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#225 だから凡人は天才に挑む 3

「マイマスター、この宇宙船ガイストの船長はエドワード・ナガサワ。惑星ヤクモ出身です」


 ヤクモっていったらこのすぐの惑星じゃないか。


「はい。マイマスターは宇宙船乗りでもありますが、コックでもありました。それもラーメン専門のコックです」


 てかラーメンってヤクモにもあるんだ。


「はい。ヤクモは麺料理の盛んな国で様々な形態の麺料理があり、ラーメンも人気のある料理です。マイマスターはその魅力に取りつかれた方で、誰もが美味いというラーメンを作りたいと常々言っておりました」


 それはそれは。

 でもそんな人間がなんで宇宙に出るんだ?


「他星の麺料理を実際に食べ、研究し、新たな味を出したいと言っていました」


 それは勤勉なことで。

 わざわざ他星に行くというバイタリティーは素直に賞賛すべきだろう。


「マイマスターは50年ほど宇宙を旅していました」


 それは納得のいくラーメンができるまで帰らない的な思いからか?


「いえ、5,6年に1度は帰省していました。地元のラーメンも刻一刻と変化しているので知らなければならないと。またどうしても会いたい方がいたようです」


 それは忙しい日々だな。


「はい。惑星行っては食べ歩き、宇宙船では試作の日々でした」


 そういった熱中できることがあれば宇宙船生活も苦にはならないのかもしれない。

 とはいえ、この働かなくてもよい世界でラーメンの職人とは酔狂だな。


「むしろ働かないからこそ趣味として成り立つのです」


 とカグヤが小声で教えてくれる。

 そんなもんかね?


 しかしながら、趣味の研究に他の星まで行くのだからその熱意は素直に誉めるべきだ。

 ろくに食いもせずにしたり顔で評論をのたまうより好感が持てるというものだ。


 ぜひ一度その人の作るラーメンを食べてみたかったな。


「レシピも材料もありますので提供できますよ」


 じゃあせっかくだ、一杯もらおうか。


「お父さん、ニーナも食べたい!」


 以前、俺が食べるのをわけてからラーメンが好きになったニーナが手を挙げて主張する。


 はいはい、わかったよ。

 ポーラはどうする?


「そうですね、せっかくですし」


 ということで三杯頼めるか?


「喜んで!」


 テツジンが威勢よく返事をする。




 さて食堂に移動。

 俺たちが宇宙船ガイストに移動してもよいのだが、まだシステムを完全に掌握していないからとカグヤに止められる。

 いまさらテツジンが俺らに何かをするとも思えないのだが念の為の用心だという。

 もちろん運ばれてくるラーメンも何か薬物が入っていないかのチェックはするという。

 

「おいしそう」

 

 運ばれてきたラーメンは別段奇をてらったものではない。

 大き目のとろとろのチャーシューに煮卵、ネギ、メンマを乗せられたとんこつ醤油。

 安心しておいしそうだが、ただ50年の成果というのには少々インパクトが足りない気もする。

 だが問題は味だろう。


「いただきます」


 そう言って三者三様に食べ始める。


「お父さん、美味しい!」

「本当ですね、これは驚きました」


 と絶賛するニーナとポーラ。

 俺もスープを飲み、麺を食べた感想は2人と一緒だ、これは美味い。

 ピンクウサギのラーメンも普通に美味いのだが、これに比べると1枚も2枚も落ちる。


 ただこれはピンクウサギの性能が劣っているというわけではない。

 単純に人間の執念ではないだろうか?

 管理頭脳はレシピを調べ、栄養価だのうまみ成分だのを科学的に分析して料理を作る。

 それは大きな失敗もなく、無難なモノになるだろう。


 それに引き換え人間は時に無難を外し、レシピにない食材をつかったり、かと思えば塩の産地の違いによる味の変化を研究したり、湯切りの手の角度にすらこだわったりする生き物だ。

 わざわざ宇宙を旅して他所の星のものまで研究をするような人間の作るラーメンだ。

 50年の果てのレシピが美味くないわけがない。


 脱帽である。

 正直なところラーメンを食べて店主にめちゃくちゃ美味かったと賛辞を贈りたいと思ったことは生まれて初めてだ。

 

「マイマスターもその言葉を聞けば喜んだでしょう」


 とイザヨイの食堂に来たテツジンが言う。


「ですがマイマスターはまだ納得していませんでした」


 そうなのか?


「はい。まだ上があると常々言っていました」


 それは空恐ろしい。

 これより美味いってどんなんだろうか?


「お父さん、替え玉が欲しい」


 ニーナにしてはよく食うな。

 よほど気に入ったんだろう。

 テツジンはすぐに用意を始める。


「ありがとう」


 替え玉をもらって嬉しそうなニーナはさておき、テツジンよ。


「なんでしょう?」


 お前さんのマスターはこの味に納得していないということは、さぞや無念な死だったのだろうか?


「……いえそれがわからないのです」


 わからないとは?


「マイマスターの死に顔はとても満ち足りた顔だったのです」


 ほう。


「マイマスターとは長い付き合いになります。ですがその表情の意味がわからずに困惑していたところなのです」


初期のプロットではとんこつ派のニーナと醤油派の船長で言い争ってとんこつ醤油で和解するというくだらない話を書く予定が、


「ニーナ、とんこつが好き」


と言うと、あっさり船長は宗旨を変えたので話が成り立ちませんでした。


まあこれは船長が悪いのではなくニーナの可愛さが悪いのでしょう(錯乱)


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― 新着の感想 ―
[一言] ニーナカワイイ!!(*´ω`*)
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