#183 ポーラ・アラカルト 4
ポーラ視点です。
惑星クリドリでシン様とお別れして20日後に私たちも出航しました。
引きこもりから出てきたわりに、どこか疲れた顔のキャプテンがシン様の件を、
「まあ何とかなるだろうよ」
と気楽に言っていましたが本当に大丈夫でしょうか?
確かにキャプテンのおっしゃる通り、騙したわけでもないのですが……。
2人きりでいる際にシン様はキャプテンのことばかり訊ねてきましたので、相当慕っていると思いますが?
「10代の経験が浅く、家族が死んで心が弱っていた子だからな。まあ国に帰って落ち着いたら少しは考えも変わるよ」
そうでしょうか?
キャプテンはシン様のことをお好きではないのですか?
「この歳になると好き嫌いという感情よりも、その後のことまで考えるからな。父と兄が死んで唯一生き残った皇女という立場を考えると気楽に誰かを簡単に好きといえる立場じゃないだろう。そのことにあの子もすぐ気がつくだろうさ。まあ今度会ったら何も知らない顔でいるのがいいんじゃないかな」
それではシン様のお気持ちは?
「まあ立場で自戒するだろうよ」
しかしそれでは!
「人の惚れたはれたなんてそんなもんだよ。自分の気持ちを優先するか立場を優先するかなんて人それぞれだしな。それにお前は俺にどうしろと? シンと恋仲になってあいつの国で住めというのか? それとも立場ある皇女をこの船にさらえとでも言うのか?」
……いえ、そういうわけではありません。
ですがキャプテンの言い分が正しいとも思えなくて。
「あのな、ポーラ。お前の言いたいこともわからなくはないんだよ。でもな人の恋愛は『ああそうなんだな』『そういうこともあるよね』と聞く程度がいいと思うぞ。まあお前の理想と照らし合わせて違うと思うかもしれないけど100人いれば100人の恋愛観がある。いちいち首突っ込むなといいたいがね」
船長のおっしゃることは確かに正しいとは思うのですが……。
私はどういったらいいのかわからずに口ごもってしまいます。
「というかな、俺程度を説得できなくてレオンにこれから会おうって言うんだから俺は先行き不安だよ。たぶんあいつは俺よりひどいぞ。……今からでも遅くない、諦めないか?」
いえ、行きます!
行かせてください!
どうしてもあの方が何を考えているのか知りたいのです!
「大したこと考えてないと思うけどな、きっと」
キャプテンはつまらなそうに頭をかきます。
「まあなるべく早めに帰って来い」
「船長、そこはもう少しアドバイスをするところでは?」
カグヤさんがすかさずフォローしてくださいます。
するとキャプテンはうーんと悩みながら、
「そんなこと言ってもな。……あいつとは長話するだけ無駄だな。きっと訳が分からなくなるからな。相手のペースに乗せられないと思ってはダメだ。ああいう人間と話すこと自体がペースに乗ってるようなもんだしな」
とよくわからないアドバイスにレーティアさんが、
「マスターと今まで話してた人もそう思ってるんじゃないの?」
「そんなことはないだろう? 俺は最初から騙そうとは思ってないわけだし」
「結果的に騙されてるのだから同じじゃない」
キャプテンの交渉力は管理頭脳のお二人でさえ認めるところです。
そんな人が会うなという人に会おうとするのはきっと愚かなことなのでしょう。
ですがどうしても話が聞きたいのです。
「まあそこまでの決意されてるからもう止めるのはあきらめるがね」
申し訳ございません、キャプテンのご厚意を無駄にします。
「まあいいさ、行ってきな」
はい。
惑星クリドリから10日、惑星バトロに到着しました。
シン様はこの惑星に立ち寄らずにすでにゲートに向かったそうですが、宇宙港には一隻の宇宙船が停泊しています。
レオン・ヒイラギさんはこの星に滞在中なのです。
念の為にレーティアさんも連れて行けとキャプテンはおっしゃいましたが、お断りしました。
これは私が勝手にしたいと思ったわがままだからです。
それにレーティアさんだとうまくフォローしてくださると思いますが、それでは自分のためにはなりません。
これは一つの試練だと思っています。
未知なる人の感情を知ることは私が乗り越えるべき壁なのではないでしょうか?
蒼龍様、見守ってください。
ポーラはこれからあなたの試練に挑んでまいります。
ポーラの話をあと2話続けます。
今回は導入部ということもあり少し文章短いですが、明日から少し長いかな。
どうにもこの子は話を切りにくい。