#181 進路相談 前編
お待たせしました、ようやく再開できます。
シンが出航してから5日、確かにカグヤは約束通り引きこもらせてくれた。
だがきっかり120時間で俺を部屋から出すのはひどくないかな。
世の中にはロスタイムというものがあってだな。
「約束は守ったのだから文句を言わないでください」
もう少し余韻に浸りたい。
そんなことを思いながら艦橋に行く。
なにやら通信が入っているというのだ。
モニターに映し出されたのは2人。
とても若い母親が12歳になる息子のことで相談があるという。
何で俺にと思っていたのだが、
「ですのでウチの子を宇宙船の船乗りにしたいのです!」
大きな身振りで俺に訴えかける母親、そしてその隣でめんどくさそうにしている少年。
温度差を感じるんですが?
「閉鎖環境の訓練はさせていますのでそれはいいんですが、問題はゲートです! ゲート突入はコツが必要ですから」
まあそうですね。
「ですので現役の方にレクチャーしていただきたい、そう思っています!」
ゲートのコツをレクチャーねぇ、さてどうしたものか。
適当にあしらってもいいんだが、つい最近女神がこの星のドラゴンにノルマを課したところだからな、ここで俺が下手なことをすればまだドラゴンネットワークは大炎上だろうか?
カグヤをちらっと見るとお願いしますと手を合わせている。
まあ仕方ないか。
さて少年、宇宙は好きか?
「大好きです!」
いや、お母さんに聞いたんじゃないですよ?
「でも船長さん、宇宙の嫌いな人がこの世にいますか?」
まあそれなりにはいると思いますけど。
「無限に広がる漆黒の大宇宙! 煌めく星々! 他星の人との出会い! そこから始まる冒険の日々! ……ああ、なんてロマンがあふれてるのかしら」
なんか陶酔して語りだしたぞ、おい。
「すみません、お母さんこうなると長いんです」
息子がすまなさそうに謝る。
そうか、苦労してるんだな。
てか俺、つい最近似たようなキャラに出会った気がするよ。
「奇遇ですね、私もです」
と冷や汗をかきながら同意するカグヤ。
中身が一緒とか言わないよな?
「さすがにそれはないです」
そうか、宇宙は広いな。
似たような人間がいるんだ。
「まったくです」
とため息をつくカグヤ。
「すいません、ちょっと熱くなって語っちゃいました」
5分以上熱弁された後にテヘペロとかわいく言われてもこっちは乾いた笑いしか出ませんよ。
さてなんか不安になってきたので聞きますが、息子さんの閉鎖環境の訓練ってどうやっていますか?
「えっと普通に家から出さないだけですけど」
おいこら、やめろ!
それは子供には危険だから!
「え、でもサークルのお友達は幼少期からそうやって育てるのが一番だって」
なんだそのサークルは?
「『スペースオペラ友の会』ってサークルに入ってるんですよ」
だせぇ!
てかどこぞの女神が創始者じゃないだろうな?
それはさておきお母さん、子供の教育にそれは少々弊害があります。
子供は適当に外に出していろんなものに興味を持たせないとダメですよ。
「ですが!」
閉鎖環境なんて後からでもなんとかなるもんですよ。
例えば俺なんかは逆ですよ、普段から家に帰れない生活をしていた。
朝の5時に起きてスマホゲーやネトゲのログインボーナスを回収。
6時ごろから支度をはじめ、6時半には家を出て7時に出社。
8時の始業前までにメールチェックに段取りをはじめる。
12時の休憩にパンをかじった後少し仮眠してそれからノンストップで21時まで働き、その後スーパーで半額弁当を買って帰宅。
これでも21時には帰れるようになったから働き方改革様さまである。
おかげで風呂の後、酒飲みながらアニメ、ネット巡回をこなすという人間らしい生活をした後、倒れるように眠る日々。
そんな生活を何年もしてみなさい、そりゃあもう家から出たくないと引きこもりにもなります。
「……はあ」
だからね、閉鎖環境なんてのはそこまで重要ではないですよ。
まずは宇宙に興味を持ってもらうことからはじめましょう。
「大丈夫です! 宇宙は大好きです!」
お母さんはね。
少年はどうだい?
「…………」
母親がせかすが息子は黙っている。
お母さんは少し黙っていて、少年よ、今正直に言っておかないと面倒くさいことが続くぞ。
「あんまり……好きじゃない」
母親が目を真ん丸にしているが、それはそうだろうよ。
宇宙が好きと語られるくらいならともかく、息子を宇宙乗りにすべく部屋に閉じ込められたりしていたら好きになれまいよ。
信じられないという母親だが、遊びたい盛りの子供との温度差が大きすぎる。
まあお母さん、落ち着いて。
宇宙ってのはもちろん適性が必要ですが、一番大事なのは本人のやる気なのですよ。
何せ宇宙で一回航海で数ヶ月一人ぼっちだ、そりぁやる気が最低条件です。
イヤイヤやらされたって心が病むだけですよ。
「ですが私にできなかった夢を息子に託したいのです!」
良くある話だけどさ。
ちなみにお母さんは宇宙船乗りを目指したことが?
「ええ、もちろん。ですがどうしてもゲートが突入できなくて」
ああ、ならお母さんに耳寄りな極秘情報を。
ゲートの自動突入システムが開発されました。
早ければ今年中、遅くても10年以内には実用化され、宇宙乗りの規定も変わることでしょう。
「本当ですか?」
今クリドリのドラゴンが必死こいてやっているんじゃないかな。
10年で20人はなかなかに難しいだろうが、調整室送りになるまいと焦っていることだろう。
ですのでお母さん、宇宙への夢、もう一度チャレンジしてみたらどうでしょうか?
もちろん、お子さんを育ててからですよ。
愛情をかけ、育てましょう。
立派に独り立ちさせて、親としての責任を果たした後に夢を追いましょう。
その母の背中に息子さんは宇宙の素晴らしさを感じることでしょう。
次世代を育てるというのはそういうことではないでしょうか?
100の言葉を雄弁に語るのではなく1つの行動で示すのだと。
「それはそうですね。素敵な未来な気がします」
ですのでまずは自分で宇宙を目指しましょう。
子供に夢を託すことはないですよ。
まだあなたをスペースオペラの女神は見捨ててないですよ。
きっとスペースオペラにようこそと両手を広げて待ち構えています。
「だと嬉しいです……スペースオペラの女神ですか、とっても素敵な方でしょうね」
と、うっとりとした顔でいう。
きっとあなたにとっては素敵でしょうね、と震えるカグヤを横目で見て同意する。
でもね、本当はた迷惑な女神なんですよ、あの方。
「ちなみにこの情報って秘密なんですか?」
どうかしました?
「私のサークルのお友達に教えてもいいのかなと思いまして」
構いませんよ、……ちなみにお友達にもゲートジャンプができないだけで宇宙乗りをあきらめた人がいますか?
「私を含めて7、8人くらいでしょうか」
全部宇宙船乗りになっても目標の半分もいかないが、まあ上出来だろう。
「あと繋がりのあるサークルに『LOVE! 星の煌めき』ってのがありますけど、こちらは他星の民芸品だの工芸品を収集するサークルですので自ら宇宙に出たいという人は少ないみたいですけど」
まあコレクターの集まりってのはあってもいいんじゃないかなとは思うが、もうちょっと名前を考えたらどうだろうか?
「あと敵対サークルに『スぺオペ愚連隊』っていう、砲撃戦こそが宇宙船の華だと思っている過激派がいます」
物騒だな。
だがそいつらが一番女神の恩恵を受けそうなんですが。
仕事もバタバタしてますが、家のことでちょいトラブルが起きて少し困ってるところです。
今後も時々更新できないかもしれませんがご容赦ください。
今回の話は書く予定がなかったクリドリのその後です。
出張中にネタが浮かんだので急いで仕上げました。
文量が長くなったので分割します。