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#219 常識の時間 12(ゲート)

「お父さん! この子、カッコいい!」


 ニーナ専用銀色のウサギを見た第一声。

 色が違うだけでポーラのと同じ執事服を着ているのだが、ポーラのウサギのがかわいいでニーナのがカッコいいの評価に首をかしげる。

 とはいえ、喜んでいるならばそれでいい。

 無表情なのに目はキラキラと輝いている。


「この子の名前は?」


 ニーナ専用だから好きにつけなさい


「いいの?」


 いいさ。

 というか俺はウサギにまでは名前を付けていなかったな。

 色で呼んでいるくらいで。

 唯一管理頭脳で名前つけたのはカグヤくらいか。


「そうですね」

「カグちゃんの名前、かわいい。レーちゃんはカッコいい」


 レーティアは俺がつけたわけではないが、かわいさとかっこよさがよく分からない。

 まあ慌ててつけることはないからゆっくりと考えな。

 俺はしばらく銀ウサと呼ぶから


「お父さん、それはダサい」


 解せぬ。




 艦橋にてニーナと一緒にカグヤの宇宙の常識講座を受ける。

 すでに聞いた話も多いのだが忘れていることもあるし、今となっては新たなる疑問が出てくるかもしれないとニーナの教育に付き合っている。

 ゲートのくだりになってニーナが手を挙げる。


「どうしました?」

「ゲートの固定化について」


 ゲートの……固定?

 なんだそりゃ?


「どこの星でも一度は検討される理論です。ゲートを何らかの方法で対岸と繋いだ状態にできれば亜空間振動波を使わなくてすむから自動でゲートジャンプできるのではという理論です」


 管理頭脳2台体制でのゲート自動突入システムが開発された今となっては必要のなさそうな技術だが、そういう風にゲートを突破しようという動きは以前からあったのか。


「ゲートジャンプがネックになり、宇宙船乗りになれなかった人は大勢いますからね。そういった人材を活用するためにもゲートジャンプの簡素化は必要で、あの手この手と考えられてはいました。ですが理論的にも技術的に難しくて断念せざるを得ないというところでして」


 まあそう簡単にうまくいかないよな。

 そもそもゲートは手動でこそ華があるって言う奴がいるからな、そうそううまく開発はできまいよ。

 下手したら妨害すらあるんじゃないのか?


「そういうことですね」


 カグヤとしみじみと宇宙の理不尽さについて頷き合う。


「違う」


 そんな俺たちにニーナが口を挟む。


「何が違うんです?」


 カグヤの問いにニーナは表情も変えずに、


「理論だけなら完成している」

「はい?」

 

 カグヤが間抜けな顔で聞き返す。


「ゲートの固定化の話ですか?」

「そう。私たちの17世代の時に完成した」


 4世代前か。


「ちょっと待ってください、確認します」


 とカグヤがどうも月のプラントからコピーしたデータを検索し始める。

 というか未確認だったのか?


「大した情報などないと思ってクローンについてのデータしか見ていなくて」


 と困惑顔。

 てかニーナよ、お前らは管理頭脳の解放運動をしていたのになんでゲートの固定化なんか研究してたんだ?


「宇宙船は管理頭脳がなかったらゲートを跳べない。そうなると管理頭脳が解放されると他の星に渡れなくなる。だから研究した」


 その「だから」はつながっているように聞こえないのだが?

 別に他の星にわたる必要があるのか?


「ラフェスルの管理頭脳が解放されたら他の星の管理頭脳も解放する予定だった。だから宇宙船の航行技術とゲートジャンプについても研究もなされていた」


 お前ら目的は意味が分からないのに計画だけは壮大だな。

 それに実行力が凄すぎないか?


「本当です、ありました」


 で、その理論は正しいのか?


「……詳しく検討してみないとわかりませんが、理論の矛盾はなさそうな感じは受けます。……けど、これは」


 どうした?


「実際に建造するには問題が山積みですね」


 とカグヤが眉をひそめる。


「そう。ゲートを囲むように巨大な機械を設置しなければならない。それも対岸にも。だから断念した」


 そうなのか?


「ゲートの大きさが直径50.73メートルの円なのですが、それをすっぽりと囲める四角の枠を用意するとイメージしてください。それもゲートアウト先にも設置して常にある共鳴振動を流し続けることで固定化されるのです」


 まずそういうのが作れないってことか?


「ニーナたちにはということでしょうか。隠れている集団がそんなことをすれば目立ちます、というかばれます。あと彼女たちにはゲートジャンプする能力がないので対岸に作ることができずに理論が本当に正しいのかが確認できないといったところですね」


 なるほど。


「他にも欠点はありますね。四角い枠を宇宙船がぶつかって壊れた場合、その時半分通過していたらどうなるのか?」


 真っ二つに切れなきゃいいがな。


「あと隕石などは迎撃システムを作って防衛するにしてもゲートを覆うようにスパイラルが発生した場合壊れるでしょうね」


 まあ可能性はゼロではないな。

 じゃあ今となっては無用の長物か?


「……そうですね。管理頭脳2台使うほうがコスト的にも安全面的にも優れています」


 まあそういう理論があるというだけでも立派だろう。

 いずれ何か他のことができるかもしれない。


「そうですね」


 と俺とカグヤが結論付けたところ、


「もうできた」


 とニーナが言う。

 できたとは?


「小型の装置を使って部分的にゲートをつなげれれば、ゲートを超えて通信できるのではないかという理論。つい最近20世代が構築した」


 現在は同一星系ないくらいでしか通信はできない。

 ドラゴン同士は関係なくできているのだが人間にはその技術はなく、他星との連絡は宇宙船しかありえないのが現状だ。


「……これは、できるかもしれません。でもこうなると通信網が広がって、宇宙に大きな変化が……」


 顔が真っ青になるカグヤ。


 さて考えてみよう。

 利点としては他星と情報交換できることで様々あるだろう。

 データ量次第だが、もしかしたらコンテンツのデータも送れることができるようになるかもしれない。

 だがそれは欠点ともいえる、いや普通は欠点にはならないのだが、なにせこの宇宙の女神は、宇宙は宇宙船が飛んでナンボと思っているからだ。

 そんなことができるとどんな行動に出るのか考えるだけでも恐ろしい、というのがカグヤの顔色から想像できる。

 だが物資のやり取りなどは宇宙船頼みには変わりがなく、情報が増えるとトラブルの種も増えるとも言える。

 それは女神にとって望むところともいえる。


「船長、……どっちだと思います?」


 まあ落ち着けカグヤよ、別に俺らが今どうこうすることもあるまいよ。

 さっきも言ってた通り、クローンどもでは現状ゲートを跳ぶ術がないどころかまだ雌伏の段階だ、派手に何かはできない。

 つまりは現状、理論しかなく、それもこの惑星の衛星の隠れたプラントの中だけだ。

 そう簡単に実用段階になるとも限るまい。


「……そうですね。この船にもそんな理論は存在しません。よって他星に寄った時に間違っても流出する恐れはありません」


 俺の言いたいことを悟ったカグヤはさっそくデータを消去したようだ。


 さてニーナよ、ちょっと聞いてくれ。


「なに?」


 俺とカグヤは立場上スペースオペラを盛り上げなければならないんだが、保身から停滞もしくは緩やかな盛り上がりを望むものだ。


「意味不明」


 いや、詳しく理解することはない。

 しないほうがいい、これ本当。

 お前はこのまま自由に育って生きればいい、父からの切なる願いだ。

 だからお願いがあるんだ、ゲート固定化の理論については誰にも語らないでほしい。


「……お父さんが何言っているのか、よくわからない」


 ニーナが首を傾げる。


「ねえニーナ。船長の言う通り黙ってくれるなら今日のおやつのシュークリーム、好きなだけ食べてもいいですよ」

「――! わかった。お口チャック」


 さすがカグヤだ、姑息な餌付けだ。


「船長にだけは言われたくないのですが、こっちも切羽詰まっています。ポリシーなど二の次です!」



今後ストーリーの展開上書くことがないかなと思うので裏設定。


#177でこのスペオぺ女神がよその神様からもらったスぺオペがはかどる技術が今回のコレ。

スぺオペするにはある程度情報がないと進まないとそそのかれました。


もっともニーナのところのクローンたちにピンポイントで渡したのではなく、他の星でもそういう技術を研究している人間に神託という形で授けていますので遅かれ早かれという感じですがw

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― 新着の感想 ―
[一言] これが譲渡技術の……(^_^;) 遅かれ早かれではあっても、発信元でないぶんまだ安全だから…w いつかの何かの時に「こんなこともあろうかと!!」をするためだと思えば!www
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