#20 ゲート突入(本番)
カグヤと飲んだ翌日は予想通り二日酔いだった。
胃もたれが酷いし、頭が痛い。
吐き気がないのは幸いだが、けだるくて仕方ない。
白ウサギは医務室を勧めてくれるが急性アルコール中毒ならともかく、たかが二日酔いで医務室のお世話になりたくはないな。
酒なんて酔った後の二日酔いまでがセットだろうと思うのですよ。
特に仕事があるわけでもないので部屋で寝ていればいい。
そんな感じで1日過ごし、さらに次の日以降もそれほどすることもないのでほぼ引きこもる。
予想より若干遅れてゲートに到着した。
何でも真空が重かったそうだ。
台風のような向かい風の中進むようなものらしい。
こうなると普段無視してもシールドで弾かれるレベルの隕石もいちいち回避・迎撃しなければならず時間がかかったらしいが、宇宙的には誤差なのだろう。
交通機関の正確な日本で産まれ育った俺に対してカグヤが頭を下げるが気にしすぎだ。
俺からしたらどこかに乗り物乗って移動している感覚ではなく、ずっと家にいて時間指定の宅配便を待つ感覚だ。
ましてや俺は元運送業(事務員)。
客に遅延を謝ってきた人間が、立場が逆になったからといって態度まで逆にするのも人間が小さいというものだ。
「そういってもらえるとありがたいです」
遅れたおかげで宇宙に出てからやっていた積みゲーが1本、先ほどクリアーできたことは内緒にしておこう。
「こちらが今回突入するゲートです。本番ですが練習通りにやればなんの問題もありません」
とはいえ、映し出されるモニターは練習用と何ら代わり映えなく、操舵設備も毎日勉強会のあとに数回練習して使いやすいようにカスタマイズされたそれ。
緊張感があるのはカグヤだけで俺としてはいつもと変わらない。
失敗しても事故するわけでもなく、ペナルティもない。
まあ気楽にやろうよ。
「ヘタに緊張されるよりはマシですが」
と不満げだが仕方あるまい。
練習通りの力を出しきります、と定型文で返す。
「まあそれでいいです。あと再三お願いしていますが突入速度は20%でお願いしますよ」
長年の問題が解け、ゲート突入速度による加速秒数の傾向がわかったらしいが、正しいサイズの40m級(旧45m級)での成功例がなく基準となる数字がわからないらしい。
旧サイズの30、35、40m級のコンテナ4基、出力20%と比較したいということだ。
俺的には遅いほうが手がぶれて失敗しそうなのだが、まあ仕方あるまい。
「準備はよいですか?」
「いつでも」
「では手動運転に切り替えます」
そしてカグヤは画面から消える。
ゲート突入の亜空間共振波やゲートアウト時の衝撃に備えるように動いているのだろう。
ここはシミュレーターと違うところだな。
だがやることは変わりない。
有視覚化された真空の高低差を読んで船体をずらす。
あとは出力を20%まで上げて若干の微調整をするだけ。
さすがに20%だとゲートがゆっくりと近づいてくる。
だが我慢して操縦桿を固定、ゆっくりと突入。
船尾までぶれることなく抜け出るとイザヨイは光に包まれる。
「ゲートアウトします。衝撃に備えてください」
亜空間繭と呼ばれるものでこれをまとった瞬間、カグヤが言う。
刹那、軽く急発進するような衝撃が来るが、それでも荒っぽい車の運転よりも大したことはない。
「ゲートアウト成功、現在ブースト中です」
ゲートから出たところで宇宙空間、画面が変わったようには見えない。
原理はよくわからんがゲートアウト後は最大出力の何十倍の速度で加速しているらしいが、最初に軽く衝撃が来たくらいで特にGも感じない。
重力緩和してくれる機能があるらしいが高性能だねぇ。
ちなみにゲートアウトした時点で自動運転に切り替わっている。
することがないのだが加速中は立ち上がるなということでずっと座っているのだが、そういやシミュレーターだとゲートインした時点で終わりなので実際の操舵ではゲートアウト後のことの対応までは考えていなかった。
カグヤは超加速中の船体維持と進路で忙しいようだ。
まあ黙って待っておくのが大人の対応だろう。
「船長! 加速時間は500秒でした!」
頬を紅潮させたカグヤが画面に復帰する。
「そうか、長かったな」
代り映えのない宇宙空間をボーと見ておくのもオツなもんかなと眺めていて、そうか500秒か。
この歳になると星を肴に酒を一人静かに飲むのもいいかもしれない。
特に昨晩は今日のゲート突入のために禁酒令がでたので余計にそう思う。
「長いなんてもんじゃないですよ! 旧40m級と比べると2倍ですよ!」
興奮冷めやらないような感じだ。
どうだろう、とりあえず部屋に戻ってもいいかな?