#199 月の少女は希望の唄を口ずさむ 1
ゲートアウト後、ここから4日ほどの距離にある惑星ラフェスルの入国管理局で手続きを行う。
その時に入国管理局の職員から地球でいうところの月に行ってくれないかと頼まれる。
この星の月の裏側には資源採掘プラントや生産プラントがあるという。
もちろん無人で管理頭脳によって運営されており、定期的にこれまた無人の輸送船で宇宙港に運搬されているという。
月くらいの距離なら遠隔で指令も出せるし、特に何の問題もなかったので200年以上も管理頭脳任せで放置運営されていたそうだ。
それが最近生産力が落ちているという。
遠隔で調べてみたが管理頭脳には特に何も問題が見当たらない。
無視しても構わないレベルではあるのだが、宇宙船が近くを通るのならばもののついでに立ち寄ってもらえないかと依頼を受ける。
とはいっても別に何がなんでも原因を追及しろということではなく、ウチの管理頭脳から見て何か問題があるかどうか簡単なチェックをしてくれという程度のものだ。
問題が発覚しなくても慌てて対処するほどでもないので相手もダメ元的な感じなので気が楽だ。
「むしろマスターがこの依頼を受けたことが驚きだよね」
「そうですね。面倒くさいと断るのかと思いましたけど」
別に月に寄ってお前らが調べるだけだろう?
俺は別に面倒くさくないし。
俺の言い分にカグヤはため息をつきながら、
「まあ原因を追及しなくてもいいですしね」
それもある。
あとそういえば月には行ったことがなかったなと思って。
「まあだいたい即宇宙港に直行しますからね。幽霊船の時にはわざわざ惑星を経由しましたけど、重力があって危ないですからいつもはだいぶ離れて航行していますしね」
「そもそもマスターは入港出港時に外部モニターを見るなどしてないしね。興味ないのかと思ってたよ」
そうだよな。
よくよく考えたら宇宙に出ているのに月やら火星・木星やらの惑星を見てなかったなと。
地球人としては得難い経験をしているのに星を眺めることさえしていなかったなあと。
もうじき宇宙に出て2年が経過すると聞いた。
そろそろ星の一つでも見ておこうかと。
「本当に今更ですね」
「興味がないにもほどがあるよ!」
まったくな。
これでスペースオペラの適性が高いっていうのだから世の中間違っているよな。
本当に宇宙が好きな人が聞いたら正座させられた後にマジ説教が始まることだろうよ。
「その自覚があるならもっと早くに興味を示して欲しかったところですが、まあ今からでも遅くはありませんと言っておきます」
「まあ時間はあるしと言っておくよ」
まだ褒めて伸ばすつもりか?
てか褒められていない気がするが?
「褒めてませんもの」
「褒めれないよ」
ソウデスネ。
まあそれはさておきせっかくの機会だ、お月様を見ておこう。
なんだかんだで思い入れがあるしな。
「月、ですか? キャプテンは月にどんな思い入れが?」
と聞いてくるポーラ。
思い入れというほど立派なものではないが、この宇宙船の名前イザヨイは地球での月の満ち欠けの呼び方の1つでな。
カグヤって名前も地球の物語で月に関わるキャラクターだ。
あと地球では大昔には月にウサギがすんでいると信じられていた。
俺のざっくりとした説明にポーラは興味を惹かれたようだ。
「星によって伝承はやっぱり違いますね。マイタンでは月は蒼龍様の第三の目と言われています」
あいつ、月を目の代わりにしてやがるのか?
てか3つ目だったかな?
ついでに言うと蒼龍教って何でもかんでも蒼龍に結び付けすぎじゃないかな。
「夜も私たちを見守ってくださっているという考え方です。月の満ち欠けは第三の目の開き方を表していまして、満月の時は起きてよく見てくださっている、新月の時はお休みになられているという考え方です。ですので新月の夜は蒼龍様がお休みになっているから我々も静かに早く休みます、満月の日はよく見てくださっているので舞を捧げたりしています」
まあところ変われば考え方もいろいろあるわな。
てかそうなると毎月、満月の日には舞の儀式をしてるのか?
「大掛かりな儀式は年に1度ですが、毎月略式で舞を奉納しております。私も何度か経験がありますよ」
そういや一度見せてもらったな。
「あ、あれは不出来な出来だったので……」
とポーラは顔を真っ赤にする。
「最近、少しマシになりました。また……よかったら見てください」
コツコツと練習していたそうだ。
じゃあまた今度見せてもらおう。
「はい、頑張ります!」
とポーラは嬉しそうに返事をする。
惑星によって衛星や恒星の名称が違ってしかるべきですが、地球と同じ呼び方でいかせてください。




