#234 血は水よりも濃い 5
「キャプテン!? いえ、これには理由がありまして!」
通信に俺がでると慌てるポーラ。
「決してキャプテンの言いつけを軽く見ているとかではなくてですね」
なんでわざわざ地雷に飛び込むのか不思議ではならないが、若い子は親や教師が間違っていると言えば言うほどやりたがる生き物だ。
では逆にしろと言ったら応援されたと真に受けて、失敗し、そして責任がこっちに来るという。
子育てとはかくも難しい。
ニーナは手がかからずに育って欲しいとは思うがそれは親のエゴなのだろうか?
元気で幸せなら少々親が苦労してもいいというべきなのだろうか?
そう思えるほど立派な人間にこの引きこもりがなれるだろうか?
むしろそんなのができないから引きこもっているわけで。
しかし引き取ったからには責任が、と思考が無限ループしそうなのでとりあえず横に置いておこう。
ポーラ、お前に言いたいこともあるが、とりあえずアヤノ・ヒイラギに用がある。
代わってもらえるか?
「キャプテンがですか? どうして?」
なりゆき、かなぁ。
本当に迷惑なんだけど。
「なに、アンタがコイツの親?」
画面には不機嫌そうな少女が映っている。
ポーラのせいか険のある表情をしているがそれでもその美貌を損なうことはない。
母親と瓜二つというのならば、ミナヅキの気持ちもわからなくもない。
こんな綺麗なお姉さんと子供の頃から接していたら初恋もするだろうし、結果次第では初恋もこじらせることだろう。
レオンみたいなものに寝取られたらなおさらだ。
実の親ではないが一応保護者でな。
うちの子はちょいと頭が固いからいらだたせたかな、すまない。
「本当だよ、話が聞きたいって無理矢理押しかけてきて、話をすれば間違ってるって自分の価値観押し付けってなんのさ。何様っていうの?」
その点に関しても本当に申し訳ない。
だから行くなって言っておいたのにな。
あとで叱っておくよ。
「ふん、どうだか。どうせこの場をやり過ごしたらいいんでしょう? 親父が犯罪者だからって私までそんな風に扱ってもいいわけ?」
お怒りはごもっとも。
でもその子は君の親父に騙された女性にナイフを突きつけられたり、実際に当人に会った時はホテルに連れ込まれそうになったからな。
少しは被害者ということでご容赦していただければ。
「ふんだ。親父に嫌な目にあったら親父にやり返せばいいじゃない。アタシに当たられても困る」
まったくだ。
親は子の責任を取る義務があるが、子供に何の罪があろうか。
ましてやロクに子育てもしてない父親の罪を子供が背負ってなんになる。
まったくもってそう頭では理解しているんだよ。
だけど悲しいことに被害者になったらそう割り切れない部分もある。
以前、一企業の支社長になった程度で有頂天になった人間がいた。
そいつは所信表明をすると言い出し、自分の会社がいかに素晴らしいのかを社員を集めて演説を始めた。
ブラック企業ともなると1分1秒が惜しいというのにわざわざ時間を割かされた。
そして語った内容が自己中心的で頭痛がしたもんだ。
あげくに「こんないい会社は他にはない。いずれは私の子供たちを入社させたい。そんなことが胸を張って言える会社だ」と。
あなたはこの支社でトップだから人が言うことを聞いてくれているが、支社長のパワハラで壊れた人間、セクハラで辞めた人間が多数おり、働いているもので支社長を恨んでないものなどいやしない。
甘い汁を吸おうとする腰ぎんちゃくはいるが、それだって支社長の無理難題にストレスを感じ、部下にパワハラする始末。
そんな負の連鎖があると支社長の子供が入社したらいじめようとみんなが思っても止めることができるはずもない。
だからといって止めないわけにはいかないのが人事と言うものだ。
いじめが行われ、発覚すればフォローしない人事が悪いと逆切れされ、こちらの身の安全が保障されない。
まずは違う支社に飛ばすのが親切というものだ、そう当時の総務部長は考えた。
そのことを後から知った支社長が自分の手元に置いておくのだと怒り狂うが、その時点で本社社長のハンコがついてあれば覆されることもない。
結果、子供はいじめから守られることになるのだが、状況を判断できていない支社長に総務部長はパワハラを受け続け、鬱で会社にこれなくなり、ほどなくして退社した。
ああいう人こそ会社のトップになってほしかったと皆に惜しまれつつ、支社長がさらに嫌われることになったエピソードである。
弱いものを攻撃するのは楽だし、弱いものを守ろうとすればそれなりに覚悟が必要だ。
「いや、教訓めいて言われても、それって子供まったく悪くないよね? 子供が攻撃されるいわれ、ないよ」
人間何もしなくても恨まれるというエピソードだよ。
だから自衛が必要なのだよ、これホント。
つまり自衛できない9歳の少女をホテルに置き去りにして、自分は知的好奇心を満たすために出かけて、――例え地球と違って宇宙的には管理頭脳さえいれば子供を放置するのが常識とはいうのであっても――あげくに相手に不快な思いをさせる娘には保護者として教育的指導が必要なわけで。
ポーラ、だから帰ってきたら次の惑星まで魚抜きな。
「その流れで私なんですか!?」
「ちょっと、魚って、……え? 何? マジで言ってんの? あんたらなんなの?」
ツッコミをいれようとするが、まさか自分がと絶望的なポーラの表情を見て、驚き半分、呆れ半分のアヤノ。
悪いな、この子特殊で。
「いや、あんたもたいがいだよ」
いつも感想、ありがとうございます。
ニヤリとしたり、思わず反応したくなるものも多く、ありがたいなと思っています。
感想も返したくはあるのですが、余裕がないのでご容赦ください。
読んでいますのでこれからも一言ツッコミでも入れていただければありがたいです。




