#184 ポーラ・アラカルト 5
ポーラ視点です。
「ワンピースのよく似合ってる子がいるなと思って近寄ったら、めちゃめちゃかわいい子発見!」
宇宙船を降りる前に船長から服を変えておけと言われて、いつもの修道服ではなくカグヤさんとレーティアさんの見立てで薄い黄色のワンピースを着せられました。
初めての服装に自分で違和感がありつつも船を降り、レオンさんとどう接触しようかと思っていたところに当の本人がいきなり声をかけてきました。
キャプテン、すごいです。
「お嬢さん、ちょっとお話しませんか? 俺はレオン・ヒイラギ」
初めまして、私はポーラ・アラカルトと申します。
「うんうん、名前もかわいいね。でもポーラ・ヒイラギだともっと素敵になる、そう思わない?」
へ?
この人いきなり何を?
「ハハッ! ジョーク、ジョーク。そこは『やだもお』って顔を赤らめるか、『はい喜んで』っていう場面だってば」
あの、……おっしゃっている意味が分からないのですが?
「うんうん、そうだね。とりあえずお互いにまず知り合うことから始めなきゃね。まずはその辺でお茶でも飲みながら話そうよ。ね」
と私は手を引かれるままカフェに入ります。
「あのさ、君見たときに思ったのさ、今声をかけなきゃ一生後悔するって。だからちょっと強引だったかもしれないけど許してね、でも俺も必死でさ。なんてこう見た瞬間こう付き合いたい! って気持ちがわいてね」
……あのもしかして私はナンパされているのでしょうか?
「ナンパ? ちょっと違うよ。そんな軽いものじゃなくて真剣な告白しているんだよ、これがまた」
と軽い口調でおっしゃいます。
「好きになった女の子には告白を! それが俺のポリシーでね。でもね、それはもちろん付き合いたいんだけど、それだけの意味じゃないんだ。女の子は告白されて綺麗になる生き物だろう? 俺はその手助けをしたいんだよ。もちろん付き合いたい、それは本心だ! マジで、マジなんだよ。でもね、もしも俺の思いが通じなくても、それで君がさらに綺麗になれば、それはそれでこの出会いに意味があったのだと! 一つだけでも俺が好きになった君に何かを残せるならそれでいいと。……でも本当は君と付き合いたいんだよ!」
本当にこの人何言ってるんでしょうか?
あの聞きたいことがあるんですが?
「うんうん、何でも聞いて。ポーラちゃんの質問になんでも答えちゃうよ」
彼女がというか婚約者がいらっしゃいますよね?
「え~なんでそう思うの? 俺ポーラちゃん一筋なのに」
この星ではまだ確認していませんが、クリドリとガーランド、グルドニアでは確かにいらっしゃいました。
「あれ? 君も宇宙船乗り? そっかー。でも聞いて、俺はその子たちとはもう別れているから」
ですが!
「よし、こうしよう。見てみて。この端末」
レオンさんは腕の端末にアクセスし、女性の名前のアドレスを複数表示します。
「はい、どーん!」
とレオンさんはいきなり、何のためらいもなくアドレスを全消去なさいました。
いったい何を?
「これで俺はその星に行ってももう連絡も取れない。別れているからもう必要がない。だから消した。つまり俺はフリー。だからポーラちゃんと付き合う、OK?」
ちょっと待ってください!
貴方一体何を言ってるんですか?
「だってポーラちゃんが嫉妬して消せって言ったでしょう?」
言ってません!
「え~、でももう消したんだよ? これがないと俺は誰にも連絡取れないんだよ? だからポーラちゃんは俺と付き合う義務がある、OK?」
ありませんし、ありえません!
「じゃあ返してよ、ほら、できないでしょう? だったら付き合おうよ、……わかった、ずっととは言わない。今日一日だけでもさ」
グルドニアのベルベットさんのアドレスなら持っています。
「ベルベット……グルドニアの、あいつか」
一瞬レオンさんの顔が曇りました。
「あいつちょっと勘違いしてるだけだよ。俺とあいつは付き合ってもないよ」
嘘です!
結婚の約束して、結婚資金を稼ぐと旅立ったまま帰ってこないと泣いておられました。
「ポーラちゃんもあいつと話したんでしょう? だいぶ頭がおかしい子だったろ? 俺もあいつには本当に苦労してさ、マジ大変だったんだよ。なにせ浮気を疑われた時に正直に浮気をしていると言ったんだよ、でも嫉妬を煽るためにわざとそういう風に言うと信じない。支払いを頼んだら何でも買ってくれるし、借金しろって言ったらマジでするし、夜中に酒飲んで帰った時に叩き起こして正座させて朝まで説教しても俺のことを愛しているって言うんだぜ? マジおかしくない?」
ちょっと待ってください、なんでそんなことをしたのですか?
「そりゃあかなり重かったから、そろそろ別れたいと思ってさ。だから嫌われようと思って」
嫌われてどうするんです?
「別れようって言ってもらおうと思って。ほら、俺って傷つけるより傷つけられたいタイプだからさ」
ちょっと待ってください!
あれだけベルベットさんを、いえ他の星の女性もですが、傷つけておいて何を言っているんですか?
「何って? 俺は最初から金がないことも浮気をしていると正直に言っているのに、それでも付き合ってくれたんだよ? 誠意ある行動をしてるだろう?」
そういうのは誠意とは言いません!
「じゃあ何? できないことを我慢して生きるのが誠意なの? 自分を殺して? それは違うことない? 人は自由に生きなきゃ」
ですがそれではあなたは自由かもしれませんが他の女性は苦しみます!
「そうかな? でも俺と付き合って好きだって楽しそうに喜んでるんだからよくない?」
よくありません。
ちょっと待ってください。
この人何言っているんですか?
なんでこんなに話が通じないんですか?
「まあまあ、ポーラちゃん落ち着いて。ならこうしよう。俺はまじめに生きるから付き合ってよ」
この流れでよく言えますよね。
「言えるよ。だって俺ポーラちゃんのこと好きになったからさ」
信じられません。
さっき会ったばかりですよ。
「恋に落ちるのは一瞬だよ。好きだよ、ポーラちゃん。だから、とりあえず付き合ってみよう」
ちょっと待ってください、私はあなたがなぜ女性にひどいことをできるかを聞きに来たんです。
「だから俺はまじめに生きるよ。それを証明するから付き合おうよ」
信じれません!
「悲しいね。男と女は、いや人間ってのは信じることから始める生き物なんだよ」
あなたの口で正論を吐かないでください。
「まあまあ少し落ち着きなよ。大きく息を吸って、吐いて、吸って。ほら、落ち着いたら俺のことを好きになったでしょう?」
なりません!
いい加減に……。
「あれ? 殴っちゃう? いいよ、殴っても。でもその代わり慰謝料として付き合ってよね」
私が思わず頬を叩こうとした瞬間レオンさんは笑ってそう言います。
こういうことに慣れているのでしょう。
殴ったところで彼の行動は変わらないのでしょう。
「う~ん、困ったな」
こちらのセリフです。
もうどうすれば……。
あまりの歯がゆさに涙が出そうになります。
キャプテンならどうするでしょうか?
話をうまくそらして自分のペースに持ち込むのでしょうが……、あれ? 私はいまレオンさんに話をそらされまくってペースをかき乱されているのではないですか。
この人はキャプテンと同じようなことをしているのでしょうか?
……いえそんなはずはありません、キャプテンは口では自分のことをダメ人間と言っておられますが心根は誠実な方です。
この人のように誤解だ、自分は悪くない、と何を言っても聞く耳を持たない人とは違い、ちゃんと話を聞いた上で対策案を提示しています。
似て非なる存在です。
もしかしたらこの人に悪意はないのかもしれません。
ですが誠意もありません。
自分のことしか頭にないタイプではないでしょうか?
……なんで皆さん、こんな人に恋をしたのですか?
「すまない、お兄さん。ウチの子からかうの、その辺にしてくれるかな?」
私の後ろから聞きなれた声が聞こえます。
振り返るとそこにはキャプテンがいらっしゃいます。
かなりの部分が実話。
書いてて友人の声で変換されて嫌になりましたw
さて主人公、作品の根幹にダメージを与える行動をしちゃいましたw
いまにして思えばこういうことをした回を200話に持っていくべきだったなあと。




