をダメな人のように言わないでくれる!」
そういうつもりではないのだが、失礼した。
でまあ問題はここからだ。
つまりミナヅキの好みは、君の知ってる母親ではないと思うぞということで。
感想、誤字報告、ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。
アヤノとの会話はもう一話続きます。
この辺とても書きにくかった




