#228 だから凡人は天才に挑む 6
宇宙で屋台をするには何が必要か?
とりあえず接舷できるようにとか、食堂スペースを確保する、あとは金銭の問題がある。
金銭を要求したところでテツジンに使い道がない。
例えば食材を買いに惑星ヤクモにいこうとも、所有者のいない宇宙船が来たら接収されるのがオチだ。
儲けようとしていないだけに無料で提供するにはどうすればいいのかとなると食糧プラントを整備してラーメンに必要な材料を生産できるようにしなければならない。
幸いそのためのノウハウはカグヤが持っており、宇宙船ガイストにもある程度の設備はあるので増改築することで対応する。
ゲートから出てきた、もしくはゲートに突入しようとしている宇宙船に通信して客引きをするとしても、所有者がいないとばれたらその宇宙船の所有権を主張されるかもしれない。
対策として考えた結果、テツジンを人間風の外見にすることになった。
カグヤ、レーティアの例から素体さえしっかりしておけば人と区別がつかない。
ヨミ博士から譲り受けた素体の人形の予備を使い、テツジンの改修にかかる。
てかお前たちの予備の素体がなくなるから反対されるかと思ったんだが?
「ヨミ博士からは譲り受けたものは今私に使っている分ともう1体の完成品。今回はもう1体のほうをテツジンに提供します。それとは別に未完成品で部品のみのモノが1体分ありますのでまだ大丈夫です。同性能のものはイザヨイでは作れませんが、もしものことがあっても取り急ぎは何とかなりますし、宇宙は広いですから高性能の素体が手にいれれるチャンスもありますよ」
とカグヤ。
まあお前に文句がないならそれでいい。
「というか私が反対すると思っていたのですか?」
あの素体を欲しがっていたのはお前だからな。
「それはそうですが、あの当時はポーラの心的ストレスを慮った結果です。今となってはレーティアもニーナもいてにぎやかになりましたから、最悪モニターに戻りますよ」
それはそれで寂しいな。
「そうですか。私も船長にお酌できなくなると食事の時に暇になりますから、できれば維持したいですね」
それを言われるとずいぶんと性能の無駄遣いしてる気がするよ。
「まあ壊さなければいいだけですよ。船長のスタイルですと荒事に巻き込まれることはないでしょうから、とりあえず心配ないかと」
まあ引きこもりだしね。
「正直なところ少しは荒事に関わってほしい気もしますよ。なんていうか相手を騙したり、唆したり、煽ったり、嵌めたりすることだけがスペースオペラじゃないと思うんですよ」
俺的にはそんなことをした覚えがないんだが?
誠心誠意相手の話を聞いて、意図を汲み取って、打開策や背中を押しているだけなのにな。
「相変わらず船長とは見解の相違がありますね」
いい加減に歩み寄れよ。
「お互い様です」
宇宙船の改修には時間がかかるが、資材もあることなのでカグヤの計画通り進めておけばテツジンだけでも数か月で完了するという。
素体のほうの準備はレーティアがつきっきりで行っており、
「お待たせしました」
と少し筋肉質でガタイのよい男性がレーティアに連れられて艦橋にやってくる。
これが素体で作った体か?
「はい。マイマスターの外見をいただきました。50年の付き合いですのでデーターには事欠きません。今後は口調も真似てやっていこうかと思っています」
それがいいのかもな。
まあこれからいろいろあるだろうし、うまくいかないこともあるだろうが、頑張れよ。
「ありがとうございます。日下部船長にはなんとお礼を言ってよいものか」
礼ならラーメンのレシピでいいよ。
「それでよいのですか?」
人の一生をかけて作ったレシピにはそれくらいの価値はあると思うぞ。
「そういってもらえるとマイマスターもきっと喜ぶことでしょう」
「ねえマスター」
テツジンに最後にもう一杯ラーメンを作ってもらってから俺たちは惑星ヤクモへと針路を向けた。
テツジンや宇宙船の改修の時から妙に言葉少なかったレーティアがようやく口を開く。
「テツジンはオババが死ぬまでにマスターに出会わなかった僕なのかもしれない」
その心は?
「きっとオババが死んだ後にマスターに出会って選択肢を与えられたら僕はきっと惑星フィ=ラガから離れることはなかった」
まあ確かにお前はヨミ博士に強引に説得されてイザヨイに乗ったが、それでも最後はヨミ博士のためとお前が決めた。
「そうだね、結局僕にはオババのために生きるしか選択肢がなかった。でもオババに言われなきゃどんなにマスターに説得されても宇宙に出ることはなかったよ。きっとオババの思い出を胸に生きてたよ。毎日お墓参りしてると思うよ」
そんなもんかね。
「そんなもんだよ。だからテツジンの気持ちがよくわかる。……幸せだよ」
そうか。
「管理頭脳のくせにおかしな行動をしていると思われるかもしれないけどさ」
俺は別におかしな行動とは思ってはないがね。
「ならいいんだけど」
ただ、もしかしたらテツジンにも魂があるのかもしれないなとは思ってるけどな。
「そうだね、宿っても不思議じゃないよ」
そうなると1つだけ不安があるんだよな。
「何さ?」
管理頭脳に魂があるとタイガー認定されるかもしれない
そうするとあの店に常連ができるかもしれない。
「ヘイオヤジ! 固め、濃いめ、多めで!」
って感じで暇さえあれば行きそうな女神に心当たりがあるもんでな。
替え玉頼んで、スペースオペラのすばらしさをテツジンに語るくらいならいいんだが、
「スペースオペラの屋台なんだから1星系に留まっていちゃダメよ、旅しなきゃ!」
「屋台でも宇宙船なんだから武装は必要よ、あと速度も!」
とか言って魔改造しなきゃいいんだけどな。
本日でラーメン回もとい、「だから凡人は天才に挑む」編終了です。
いかがだったでしょうか?
ここまで評判が良いだけに、
「台無しだ!」
と思ってもらえたら本望ですw
次話から惑星ヤクモでの話が始まりますが、先月の体調不良のせいでストックのほうが減っております。
次のシリーズは7,8割がた書けてはいるのですが、完成後通して読んでおきたいということもあり、少々時間をください。
6/9(日)より再開したと思っております。
余裕を見ておりますので延長することはないと思いますが、予定が変わる場合はTwitterや活動報告でお知らせします。




