#189 引きこもり、腹をくくる
「マスター、朝だよ! 起きなよ!」
地上に降りて一番に思うのが太陽の強制力だ。
朝になれば勝手に日が登り、まぶしいし、あと暑くなる。
「なに当たり前のこと言ってるのさ。マスターだって地上生まれでずっと経験してたでしょう?」
宇宙船の中の人工的な光が恋しい。
一応日本の標準時間にあわせて生活はしているが寝るときに電気を消し、起きたらつけている。
ゆえに強制的に太陽の光で起きることの辛さときたら。
「健康的でいいと思うけど。それにカーテン閉め忘れた自分が悪いんでしょう」
宇宙船にいると窓がないからその習慣がなくなってたよ。
ちなみに時差ボケという感覚はない。
この惑星に着く前に艦内時間とこの場所の時間があうように調整して到着したからだ。
カグヤの話では今までも宇宙港の受付時間に合わせてゲートアウト後、速度を調整してきたのだという。
まあ時差ボケがないからといって日頃の不規則な生活ゆえ、朝は辛い。
「自慢げに言う内容ではないね。朝ごはんはどうする?」
昨晩肉ばっか食い過ぎたせいか胃が重い。
コーヒーだけでいいよ。
「はーい」
着替えてとりあえず寝室を出る。
別荘など初めて泊まったので比較対象としては的確ではないのかもしれないが、ドラマやアニメなどでよく見る作りだったり間取りだったりするんだな。
「住宅地に行けば狭い部屋を広く見せるシステムとか、町中なのに雪山のログハウスの部屋にするとかのシステムはあるけどさ、こういうリゾートではリゾートならではの便利さよりは不便を楽しむというか、昔ながらを楽しむというべきかな? マスターにはこの方が慣れてるでしょう?」
まあ確かに。
生活はしやすいかな。
だが遠回しに未開の出身といわれている気もするが。
「そんなことないよ。結局どこ行っても人類は似たようなもんだよ。椅子に座るしベッドで寝るよ」
俺は畳の上で胡坐もするし、そこに布団敷いて寝れる人間だけどな。
「それは未開とは思ってないよ、風習でしょう」
そう言ってもらえるとありがたい。
「僕の生まれた惑星フィ=ラガも似たような感じだったよ。畳の上に座椅子だったり、掘りごたつ式の食卓が格式が高いとされていたからね。イザヨイの座敷でお酒飲んだオババも宇宙船でも似たような文化なんだなと感心していたよ」
地球でも国によって文化の差異はあり、それが宇宙に出たらさらに広がるかと思っていたが、結局似たような惑星で似たような人種が生活するのだから最適な形とか進化の形も理解できないほどのものはないということなのだろうか?
俺的には空飛ぶ車とか見て見たいもんだがな、ちなみに自動操縦のタクシーにはもう乗ったが地上を走っていた。
「そういうのに憧れて一度はどこの星も製作するんだけど、結局安全性を考慮して地上を走るんだよ。落ちたら死ぬでしょう? それも住宅街やら繁華街なら人を多く巻き込んで」
飛行機より短距離で低い高度とはいえそんなものが建物に落ちたら確かに大惨事ではある。
「あと自動車が空を埋め尽くすくらい飛んでたら景観が悪いと不評だよ」
納得の理由だが夢がない。
スペースオペラに必要なのは夢だのロマンじゃないかな?
「そんなの僕に言われても困るよ」
朝食が終わって、ポーラ・レーティアと浜辺を散歩。
地球のネット環境は地上でも見れるようにしてくれているので引きこもって暇はつぶせる。
だからそのまま引きこもろうとしたらレーティアに引っ張り出されて今に至る。
「水平線を見るだけでもホッとします」
ポーラはそういうがさっぱり同意できない。
「足が地面についているだけでなんか安定感があります」
イザヨイの中でも安定感あったけどなぁ。
「てかマスター。なにか地上のいいところ言ってみてよ」
そうは言うがレーティア、……こんなもんじゃね?
こちとら40年地上で生きてきたからな。
大地を歩いたくらいで、海を見たくらいで感動もしないさ。
……まあリゾート地にいったことはあまりないが。
「ぶらぶら散歩することって地上でしかできないんだよ」
地上にいたときからしたことないぞ。
「じゃあ一体何してたのさ、引きこもり以外で」
難しいことを言う。
引きこもらない休みの日とは?
会社の命令でわけのわからんセミナー行けとか、スポーツイベントに参加しろとか言われてつぶれることも多かったし。
……食糧や日用品の買い出しとか。
「ショッピングですか?」
ポーラが楽しげに言う。
いや必需品だから楽しいことはなかったぞ。
「でもお店をまわられたのでしょう?」
必要最低限で。
基本欲しいものはネットで買ってたしな。
「外に出たときにすることってなかったの?」
飯食いに行くか酒飲みに行くくらいだったなぁ。
「食べることは大事ですよね」
いまとなってはピンクウサギのせいでいつでも食えるからなぁ。
「でも新しい発見があるかもしれません!」
やけに張り切るポーラに導かれ、近場の魚市場に連れて行かれる。
「私、降りる先々で魚市場に行くのですよ。キャプテン、知ってますか? 新鮮な魚を調理してくれるところがあるんですよ」
まああるだろうが。
てかこの子は期待を裏切らないな。
それでもまあ楽しそうなポーラを見て、まあ仕方ないかと腹をくくる。
人生生きていれば毎日楽しいことばかりではない。
こんな日もあるだろう。
家族サービスだろうよ。
娘どもの面倒を見るのも父親の仕事だろうよ。
そう覚悟してポーラに付き合うこと4日目、高熱を出して倒れることとなった。
地上編の幕引きです。
いや彼的には頑張ったと思うんですよ、作者的にはよく頑張ったと脳内で褒め称えましたw
(甘やかしすぎではないと思うw)
200話のご祝儀か評価ポイントが多かったです。
ありがとうございます。
感想もそうですが、こういうことが嬉しくてやる気が出て、また頑張ろうと思います。
明日は飲み会になりましたので今日中に予約投稿しておきます




