#24 異星人とのファーストコンタクト(前編)
「どうも初めまして、私は宇宙船イザヨイの船長の日下部晃と申します」
「こちら惑星Z3-J、入国管理局です」
俺の呼びかけに応じてくれたのは茶髪の青年。
地上で生活する人間の服装は俺と同じくインナー兼アウターのスーツを着て、その上に何か羽織ったり巻いたりして個性を出すそうだ。
眼前の青年は公務員用の制服である緑色のジャケットを羽織っている。
ちなみに言葉はカグヤにより同時通訳だ。
「宇宙船イザヨイは我が惑星では未登録ですね」
「ええ、この惑星は初めてです」
まあ正確にはどこの惑星も行ったことがありませんがね。
でも正直にそれを告げると舐められて足元を見られる可能性もある。
「Z3-Jのルールでの入国の手続きは楽なものだといいのですが」
「ああ、面倒な星もあるそうですね。ここは管理頭脳同士でのチェックでほぼ終了ですので楽なほうではないですかね」
茶髪の青年は人受けの良さそうに笑顔で接してくれる。
もっとも姿は青年だが不老技術のおかげで俺より年上の可能性もある。
こういった入国審査はある程度場数を踏んだ人がするものだろうか?
しかしながらZ3-Jは宇宙船があまり来ない星と聞いたので、入国管理室は閑職ということも考えられるし、何かとの兼務の部署かもしれない。
そんなことを考えると眼前の青年の年齢は予想もつかない。
さすがに今の段階で何歳ですかと聞くこともできまい。
「ではそちらの管理頭脳に情報連結させてもらいます」
「了解です」
俺が何かするのだろうか?
まあカグヤが勝手にしてくれるだろうと思い、堂々としておこう。
「では連結終了まで少しアンケートというか、雑談にお付き合いください」
「ええ、どうぞ」
「この惑星に来た経緯を教えていただいてもよろしいですか?」
選択肢がこの惑星しかありませんでした、とバカ正直には言わない。
この手の質問はカグヤと打ち合わせ済みだ。
「大翠に荷物を届けてくれって依頼を受けましてね。届けるのは緊急ってことで急ぎだったんですが、届けてしまえば時間があるもんでね。こっち方面は初めてだったんでせっかくだからとここまで足を延ばしたんですよ」
「なるほどそういう経緯ですか。でしたら大翠のコンテンツなんかも今回の売り物にありますか?」
むしろあってほしい、そんな期待の目で俺を見る。
「ええ? もしかして売れるんですか? お隣ですのでてっきり定期便が出てて需要がないと思って向こうで購入してないんですよ」
「ああ、……そうなんですね」
俺のすっとぼけに明らかに落胆の様子を見せる。
欲しい続き物の新作コンテンツがあるかと期待したらしい。
「大翠のコンテンツはないですが、とても珍しい惑星のコンテンツがありまして今回これをZ3-Jの皆様にお勧めしたい、と思って今回こちらに寄らせてもらったんですよ」
「はあ、そういうことですか」
自分が欲しいと思っているものがなく、店員に別のものを売りつけられようとセールスされたことは多々あるが、そうか今俺ってそれをする立場なのか。
「惑星ワイズってご存知でしょうか?」
「……ワイズ、ですか? ……いえ、未登録ですね」
管理頭脳に検索させたがヒットしなかったようだ。
それはそうだろう。
「でしょうね。これはおそらく全宇宙でも私しか持っていないと思われる星のコンテンツなのです」
俺の言葉に興味がわいたのか、俺を見る目が変わる。
「私が航海中、ある時違和感を感じたんです。気のせいって思うかもしれませんが、宇宙にいるとこういう感覚って大事にするべきなんですよ。第六感っていうのかな? それに従うことで事故を防いだり、未知のゲートを発見したりなんてよくあることなんですよ」
でまかせだ。
そんなうまい話があるわけがない。
操縦席に座っていることが1日に数分満たないなんて俺だけのことではないらしい。
「私もその感覚に従って周りを探査しました。そうしたら慣性航行で漂っている宇宙船を発見しまして。管理頭脳に呼び掛けても何の反応がなく、まともに航行している様子には見えなかったので仕方なく接舷して探査ロボットを派遣したんですよ」
「ほう」
「そうすると遭難船って言うのはすぐにわかったんですが、問題はそこではなかったんですよ。その船には管理頭脳も永久機関も搭載されていなかったんです」
「ちょっと待ってください、そんな宇宙船が飛べるわけないじゃないですか!」
いや宇宙を飛ぶくらいならできるかと。
生存はさておき。
しかしまあ生きる上で管理頭脳と永久機関が密接に関わっている人たちにとっては、信じられない驚愕の事実なんだろう。
「ええ、私も探査ロボの報告が信じられませんでした。私の管理頭脳に何度も調べさせ、検証させた結果、ゲートはおろか永久機関も管理頭脳もまだ制作できない星が宇宙に出ようとして遭難、漂流したのではないかと」
「そんなことがあり得るのですか?」
あり得ません。
そんな状況で航行してたら隣の星系にたどり着くことさえ無理という話だ。
「信じられないのは無理もないです。私だって信じられませんもの。その宇宙船は核と呼ばれる人体に悪影響を及ぼすエネルギーを使って航行していた模様で、何ていうのか恐怖を感じましたよ」
「そんなエネルギーがあるのですか?」
「ええ、製造方法はわかりませんがそういうものがあるようです。永久機関というクリーンなエネルギーがない世界が」
まあワイズだけではなく地球もそうですが。
「つまりワイズというのは……、未開の惑星ということでしょうか?」
「惑星間航行する技術がないことを未開というのであれば、そうなりますね」
それだけのことで未開扱いするな!
お前らのとこだって最初は未開だろうにと言いたいがぐっと我慢。
カグヤの話ではドラゴンを倒しさえしなければ化石燃料すらろくに使わないという。
歴史や科学の発展は未開の文化と言われても仕方ないのかもしれない。
「今なお私の管理頭脳に解析させていますが、長期航行用に文化や娯楽のコンテンツがデーターベースに存在しています。サルベージできたものを皆様に提供させていただければと考えております」
宇宙での漂流物は拾った者が所有権を取得できるでいいらしい。
奪ったところで証明ができず、争いを止める警察なり裁判なりの機能が宇宙にはない。
そうなると海賊が横行しそうなものだが、その惑星で本人しか使えない電子マネーなら奪っても仕方なく、相手の持ってるコンテンツも価値があるかどうか水物。
現金になりそうな資源や装飾品を持っているかどうかはわからない。
そうなると相手も武装した宇宙船である以上、危険を冒してまで海賊行為をする価値がないらしい。
「それは空前のブームになりますよ!」
そうなってもらわないと困ります。
この話、思ったより長くなりそうなので一度ここできります。