#232 血は水よりも濃い 3
こう言っては悪いが、そもそもあなたはどうするこうするというよりも、そもそも口出す権利がないよな。
君は母親と恋人になっていた訳ではないんだろう?
「それは、……そうです。まだ離婚をしてませんでしたし」
なら特に関わることもないんじゃないかな?
誰も責めはしないだろう。
「その通りかも知れませんがアヤノちゃんを1人にしていいものかと」
ちなみに娘さんはいくつ?
「16歳です」
幼いというほどでもないし、そこまで気にしなくてもいいのでは?
「でもこのままだと成人になれなくて」
ああ、そういえばこの星では親に計20年育てられないと成人と認められないのだったな。
その子は成人まであとどれくらい?
「あと1年です」
国に保護してもらえばいいんじゃないか?
そういうのもあるだろう、こういう国だと。
「それは……あります」
それに評判が悪いんだろう?
結婚詐欺だのなんだので。
「そこなんですよ!」
そこなのか。
できればそれは誤解ですと言って欲しかったが。
「フミノさんの話では、小さいときから相手を下げてでも自分を持ち上げたり、人の輪の中心で笑うためには友達を平気でイジると。なんでもお父さんそっくりなんだとか」
俺の友人にもそっくりだぞ、それ。
性別逆だけど。
「そしたら女の子の友達に相手にされなくなって、それならばと男の子と遊んでいたら、いつの間にやら姫的に扱われるようになったそうなんですよ。アヤノちゃん、フミノさんそっくりで綺麗だからしかたはないんですけど」
照れたように言われても君の功績ではないと思うぞ。
あとしかたなくはない。
「……そうですよね。でも本当に瓜二つって感じで似てて」
でも中身が父親似だと。
そうなると寄ってくる男に貢がしていたら値段がどんどん跳ね上がり、それだけ貢いでもキスすらさせてくれないと怒りが爆発した流れか?
「正解です。……よくわかりますね」
嬉しくない。
でもそれなら貢ぎ物返せばすむのでは?
「好意でもらったものを返す必要がある? なにもさせてくれないって未成年に体を売れっていうの? そっちの方が犯罪じゃない! と言い張りまして」
まあ一理なくもない。
というかその開き直り方は本当に友人そっくりだ。
でまあ彼女の言い分はわかった、いやわかりたくないけどさ。
その上で言おう、もう母親のことなんか忘れてしまえ。
娘の面倒を見ることはない。
何もかもしょい込む必要はないよ。
いまは確かに辛いかもしれない、けどいずれ時が解決してくれるよ。
「クサカベさんのいう通りなんでしょうね」
ミナヅキはうなだれるかのように頭を下げる。
「頭じゃわかっているんです。あのレオンの子だって。でも顔を見るとどうしてもフミノさんを思いだして。あの顔の子を何もせずにまた不幸にするのかと思うと」
ああ、こりゃダメだ、何言ってもダメなパターンだ。
感情が優先して状況がまるで見えていない。
そんな人間に客観的になれというのは時間の無駄であろう。
ならばどうするか?
とっとと話を切り上げるに限る。
切り上げ方?
そんなのは決まってる。
背中押してやればいい。
ミナヅキさん、蛙の子は蛙っていいます。
アヤノはレオンの子です。
だから将来同じようになるという不安は痛いほどわかります。
でもねフミノさんの子でもあるんですよ。
顔が似ているから遺伝が終わりというわけではない。
性格は、今は父親に似ているからと言って、今後ずっとそうだとは限りません。
もしかしたら母親に似るかもしれません。
「……そんな奇跡が起きるでしょうか?」
奇跡というのは何もしないところには起きません。
何か必死で努力したところに起きるものです。
「と言いますと?」
人が変わるのには色々あるでしょうが、まずは環境を変えてみましょう。
察するにアヤノさんは幼くして父親に逃げられ、その後も父親の悪い噂を聞いてきたのでしょう、そりゃあ反抗期にもなります。
「それは……そうかもしれません」
正直反抗期というにはどうかとも思うけどね。
まあ簡単に言うと父性に飢えているのではないかと考えられます。
だからこそ、あなたが必要なのです!
なにも立派じゃなくても構いません。
アヤノさんのことを心から大事だと思っている人が、愛情こめて育てることで、彼女の心に何か変化を与えられるのではないでしょうか?
無償の愛情を感じることが彼女の更生の第一歩ではないでしょうか?
ミナヅキさん、それができるのは今となってはあなたしかいないんじゃないでしょうか?
「僕にできるでしょうか? 僕はアヤノちゃんを通じてフミノさんを見ているのではという考えがどうしても否定できないんです」
最初はそうだったかもしれません。
でもね、性格が嫌いなレオンそっくりだとわかって、それでもなお心配できるあなたはもう少し自分のことを信じてあげたほうがいい。
大丈夫、あなたはわかっています。
フミノさんはフミノさん。
アヤノちゃんはアヤノちゃんだと。
だからね、大好きなフミノさんの残した子供を立派に育てることが供養なのです。
フミノさんの供養でもありますが、あなたの告げることができなかった恋心への供養なのです。
この先、あなたが歩き出すために面倒見てはどうでしょうか?
「……そうですね。ずっとモヤモヤして堂々巡りだったんですけど、クサカベさんと話してストンと腑に落ちた、そんな感じです。アヤノちゃんの親権を引き取ろうと思います」
そうですかい。
しかしながら残念なことにそれは地獄の始まりだと思うんだけどな。
このシリーズは私が体験したものもありますが、関係者から聞いたこともあり、完全に実話かと言われたら語弊があるのかな?
実話をもとにしたフィクションとしてお楽しみいただければ。
そうですよ、フィクションなんですよ。
例えば前話では幼稚園の時にママ友に手を出した時には逃げなかったと聞いてますもの。
逃げたのは小学校の時に浮気した時ですもの。
ほら、フィクションでしょう?w




