#23 惑星ワイズの遺産
「よし、再開しようか」
「随分と……いえ、何でもないです」
ウイスキーをゆっくりと2杯飲み、少し心が落ち着く。
「Z3-Jに限ったことではありませんが、どこの惑星も新しい文化・娯楽というコンテンツを欲しています」
OKだ。
俺からしたら甘えた理由だが、人には人の、国には国の、星には星の生き方がある。
俺が口だすことではない。
「……まだ随分と引きずっているようですが、もう話を進めますよ。ですので宇宙を旅する人はその惑星で目新しい文化や娯楽のコンテンツを購入して他の星で管理頭脳に販売を委託し、その惑星の人間が購入してくれたらそれに応じた金銭を入手できるというシステムを使っています」
ネットにアップロードしてダウンロード販売ってやつかな。
販売するものは映像や音楽等の文化・娯楽。
日本人の感覚としては転売とかでいいイメージではないが。
「どちらかと言えば個人の輸入販売業が近いかと。本来なら現地に行かないと購入できませんし」
「著作権の概念は?」
「ありますよ。ただ惑星内に限ってというところでしょうか。著作権侵害が発見されてもわざわざ他所の惑星に訴えには行けませんし、行ったところで公平な裁判ができるわけでもなく、勝ったところで貨幣が違います」
「泣き寝入りってことか?」
俺の問いかけにカグヤは首を横に振る。
「売るほうも惑星外に出す場合は値段を上乗せしてますし、著作権が気になる人は惑星外持ち出し禁止ってしている人もいますが、……まあお互い様ってところもありますからね」
パクリ、パクられ……、もといオマージュやリスペクトは当たり前の世界ということか。
それがよその惑星のもので著作権でもめないとなると言わずもがな。
「適当に購入して他の惑星に持っていって確実に売れる保証はなく、下手をすればそのコンテンツはすでに他の人が持ってきているということもありギャンブル的要素が多いです」
なるほど。
訪れ先の売れ筋がわからない以上、転売よりリスクは高いな。
言っておくが俺はギャンブルは弱いぞ。
パチンコで懲りたくらいだ。
そもそも根本的に運が悪い。
運の悪さを語ればキリがないが、死亡の原因からして推して知るべきだろう。
「ご安心ください。天性の運の悪さすらカバーできなくて何がドラゴンでしょうか」
胸を張るのはいいのだが、俺の運の悪さは否定しないのだな。
いやどうでもいいのだが。
「私には惑星ワイズのすべてのコンテンツが保存されています。これはどの惑星にも流出していないので確実にある一定数の販売が見込めます」
「娯楽に飢えた人間は飛びつくか」
「ええ、ワイズは――地球もそうですが宇宙にこそ飛び立てませんでしたが、文化的に優劣があるわけではありません。むしろ宇宙に出ていない惑星のコンテンツというのは目新しいともいえます」
確かにその通りだろう。
流行り廃りなどは水物だ。
流行らせようとしても流行らなかったり、誰も期待してないものがじわじわ流行ったりとはよくあることだ。
今まで流通していない惑星のコンテンツというだけでも売れる要素だが、さらに宇宙に出てないとまでつくと売り文句としてはこの上ない。
相場より高い値でも買い手は引く手あまただろう。
それを元手にその惑星のコンテンツを買い、他の惑星でワイズのコンテンツと一緒に売ればさらに収益が見込めることだろう。
「確かに運の悪さを十分すぎるほどカバーしてくれるんだが……いいのか?」
問題があるとすればカグヤが担当していた惑星の、いわば遺産ではないだろうか?
その惑星の住人の生きた証、それを俺のために使っていいものだろうか?
「かまいません、私の考え方はむしろ逆ですね」
「逆?」
「ええ」
優しく微笑む。
「ウチの子たちが生きた証ですもの、誰の目にもとまらぬまま朽ち果てるよりは、いろんな星の人に見てもらい、喜怒哀楽を感じてもらいたいと。……そこからまた何かが生まれるのであれば、ウチの子たちもただ滅んだのではなく、何かを残せたといえるのではないかと」
何も残せず死んだ身としては耳が痛いが、そういった親の気持ちはありがたい。
またそれが親にとって供養になり、気も楽になるというのなら俺に反論はない。
「そういうことならありがたく使わせてもらうよ」
「そうしてください」
「そうなると……あと他に聞いとくべきことはあるのか?」
「知っておいたほうがいいことは山ほどありますが、最重要なことは終わりですね。あとはこまごまとした打ち合わせですが、……まあお酒飲みながらでもかまいませんよ」
いやそろそろ部屋に引きこもりたいのですがね。
ちょっといまだショックが大きいのですが……だめですか。
まあしかたない、ピンクにウイスキーとワイズでよく食べられているウイスキーに合うつまみを頼む。
これからどこかの惑星では惑星ワイズの食文化が好まれるかもしれないし、そこから新しく何かが生まれるかもしれないが、とりあえず第一号は俺が試そう。