#2 選択の余地がなく
「まだ語り足りないところではあるのだけど、この辺でおいとくとして」
語り足りませんか?
もうおなかいっぱいですが。
「まあ実際に行ってみて、体験してもらおうと」
さて、またおかしなことを言いだしたぞ。
この流れはうん、きっと悪い流れだ。
「行く?」
「行くのよ、遥かなる大宇宙!」
「体験?」
「スペースオペラ! この世のすべてがそこにある!」
目をキラキラと輝かせて、俺ににじり寄ってくる。
とても美しい女性だが言動がアレだとありがたくない。
「丁重にお断りさせていただければと」
「へ? なんで?」
断られるとは微塵も思っていなかったのだろう。
目を真ん丸にしてる。
「心配しなくてもちゃんとチート級の宇宙船あげるよ。異世界転生物のレベルカンストとかステータスマックスとか超便利スキルとかスマホ並みよ」
女神なのに妙に日本人の流行りに詳しいな。
てかまて、よくよく考えたら宇宙にいくのも広義では異世界だろうか?
「いやまあ、スペースオペラは好きですよ」
「でしょう!」
「でもまあ読む分にはって感じで」
「大丈夫、絶対楽しいって!」
食いぎみにグイグイくるなあ。
「俺の好きなジャンルってライトよりで特殊な設定が好きだったりなんかわからんけどすげえ的なのが好きで、ガチなSFファンには到底及ばないというか、ガチな人には引け目があって近づきたくないというか」
面白ければ、内容がハッタリみたいなその場しのぎでも盛り上がってるのが好きなんだけど、それを設定があり得ないとか批判されるのを聞くとしょんぼりするんだ。
「いや、違うのよ、ガチな人じゃダメなのよ。あなたみたいな人がいいのよ!」
その言葉を待っていた、そういう感じでニヤッと笑う。
「さっきも言ったけど地球人の科学じゃ宇宙にいけないんだし、理論なんて通じないのだから。あなたのいいところはいろんな設定を深く考えずに受け入れてるところなのよ。SFをスペースファンタジーと言っても特に気にせず受け入れる人間じゃないとダメなのよ」
俺としては『すこし・ふしぎ』が起源かなぁ。
「地球人があり得ないっていう法則とかもいっぱいあるから、その辺はどんなにスペースオペラを愛していても受け入れられないと思う人は誘えないのよ。その点あなたは地球人の中で宇宙適性ランキングが100位なのよ」
え?
微妙じゃね?
「え? 60億の中の100位よ。すごいわよ」
俺の顔に浮かんだうさん臭さを見抜いたのか早口でフォローしてる。
確かに分母が60億と考えれば上位だがさらに上に99人いますしねぇ。
「違うのよ。その100人の中で宇宙船の生活に耐えうる適性が31位で操船適性が39位でコミュニケーション能力が23位なのよ」
いやどれも微妙じゃね?
てかベストテン入りすらしてませんが?
「総合! 総合が5位なのよ」
「じゃあ上の4人にお譲りします」
「違うの! この辺になると順位ってあんまり関係ないの!」
今まで語っておいてなんだっていうのか。
「結局のところ恒星間飛行だと暇な時間が多くて、閉鎖環境に適応というか極端な話一人で部屋にこもっていても娯楽と食料さえあれば大丈夫な人が向いてるんだけど」
引きこもりかな?
「そういう人って人と話すの苦手でしょう?」
まあそういう傾向が多くみられるかとは。
「あなたより上の4人ってニートで操船適性は高いんだけど、社会人としての実績がなくて」
ニートっていっちゃったよ、おい。
てか俺20年社会人してるのに引きこもり適性が高いって……いや少し自覚がある。
一応日曜祝日は休みだったが、そんな日は人と会いたくないので前日に食糧を買いだめして部屋から出なかったしな。
ボランティアとか会社の行事やらセミナーやらがない日は貴重だった。
……おっと嫌なことを思い出した。
「それでもまあ、もういい歳こいた中年のおっさんですし、なかなか新しいことに飛び込むのが難しくてねぇ」
まあ仕事辞めて第2の人生(引きこもり)をする前に死にましたがねぇ。
「宇宙だとみんな不老処置してるから中年顔のほうが渋くて受けると思うけど若いほうがいいなら若くしてあげる、あと中年って言ってもねぇ、みんな不老処置の技術で寿命も200歳以上になってるからまだ若造の域よ」
おいおい宇宙恐ろしいな。
何年働かせる気だ。
20年働いて自由になったというのにあと160年も働けるわけもない。
どうにか丁重に断らないと。
「宇宙船のほうには地球のネットもつながるから、アニメ見るとか電子書籍とかは買えるよ。まあ通信時間かかるからオンラインゲームは無理だし、商品も届かないけどねぇ。お金のほうはうまくやっておくし」
それはちょっと嬉しいサービスだ。
「でしょ? 長期間のヒマつぶしっていっても慣れ親しんだものがいいからねぇ」
いや、いかんいかん。
行く気になってどうする。
もうこのまま死んだほうがきっと楽だろう。
未練がなくもないが生きていたところでなんになる。
今まで辛い人生だった。
これから楽しい人生になると楽観的にどうして考えられよう。
「あと寮の私物、全部宇宙船に送っておいてあげたわ。……見られたくないものもあったでしょうし」
……見られたくないもの?
その言葉に冷汗が一気に吹き出る。
いきなり女神が悪魔に見えた。
「お気遣いありがとうございます。スペースオペラを体験できるなど夢のようです。ご期待に沿えるかどうかはわかりませんがぜひ挑戦させてください」
背筋を伸ばし頭を下げる。
「嬉しい、そういってもらえると信じてた」
仕方あるまい。
誰にだって死ぬ前には処分しておきたいものの一つや二つあるだろう。
見られたら死んでも死にきれないそういった類だ。
もしも死んだときに悪魔が現れて黒歴史を消してくれるというのなら、そりゃあ地獄にいくだろう?