#221 反省会、再び
「では反省会を始めましょう」
「オッケー」
「はい」
その入り方も聞き覚えがあるな。
てか今回はポーラも増えてるな。
「ええ、今回はニーナの件ですので」
「はい、私もぜひ参加させてください!」
いやどうでもいいけど俺の部屋に集まるなよ。
「ですが船長の意見も欲しくて」
いや、俺の部屋じゃ狭いと言っているんだよ、喫茶室か食堂に行こうぜ。
すでに夜も深くニーナは寝ている時間帯、俺も部屋で引きこもりタイムのはずが喫茶室にて反省会が始まる。
で、何の反省だ?
「ニーナの地上生活についてです」
すぐ帰ってきたな。
「地上に降りた最初のあたりから体調は悪そうでした」
「それでも興味が勝っていたので頑張ってはいたんだよ」
地上が体質にあわなかったんだろう?
それなら仕方ない。
無理に連れまわしたら余計に地上が嫌いになる。
「それは、……そうなんですが」
「でもマスター、人間たまには地上に降りないと精神に不調を感じるモノだよ」
俺もニーナも降りたことで精神に不調を感じたんだが?
「船長のような子がもう一人いるなんて想定外ですよ」
と言うがな、カグヤよ。
月のプラントのクローンどもは全部そうなんじゃね?
「ニーナが特殊という可能性も捨てきれませんが、もしもそうなら遺伝子のせいなのか、生まれてからずっと月で生活していたせいなのか検証したいところです」
真顔で考えるカグヤ。
宇宙空間適応の検証はドラゴンネットワークでやれよ。
「ですがクローンの皆さんが寿命が短かったのってずっと宇宙で過ごしていたからとは考えられませんか?」
とポーラ。
「その可能性もゼロではありません。閉鎖環境でのストレスが寿命を縮めていても」
「だけどあの子たちってそれよりも先の見えない生活での不安やらもあったんじゃないかな?」
3人の議論は続く。
もういいじゃないか、降りたくないというのに無理をさせなくても。
「いえ、そういうわけにはいきません」
なんでだよ。
「ニーナちゃんがもしも降りることで寿命が長くなる可能性があるのなら、何とかして降りてもらいたいと思っています」
ポーラは強い口調で言う。
「そうだよマスター、だから引きこもりとして外に出る案を出してよ」
そんなこと言われてもな。
そもそも俺は最初に止めただろう、まずは様子を見ろって。
その時は俺の言うことは聞かなかったのに、今になって俺が正しかったから何とかしてくれというのは通らないよ。
「その件については本当に申し訳なかったと思っています。キャプテンの言うことは大概正しいのですが」
「だけど地上に降りたくないマスターの降りるなっていう意見が正解だなんて思わないでしょう?」
「船長、こういう時に普段の行いが出るんですよ」
ねえ、なんで俺が責められる流れに?
「ということでマスター、だからいい案をください」
ハイわかりましたと言いたくないのだが、言わないと俺は解放されないのだろうか?
とはいえ確かにニーナの寿命が延びるというなら少し思案すべき案件かもしれない。
まあ仕方ない、ただ一つ約束してもらいたいのはニーナが嫌がることを強要してやるなよということだ。
お前らは正義感からかもしれないし、確かにニーナの背中を無理に押すことも必要な場合もある。
俺としては少々強引に連れ出した感じがしているからな、しばらくはゆっくりと育てなよ。
特にあの子は今まで疎外されて育っているからな、強い口調でああしなさいこうしなさいと言われたら断れない。
「それは肝に銘じておきます」
ポーラが真剣な顔で頷くと、カグヤ、レーティアも頷く。
「大丈夫です、船長よりは気を使ってます」
「マスターみたいに口で反論できない子だからね、ちゃんと様子を見てるよ。だから地上に降りてもすぐ連れ帰ったんだよ」
まあいいか。
まあ無難な案だが、とりあえず地上に苦手意識を持っているからなしばらくは放っておけ。
でもって地上でしかないもので興味を持ちそうなものを教えてやればいい。
「例えばなんです?」
とりあえずかわいいものが好きっぽいから宇宙船には乗せられない動物に興味を持たせるとか。
「本当に無難な案ですね」
「ですけどそれはありかもしれません。例えば本物のウサギはこうなんだということから見せていって興味を持ってもらい、今度地上に降りて触ってみませんかと誘うというのは」
「いや待ってよポーラ姉、動物って結構匂うからまた嫌うんじゃないかな?」
「レーティアの言うことも一理あります。それを加味して教えておいて、それでも触ってみたいと興味を持ってもらうように持っていくのは結構な至難な業ですね。ただとっかかりとしてはよいかもしれません。その後例えば水族館でしか見れない魚、イルカやアザラシ、ペンギン、ラッコというものを薦めて遠くから見させれば、匂いの問題は多少マシになるのではないでしょうか?」
「――! それはいいですね。お魚を見せることは賛成です!」
とポーラが目を輝かす。
「それならその土地でしか食べられないものもいいかもね。美味しそうな甘いものとかでつってもいいし」
とレーティアが思いついたように言うとポーラは即座に頷き、
「いいですね、地上で食べる新鮮なお魚は格別ですし」
……そういえばポーラに言っておくことがあったな。
「なんでしょう?」
ニーナに魚を毎回食わすのはやめておけ。
せめて2,3日に1回くらいにしてやれ。
「どうしてです? あんなにおいしいのに」
毎食だと飽きるだろう。
「ですが同じ魚は食べさせていませんし、調理法だって色々やっていますよ」
とポカーンとした顔で俺を見る。
あれ、魚を食べると頭がよくなるって聞いたけどバカになってないか?
「あとお魚は完全食であり、体にいいものです!」
体にいいかもしれないが、完全食ではないと思うぞ。
とりあえず自分の好みを押し付けるな、あの子にも選択肢をやりなさい。
「では……何を食べたらよいのでしょう?」
というかお前はもともと魚を食べない教義の子だったよな?




