#179 復讐を誓う皇子と怠惰なドラゴン 11
なんだこれ?
カグヤとジュメルを伴って食堂に戻るとシンが涙を流している。
お前、王族が涙を見せてはいけないとか言ってなかったか?
食堂で泣きすぎじゃね?
で何があった?
「あ、キャプテン。えっと、その……」
「皇子とポーラ姉の魚談義が始まって、生で食べる食べないの話になって、そこから生は無理でもブリしゃぶみたいに湯通ししたらどうかと言う話になって、ブリやらタイを食べたらこうなって」
意味が分からん。
「こんなに簡単なことでこんなにおいしくなるのなら、私でもやれる」
ああそういう意味ね。
シンよ、心配するな。
お前はもう食に関しては心配しなくても、いや食以外の生活ももうひと安心だ。
ジュメルを説得しておいたからこれからは従順だ。
国まで楽に帰れるぞ。
「本当か? ジュメルは何をどんなに頼んでもできないの一点張りだったが?」
「シンビオス様、キャプテンを信じてください!」
「そうだよ、ウチのマスターは意味不明な交渉力があるから余裕だよ!」
ポーラ、レーティア、申し訳ない。
今回は俺ではない。
だがあんなことを馬鹿正直に話せるわけもなく曖昧な笑顔で誤魔化す。
ではレーティア、状況報告を。
「食料はピンクの予備機さえおいておけばまだ使えるものもあるので、少ないものを補充するように手配したよ。あと修理箇所もあるから今、ウチのウサギたちに行ってもらっている。ついでに壊れた生活用の管理頭脳も直しておくからこれで国までは十分のはずだよ」
だそうだが、ジュメル。
「確認しました。ご配慮感謝いたします」
モニターの中で丁寧に頭を下げるジュメルにシンは驚愕の表情をする。
「……重ねてあと一点お願いしたいことが」
なんだ?
「護衛用の管理頭脳もお貸しいただけませんか?」
必要か?
「国にもどって船から降りた直後から数日の間が危険かと。最悪暗殺の危険を考慮するべきかと」
なるほど。
「おい、本当にジュメルか? 積極的に我のことを心配するなんて!?」
お察しの通り別人ですが。
「レーティアさんもおっしゃいましたがキャプテンの得意技です。何でもすぐに事態を好転させてくださいます」
ポーラ、ハードルあげるな!
今回に限っては本当にいたたまれない。
レーティア、護衛用の黒ウサギを一体出してやってくれ。
「オーケー。でも暗殺の危険があるならついでにオレンジもつけようか?」
オレンジって前も存在は聞いた気がするがどんな役割なんだ?
「特殊工作用かな」
「日本でいうところの忍者のように隠れて調べものをしたり裏工作をするウサギです」
そんなのがいたのかよ?
「船長が惑星に降りて、もしもさらわれたり、陰謀に巻き込まれた時の為に用意していたのですけどね。本当に仕事がなくて」
そういやこの前の花見の時さえ金魚すくいの店番ができずに待機になってたとか言ってたやつか?
「そうだよ。マスターと一番縁遠いんだよ」
「かわいそうに、ウチで一度も活躍しないうちに放出されるとは、……船長が引きこもりでさえなければ」
「ホントだよね」
平和なことはよきことだろうに、なぜ俺が責められる。
「それをさっき艦橋にいたときに言ってくだされば」
いや地上のゴタゴタなどどうでもいいと言うのではないかな?
まあいいや、じゃあオレンジもつけとけ。
「感謝します」
頭を下げるジュメルに逆に狼狽するシン。
「しかしアキラよ!」
いいから、気にするな。
お前は特に悪いことしてないのに人生のドン底味わっているんだ。
たまには何も良いことしてないけどトントン拍子で好転したってバチは当たるまいよ。
……まあバチを与える存在は今ごろ旧ジュメルにバチを与えているだろうけどな。
「――アキラ、感謝する」
レーティア、あとは必要なものは?
「金目のものかな? 国までは十分に持つように物資は積み込んでおくけど、不慮の事態を想定して、どこかで補充できるようにするために交易用のものがあった方がいいかな」
「いや、そこまで世話になるわけには」
元々交易用の宇宙船でないため商材などなく、ここまで内装を切り売りしてやって来たらしいからな、まあもしもの供えは必要だろう。
カグヤ、貴金属を出してやってくれ。
惑星パールで買った真珠はまだ大量にあるんだろう?
「それはあるのですが……」
「真珠!」
少しいいよどむカグヤに、真っ赤になるシン。
どうした?
真珠はダメなのか?
「いや、いただけるのであれば……嬉しい」
下を向きながらモジモジと言う。
なんだろうか、カグヤのじとっとした目線からも少しイヤな予感もするが、今さら取り下げることもできまい。
というか、さっきのバタバタでもう疲れ果てた、休みたい。
他には何かあるか?
「急ぎは終了」
じゃあひとまずお開きにしよう。
カグヤはジュメルと今後の打ち合わせをしておいてくれ。
ポーラとレーティアはシンの世話を。
シンは宇宙船が修理済むまで泊まるといい。
と一気にいい放ち、返事をそこそこに部屋を出る。
もうマジ無理、引きこもりたい。
……なんだ白ウサギ、もう俺は部屋に戻るんだ、止めてくれるな。
え?
酒を部屋に運ぼうかって?
……本当にお前だけだ、俺が頼れるのは。
女神のせいでお忘れかもしれませんが今回のゲストキャラはこっちですw
明日でこのシリーズは終了します。
この後に予約投稿しておきます。
今後の予定ですが、水曜から二泊三日で出張となりました。
申し訳ありませんが、明日の投稿後、次回は最短で土曜となります
ご容赦ください