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#230 血は水よりも濃い 1

 惑星ヤクモ。

 レオンの母星といえばよいイメージがないがフクハラの母星でもある。

 そうなるとこの星には1つ思い出すことがある。

 以前通った三つ子星界隈ではロストテクノロジーである機械式の腕時計もこの星では珍しいものではないという。

 ならばここで買い付けしておくべきだろう。

 新ゲートの発見で三つ子星とヤクモは近くなったとはいえ、すぐに需要と供給が追いつくこともないだろうし、三つ子星で売れなくとも他の星で高値で売れるかもしれない。

 ワインほどとはいかなくても何らかの交渉材料になることもあるかもしれない。

 幸いにも俺の持ったコンテンツはワイズだけではなく、レーティアの母星である惑星フィ=ラガ以前のものは今まで国交が少なかったということで相も変わらず好調。

 ならば金に糸目をつけることもない。

 という事でレーティア、任せた。


「自分でいく案件だと思うよ」


 面倒くさい。

 あと降りたくない。

 もっというなら引きこもりたい、引きこもらせろ!


「言うと思ったけど、たまには僕の予想を裏切ってくれないかな」


 知ったことか!


 レーティアの言い分はさておき、とりあえずできればハンドメイドで出来のよいものを購入しようと、その道の有名職人にアポイントをとってもらう。

 できれば在庫を全部買い取る感じでやって来てくれ。


「……それがだけどさ」


 どうした?

 気難しいとかでアポイントすらとれないというのか?

 それは勘弁してくれよ。


「いや逆っていうか、マスターって本当に運が悪いよね」


 レーティア、しみじみ言わないでくれるかな?

 で何だっていうんだ?


「本当に偶然なんだよ、1番腕のよい職人を探したら、その人がちょうどいま宇宙船乗りを探しているんだって。という事で自分で話してくれる?」


 おい!


「カグ姉の言った通りだったよ。本当にトラブルって向こうからやってくるもんだね。うちのマスター、おかしくない?」

「そうでしょうレーティア、やっぱり船長って異常ですよね」


 うるさいわ!




「初めまして、僕はシゲル・ミナヅキっていいます。一応時計職人の真似事をしています」


 通信に出た男はちゃんとご飯を食べているのかと不安になるくらい線が細く、顔色も悪い。

 あまりにも吹けば飛ぶような体つきに病人と話しているような気分になる。

 だが彼は一応というレベルではないらしい。


 ご謙遜を、シゲル・ミナヅキといったら一級品の時計を作る職人とうかがっています。

 

「他星の人にまでそういってもらえると嬉しいですね」


 と微笑む。

 とはいえ正直なところこっちはそんなことよりも、あなたがそのまま倒れないかどうか内心ドッキドキです。


 おっと申し遅れました、自分は宇宙船イザヨイの船長の日下部晃と申します。

 三つ子星――惑星ゴール、シール、パールの3つをまとめてそう呼ぶ星系がありまして、そこでは機械式の腕時計などがとても珍しいものとして重宝されています。

 私も立ち寄った時にそちらの王族から手に入れてきてくれと依頼を受けているのですよ。

 ぜひミナヅキさんの時計を購入させていただけないかと思ってご連絡をさせていただきました。


「ちょっと待ってください、王族なんですか?」


 ええ、惑星シールの王族の方からの依頼です、直接の面識はありませんが。


「ああびっくりしました。王族の人と知り合いなのかと」


 知り合いもいますよ。

 惑星パールの王女とは面識もありますし、この船に乗ったこともありますよ。

 その子はその後三つ子星の皇帝になりましたよ、……一瞬ですが。

 あと惑星フォースフルの皇子……いや皇女にも会いましたよ。

 その方に貸した管理頭脳を返してもらおうと進んでいる最中で。


「すごいですね、宇宙船乗りの方って王族とも知り合えるんですね?」


 そうですね、運が悪いと


「え? 運が悪いんですか?」


 そうですよ。

 王族とか、あと偉い人に関わるもんじゃないですよ。

 入国禁止とか他星のワインをタダでよこせとか平気で言いだしますからね。

 試練のために高価なものをよこせという影姫に、腕時計を渡し、挙句みんなが丸く治まるように案を出したというのに逆切れされたりもしたっけ。

 そんなのに関わらず普通に商売して普通に生活したいもんですよ。


「……はあ、よくわかりませんが、宇宙船乗りの方もいろいろあるんですね」


 わからないほうが幸せというものですよ、いや本当に。


「ですが色々と経験や体験ができることは楽しいのでは?」


 まあ善し悪しとしか。

 俺的にはずっと引きこもっていたいのにな。


「ああ、それは少しわかります。僕も夢中になって時計を作っているとご飯の時間だとか休憩しろとか運動しろって言う管理頭脳に辟易してるんですよ」


 ああ、わかります。

 本当によくわかります。

 あいつら本当にうざいですよね。

 カグヤとレーティアの視線を無視して管理頭脳が引きこもらせてくれないことを語りあう。

 この人とは話が分かり合えそうな気がするよ。


「船長はこの方と違って生産性のある行動をしてませんがね」

「よく見てよマスター、ろくに食事をとらずに運動もしてないから体が細すぎるんだよ」


 どうにも管理頭脳は口うるさい。

 正論を言えば納得すると思うな!


「口先で人を騙す詐欺師には言われたくないですね」

「納得はできなくても一番もっともな意見を正論って言うんだよ」




 ドラゴン&タイガーを無視して、管理頭脳のダメ談義をしていると自然に打ち解けてきた感じがする。

 さあこれなら腕時計交渉は何とかなるかな、そう思った時にミナヅキさんは俺に聞きたいことがあるという。

 なんでしょうか?


「クサカベ船長はレオン・ヒイラギという方に会ったことはありますか?」


 一番聞きたくない単語がここで来るのかよ!


レオンのネタはもう書くまいと思っていたのになぁ。

モデルの人の母親や共通の友人に会う機会があり、話(愚痴)を聞いていると、なぜか書こうという気になったのです。

書き終わった今となっては少し後悔していますw



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― 新着の感想 ―
[一言] モデルの母御と会われたということに「なんで?」と思い、そういえば見捨てないでと言われたご友人だったかなと思い出し。 なんというか。作者様は引っ張られず、影響されずでよかったなぁと。 ふとおも…
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